*Short Story*
□リミッター
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「好きです!苅谷先輩!!」
ある日、ひとりの少年が、少女に思いを伝えた。
「付き合ってくださいっ!!」
精一杯の想いを込めて。
「……」
少女は静かにうなずいた。
驚くほどあっさり、少年の恋は実ったのだった──。
「先輩、のど渇いてないっすか?」
美紅先輩の顔を覗き込みながら、僕は問いかける。
「……」
先輩は軽く首を横に振ると、ゆっくり席を立った。
「あれっ、どこ行くんすか?」
慌てて僕は追いかける。
「…呉羽(くれは)くん」
「はい」
僕の名前を呼んで、美紅先輩は振り返った。
「あんまり付きまとわないで」
叱るように言いつけて、彼女は再び歩き出す。
それでも、僕は付いていく。
「……」
「………」
僕の彼女、苅谷 美紅(かりや みく)先輩はとってもクール。
頭が良くて、スポーツもできて、美人。
最高じゃないかって思うけど、みんなは違うって言う。
──彼女は冷たすぎるって。
「…そんなことないのに」
先輩は、とっても可愛い人なんだ。
みんなが知らないだけで。
でも、僕は知ってる。
ずっと見ていたから、入学した日に一目惚れしてから。
そして、先輩が隠してることも知ってる。
──本当は、
「あ、そのストラップ、新しく買ったんすか?」
僕は鋭く美紅先輩の携帯に付いているストラップに目をつけた。
「!?」
先輩は驚いたようにそれを隠す。
「隠さなくてもいーじゃないすか、俺は全然気にしませんし」
彼女が隠したのは、僕の知らないアニメのストラップだ。
僕はあまりそっちに詳しくないから、話はできない。
けど、先輩がアニメ好きだってことは前から知っていた。
だけどそれが、こんなに面倒なことに繋がるとは思ってもいなかった。
「……先輩」
今日も僕は、思い切って先輩に訊く。
「僕、先輩とキスしたい」
「無理」
「えぇー、もう付き合って1ヶ月っすよ!?」
そろそろキスの一つや二つ、してくれたっていいのに。
先輩は、絶対僕とキスをしてくれない。
その理由はただひとつ。
「3次元とは無理」
先輩には、アニメの中で大好きなキャラクターがいる。
僕はそのキャラクター以下。
名前を「凪(なぎ)」というそのキャラクターは2次元。
僕はリアルだから3次元。
…という、よく分からない理由で僕は彼女とキスできない。
手をつないだり、抱きついたりするのは許してくれる。
だけど、どれだけ隙を狙っても、唇は奪えない。
それでも僕は、今日も先輩にキスをせがむ。
「僕、絶対その『凪くん』より好きになってもらいますから!」
美紅先輩と僕の間にある、超えられない一線。
応えない敵に宣戦布告して、僕は先輩の両手を握る。
「…何?」
先輩が怪訝そうに顔を歪めたとき、
─キーンコーンカーンコーン…。
校内に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「やばぃ、次体育だ!」
僕はしぶしぶ先輩の手を離して駆け出す。
「じゃあ先輩!また放課後!絶対一緒に帰りましょうねっ!!」
「……」
走りながら振り返り、手を振ると先輩も手を振ってくれた。
…嬉しい、嬉しすぎる。
僕は今、とても幸せだ。
だけど、まだまだ足りない。
美紅先輩と作る幸せは、もっと──。