*Short Story*

□二番目の停車駅
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「やー疲れたなー」
「腰いてぇ」
「おっさんか!」

入学式を終え、俺たちは教室へ移動していた。

知らない顔ばかりで、落ち着かない。


「ねぇねぇ、メアド交換しよー」

俺たちの近くを歩いていた女子二人組が、明るい雰囲気で駆け寄ってくる。

正確には、片方がもう片方を引っ張ってきている感じだ。

「いーよいーよー。な、翼」
「いや、俺は…」

…そういう気分じゃない、と言いかけた俺の脇腹に、

「じゃー俺から送るな」

笑顔のままの朝真の肘がめりこむ。

「…てめぇ」
「いーじゃんか、新しい恋見つけとけよなっ」
「……」

朝真は、俺と希美が付き合っていたこと、別れたことを知っている。

そして、他人の色恋沙汰で騒ぐのが大好きなやつだ。

…まったく、面倒な奴と同じ高校に入ってしまった。


「鶴橋くんと、そっちは洲桜くんだね。ありがとー」
「オレのことは朝真でいーぜ」

なし崩しのように、俺のケータイに『白取 小町(しらとり こまち)』という女子のアドレスが入った。


卒業までに、一体何通ほどのメールを交わせるだろうか。
きっと一ヶ月ほどで忘れてしまうに違いない。

「あんたも交換しなよ、望(のぞみ)」
「!?」

脳裏に焼き付いて離れない名前が、耳にキンと響いた。

違うと分かっていても、目が勝手に、彼女を映したがる。

「嫌」

小町の誘いを軽く突っぱねた、長い黒髪の女子生徒。

細い目に、大きめの黒目。
そして、一重の割に長いまつげ。

俺の知っている『希美』に、そっくりだった。


「知らない奴とアドレスなんて交換したくない」

彼女は心底嫌そうな目線をこちらに向けると、すぐに背を向けて去っていく。

「ちょっと望!…ご、ごめんねっ」

小町は顔の横で軽く手を合わせて謝ると、望を追いかけて行った。

「うわっ、きっつい性格してんなー。希美ちゃんとは大違い」
「……そうだな…」

俺は、生返事しか返すことができなかった。

希美によく似た、望と呼ばれた女子生徒。


…良かった、似ていない。


あれは希美じゃない。

朝真の言うとおり、希美は彼女とは対照的な性格だ。

温厚で、誰かを冷たくあしらうことなんてしない、人の睨み方も知らないような奴。

それが、俺の中の『ノゾミ』。
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