Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~

□第六章
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「先に絡んできたのは譲ちゃんじゃねぇかよ」
「あたしは人を探してるだけだ!知らないならもうあんたらに用はない!」


なにやら言い合っている少女と浪士。


その少女の格好は、少し不思議だった。

形は忍装束のようだけれど、それにしては少々色が派手すぎる。


朱色の紅葉柄の装束を着た、天那と同い年くらいの少女。


「ちょっとストップ!!」


天那は少女を背に庇って間に割って入った。


「?」


真後ろで、少女が驚いたようにきょとんとしている。


「勇敢だねぇ、叩っ斬られたいのか?」


浪士たちが腰に刺した刀を抜いた。


「…っ」


天那は相手を睨みつけて一歩も引こうとしない。



──この時代の人たちは、刀を抜けばみんなうろたえるとでも思っているのだろうか。



「反吐が出る…」


呟かれた小さな声を、天那は聞き取っていなかった。


ただ目の前の刀だけに意識を注ぐ。


「……」


…あぁ、またやっちゃった。


飛び込んだはいいが、これからどうしようか。

相手の力量も分からない、知っていたとしても勝ち目はない。


「はっ。度胸だけは認めてやろう」


男たちが刀を構え、天那に迫ってくる。


「っ!!」


刀が天那に降りかかる予想3秒前。

悠長にカウントダウンはしていられなかった。


「はぁぁっ!!」


今まさに振り下ろさんとしている相手の手首に、手を伸ばす。


「!?」


そして、手首を掴むつもりで──


「──痛っったぁぁあ!!!」


間違えて刀身を白羽取りした。

薄皮が剥けた上に、強く握りすぎて刃が食い込みそうになる。


「ちっ」


浪士は刀を大きく凪いで天那を振り払った。


そして、間を空けず再び切りかかってくる。


「!!」


…次はもう間に合わない──!!



「っ───」


それでも、天那がもう一度手を伸ばそうとしたとき──。



──目の前に、小柄な影が滑り込んできた。



風より速く、現れた人影は瞬時に刀を鞘から抜く。

そして、天那に当たる寸前の刀を弾き飛ばした。



「……」


あまりの俊敏さに、天那はぽかんと呆けていた。


「んだてめぇ!邪魔だ!!」


浪士たちの矛先が一瞬でそちらに集まる。



「───邪魔はあなたたちです」



低い声で言ったかと思うと、次の瞬間には天那の目の前から消えていた。


刹那、浪士たちの刀が片っ端から吹っ飛ばされていく。


「!?!?」
「!?」


浪士たちに混じって、天那も感嘆の声を上げた。

真っ直ぐな黒い髪を揺らす後姿に。


「くそっ…」


浪士たちは各々刀を拾いに向かう。

が、それも一瞬でかなわなくなった。


「!?」


鋭い風のような何かが、天那の後ろから真横を通り過ぎる。


「ぐぁっ!!」


その風は、彼ら一人ひとりの腕に刺さった。


…手裏剣?…違う、飛苦無(とびくない)!?



 
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