Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~
□第四章
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「帰りたいなぁ…」
夕暮れ、永泉寺を出た天那は、ひとり河原にうずくまっていた。
行く当てもなく、ぼんやりと空を仰ぐ。
緋色に染まった、不自然なくらい綺麗な空。
天那の見ていた空とは、同じようで違う。
現代の空は、排気ガスでもっと濁っている。
決して綺麗ではないけれど、今はあの空が恋しい。
いつまでも見ていた空が眩しくなり、天那が目を閉じかけたとき──
「──ぶっ…!?」
いきなり布を被せられ、視界が真っ暗になった。
「なっななな何!?」
驚いて起き上がると、自分に被さっていたのは一枚の羽織だった。
もこもこした布地が、とても暖かそう。
「ったく、どこ行ってたんだよおまえ」
聞き覚えのある声が、真後ろから聞こえてくる。
振り返ると、そこには若草色の袴を着た少年が立っていた。
「…煌!!」
「それ、透留がお前にやるって」
そう言われ、天那は羽織を見つめる。
心なしか、彼の優しさが滲み出ている気がした。
「なんで…」
「透留にお前が出て行ったって言ったら怒られた」
煌があからさまに不機嫌な顔をしている。
「探しに行けって、でないと俺を追い出すとか言いやがった」
「透留さん…」
──なんて、いい人なんだろう!!
感動で涙が出てきそうだ。
「透留さんと煌は兄弟なの?」
顔は全然似ていないけど、仲は良さそう。
そう思って言ったのだが、煌の表情は予想外に暗くなった。
「違う…あいつは、家出した俺を拾ってくれたんだ」
「じゃあ、家族は?」
「透留に身寄りはいない、俺と二人暮らしだ」
めんどくさそうに言って、彼はきびすを返す。
「帰るぞ」
彼の背中は、とても穏やかだった。
だけど、背負う細長い袋の中身は日本刀。
はたから見れば、稽古に向かう少年が竹刀を背負っているように見える。
袋の中身が、その数倍重たいものだとは誰も思わないだろう。
──捨ててしまえばいいのに。
そんな物騒なもの、煌も怜祥も。
けれど、彼らが刀を手放すのは、もう少し先の時代だ。
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