Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~

□第一章
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鳴り響く始業のチャイム。


天那は未だ若干頬を赤らめたまま、席に着いた。

斜め前の席の怜祥が、気になって仕方ない。


男子に抱きしめられたことなんて、今まで一度もなかったのだから。


「〜〜っ」

恥ずかしくなって、天那は机に伏せた。


…あぁ、絶対また顔赤くなってる。




「えー、今日は転校生を紹介する。入れ」

担任の一言で、教室がにわかに騒ぎ出した。

「…ちょ、なんかかっこいい!」
「私も思った!」

近くの席の女子生徒たちの声が耳をくすぐる。


「……」

できれば顔を上げたくないけれど、そんな会話を聞くと…。

…気になる。



「高海 煌(たかうみ きら)です」

黒板の前に立って、転校生は軽くお辞儀をする。


細い栗色の跳ねっ毛に、転校初日から着崩された制服。

大きめな瞳が曇って、どこか寂しげな少年。


「……」

教室の生徒たちを見渡した彼の目が、天那の目と合った。


「天那っ」

その瞬間、煌はかばんを放り出し、天那に向かって駆け出す。

「!?」


…今日のあたしは、おかしい。


初対面なはずの、転校生。

なのに、ずっと前から知っていたような気がする。


今日はこんな感覚ばかり。

怜祥のときと似ている、懐かしさ。




天那は無意識に立ち上がっていた。

そして、何かを求めるように煌に向かって手を伸ばす。


「──天那!!」


直後、天那の体は強い力で抱きしめられた。


「…!!」


彼に向かって伸ばしていた手は驚きにかき消され、触れることなく垂れる。

どうして手を伸ばしたのかも、今の天那には分からない。

…ただ一瞬、心の底から煌を求めていた。



──なんで。



…なんでみんな、いきなりあたしを抱きしめるかなぁ!?


頭の中が混乱しすぎてショートしそうだ。

それに、ここは人がまばらな朝の昇降口でなく教室。


……さっきよりギャラリーが多い!!


きっと今日は、自分だけじゃなくてみんなおかしい日なのだと思った。



「…天那」
「……」

驚きが、少しずつ煌の腕の中で和らいでいく。


まるで愛しいものを守るかのように、彼は天那を放そうとしない。

痛いくらい強く、抱きしめる腕。




──なんで、初めて会った人なのに。



   こんなにも、懐かしさで溢れている。



  でも…思い出せない。



   誰なの、教えて、分からない───。



     どうして、こんなに涙が溢れそうなの───



 
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