Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~
□第三章
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「……」
糸が切れたみたいに、体中の力が抜ける。
心臓だけが、うるさく激しい鼓動を打っていた。
「はぁっ…」
天那は力なく地面にへたり込む。
少し離れた場所で、刀を鞘に納めた少年がこちらを向いた。
──刀、誰でも持ってるんだなぁ。
全く違う常識、人を殺めるための道具。
刀の輝きは鋭すぎて、人間には不釣合いな気がする。
もっと穏やかに生きられる世界にいたからだろうか。
この時代を知らないから、そう思うだけなのかもしれない。
「大丈夫ですか」
少年が天那に歩み寄ってくる。
「っ!」
正直に、彼が怖くて仕方なかった。
刀が数センチの距離まで迫ったのだから。
──でも、この人は、止めてくれた。
それにあの状況、どう見ても悪いのは大柄な男のほうだ。
「…変な格好ですね」
天那を見て、少年は首をかしげる。
「異国の方ですか?」
「日本生まれの日本育ちです…」
震える声でかろうじて答えた。
この質問は、今日だけで数回された。
聞き込みの途中、全員がまず天那の格好を不審がる。
「あの…男の人は…?」
「食い逃げの現行犯ですよ」
…たかが、食い逃げ。
そんな奴に、自分が殺されかけていたかと思うとうんざりした。
「殺す気…だったの?」
「いいえ、脅して捕まえようと」
…嘘だ、殺気ビンビンだったくせに。
口には出さず、天那はただ疑いの目を少年に向ける。
「…本当ですよ」
すこしむっとして、少年は天那の前にしゃがみこんだ。
「傷、大丈夫ですか」
「痛い」
…本気で死ぬほど痛い、ってか熱い。
「ひとりで路地裏なんか歩くからですよ」
「……」
危険な場所だと知らなかったのだから、仕方ない。
それに、この格好で表通りを歩くと人目についてしまうから。
でも、もう絶対一人で歩くもんかと今心に誓う。
「もしかして、死にたかったんですか?」
「…は?」
思わず耳を疑った。
「なんなら、僕が殺して差し上げましょうか」
おもむろに少年の手が刀に伸びる。
「ちょ!待っ…そんなわけないでしょ馬鹿!!!!」
天那は思わずその手を握って静止した。
一気に頭に血が上って、瞳に涙が溢れる。
少年の腕をつかむ手が、震えていた。
「…すみません」
少年はきょとんとしたまま、半ば無意識に謝る。
──あれ?この人…誰かに似てる…?
「すみません、泣かないでください…」
驚いた表情の中に、焦りや不安があった。
「……!!」
黒くて真っ直ぐな髪、整った優しそうな顔立ち。
「…依草、くん…?」
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