Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~
□第四章
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日の暮れた空に、月明かりが静寂を灯す。
その日の晩、天那は煌の部屋で寝ることになった。
なんやかんや話し合い、結局今に至る。
部屋の端と端に布団を敷き、極限まで離れる天那と煌。
「……」
初めは、緊張で寝れるわけないと思っていた。
男と二人で、というのもあるし…。
何より、夜になると思い出す。
昨晩の、思い出したくない情景が。
「っ……」
「…眠れないか」
背中越しに、声が聞こえてくる。
「安心しろ、お前は殺さない」
「……」
物騒な奴、と思う反面、ほっとした。
疲れのせいか、一瞬でその言葉を真に受ける。
目を閉じると、すぐに眠気に包まれた。
──人里離れた山の中。
御神の里と呼ばれる集落。
…煌の苗字と同じ里だ。
少年がふたり見える。
片方は煌だ、もう片方は知らない。
でも、仲が良さそう。
…ここは、夢?
夢というより、誰かの記憶が流れ込んできているようだ。
情景と感情が、一緒に伝わってくる。
…煌の記憶?違う、これは…。
過去へ来る直前、夢で会った少女の記憶。
『祈っ』
そう呼びながら、煌が笑ってこちらに来る。
これは、祈が見ていた景色。
『お兄ちゃんっ』
幸せそうな兄妹。
そして、もう一人。
『黎斗』
煌と仲の良い、少年。
幸福感や、愛情が、記憶と一緒に伝わってくる。
だけど、幸せな記憶は途中で途切れた。
『あーぁ、話しちゃったね』
亀裂が入るような感情。
障子越しに聞いた、煌と黎斗の会話。
『おまえ、知って───』
直後、煌の声が途切れる。
『───黎斗……?』
『…煌は、優しすぎるんだよ』
不気味な音が、聞こえた。
『お兄ちゃん!?』
障子を開けた先に見えたのは、倒れる煌と、刀を握った黎斗。
『聞いてたんだ、祈』
最後に聞いたのは、冷え切った黎斗の声だった。
…これが、煌の過去…?
祈が見せているのだろうか。
所々に、煌の記憶も混じっている。
正しいと、信じていただけなのに。
決して間違ってなどいないのに。
煌の過去は、残酷すぎる。
父親に妹を殺されて、その父を手にかけて。
黒い感情が、たくさん流れ込んでくる。
──嫌、もう、見たくない。
これが、彼を人斬りにした思い出。
だったら、煌の命を狙っているのは───
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