Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~

□第一章
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寒いだけの年明けも、凍てつく空気も。

感じる度に、寂しくなる。



──何かをずっと待っているような。


   大切な、何かを忘れている。


思い出したいのに、断片すら見えない。



 記憶にない思い出を探すような感覚。






「──………」


騒がしい朝の学校。

校門をくぐると、同じ制服を着た生徒たちばかり。


その中を、天那はひとり悩みながら歩く。


毎年冬になると感じる、この懐かしさのような何か。

これは一体、何なのだろう…。




「おはようございます、天那さん」
「あ、おはよう」


昇降口へ行くと、生徒のひとりが天那に話しかけてきた。


「何か考え事でも?」
「え?あー」


心配そうに尋ねてくる彼は、依草 怜祥(いぐさ れいしょう)。

天那のクラスメイトだ。


黒くて真っ直ぐな髪に、優しそうな整った顔立ち。

気も利いて人当たりのいい彼は、とてもモテる。

…彼自身は、全く気付いていないが。



「なんか…冬になると、思い出したくなるの」
「…なにをですか?」
「分からない、知らないけど、思い出したい」

言いながら、天那は少し微笑む。

口にすると、とてもおかしな話だ。


「………」
「…依草くん?」

天那の話を聞いて、怜祥は少しの間放心していた。


「…天那さん」


怜祥はささやくように名前を呼んで、そっと天那を抱きしめる。


「!?!?」


寒さが吹っ飛ぶくらいの驚きで、天那は息を吸った。

周りの視線が、自分たちに注がれている。

恥ずかし過ぎて、顔から発火しそうになった。

「いっ…依草くん!?」
「……」

怜祥は、包むように優しく触れて──。


「──待っています、だから、どうか無事に」


祈るように、天那の耳元で漏らす。

その声は、どこか寂しそうだった。


「…れい…しょう…」


無意識に、天那は彼の名前を呼ぶ。


「…!!」


一瞬、何か思い出しそうになった。

でも、やはり記憶は真っ白なまま。


「天那さん」


ゆっくりと体を放して、怜祥は微笑む。


「………」


…この人を、あたしは知ってる。


遠い昔、それこそ生まれるずっと前から。


だけどやっぱり、思い出せない───。



 
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