*Short Story*
□水鏡-ミズカガミ-
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「じゃーなー、キョウ」
「おーぅ」
山の麓の田舎町。
少し歩けばそこは森の中。
流れる川沿いが彼の下校ルート。
田んぼだらけで見通しの良い道を歩く、高校二年生。
由瀬 利鏡(ゆせ りきょう)、17歳。
生まれてからずっとこの田舎で育った。
これからもしばらく、都会に行く予定はない。
そんな、ごく普通の生活が、これからもきっと続くだろう。
そしてそれが、彼にとっても幸せなことだろう。
利鏡は軽くあくびを漏らしながら川沿いを歩く。
人通りはほぼ皆無、さすが田舎だ。
誰かが通っても必ず知り合い。
散歩中のわんこにじゃれつかれるのも日常茶飯事だ。
「……」
ふと利鏡は、川辺に何が落ちているのを見つけた。
川に落ちるぎりぎりのところだ。
「…?」
なんだろうと思い近付くと、それは何やら人の肌のような色をしていて…。
「!?」
まさに、人の腕そのものだった。
川の中から、人の手が出てきている。
「えぇぇえぇ!?」
───なんだこれなんだこれ!!
利鏡は急いでその腕をつかんだ。
濡れて冷え切っている。
「おい!大丈夫か!?」
引っ張ってみるとかなりの重さがあり、ちゃんと体もつながっているらしい。
「重てぇ…っ」
少しずつ水から体を引きずり出す。
身長は、利鏡と同じくらいだろうか。
髪の長さも、濡れていてよく分からないが同じくらいだろう。
「はぁっ…」
全身を引きずり出し、利鏡は手を放して地面に座り込む。
出てきたのは、白い着物を着た男だった。
「い…生きてる…か……?」
うつ伏せた男を揺すってみる。
「う……」
すると、男の体がぴくりと反応した。
「 ……」
男がむくりと体を起こし、利鏡の方を向く。
「!?」
その瞬間、利鏡は愕然とした。
男の顔が、自分と全く同じだったから。
「え…なっ…え?」
似ているなんてレベルじゃない、瓜二つどころか鏡写しのよう。
ただひとつ違うのは、彼の右頬の紋様。
蒼い花弁がいくつか、スタンプを押したように描かれている。
「…ありがとう」
利鏡と同じ姿をした男が頭を下げた。
「は…」
「手を、取ってくれてありがとう」
再び上げられた顔に、利鏡は釘付けになる。
どこか神々しい雰囲気を放つ男。
どうして彼は、自分と同じ姿をしているのか。
「僕は、スイ」
「……」
───俺が"僕"とか言ってる…。
微妙な違和感と、しっくりこない感じが気味悪い。
「…利鏡だ。キョウでいい」
「キョウ…」
スイは何だか嬉しそうに微笑んだ。
「おまえ、なんで俺と同じ顔してんだよ」
少し落ち着いてきた脳みそで、やっと尋ねることができた。
「……水鏡(みずかがみ)」
けれどスイは、小さくそう呟くだけだった。