Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~

□最終章
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屋敷から出ると、境内にはもう綺琉の姿はなかった。


その代わり、見覚えのある少年が門にもたれて立っていた。

栗色の髪を、門の外へ吹き抜ける風に靡かせている。


「──煌」


名前を呼ぶと、やや待ちくたびれた様子で振り向く。

包帯を取った右目には、深い刀傷の痕を残して。


「天那」


強く決意を宿したような瞳だった。


「さっき、透留の店に珠奈が来た」


天那の心臓が一瞬だけ跳ねる。


「黎斗が、すぐそこの河原で俺を待ってるらしい」
「っ!」



───きっと、終わらせる気だ。


煌も、黎斗も。




「今まで、ありがとな」



落ち着いた声は、これから戦いに行く人の声じゃなかった。


煌はそのまま背を向け、歩いていく。

その背中は、ひどく孤独に見えた。


───まるで、死を受け入れたような…。



「───煌っ!!」


叫んで、天那は駆け出した。

十数歩先で、煌が振り向く。


「天那…っ!?」


スピードを緩めずに、天那は煌に飛び込んだ。

受け止めた煌が、数歩後ずさる。


「あたしも行く!」


ひとりで、終わらせたりなんかさせない。

ひとりで、死なせなんてしない。


──あたしが、君の糧になるから。


死を受け入れないで、生きる道を探して。




「…天那は、来るな」


煌の両手が、言葉が、天那を突き放す。


「俺は、今から黎斗を殺しに行く」


それでも、煌の眼は揺らいでいなかった。

決めた道を、違える気はないと訴えていた。


「おまえの言う、殺さずに生きる道は見つけられなかった…」


天那から目を逸らしたのは、罪悪感からだろうか。

信じてくれた人を、裏切るような気がしたのだろうか。


「…それでいいんだよ、煌」


天那は、逸らされた瞳に笑って見せた。


「あたしは望み過ぎてた、綺麗事だって分かったから」


この時代で、人と関わる度知った。

自分の言葉が、どれだけ絵空事に近いかを。


叶わないことだってあると、知ったから。



「結果は、最善じゃなくていい」


終わり方は、どんなものでも。

必死で掴み取ったものなら、受け入れるしかない。


「でも、諦めちゃ駄目だよ」


振り返ったとき、その軌跡にだけは後悔しないように。

望むことを、諦めてはいけない。


それこそ、最高の綺麗事だけれど…。



「───そう…だな」


小さな声で、煌は頷いた。


そして、天那に向かって手を差し伸べる。



「…一緒に、来てくれるか」



天那は迷わず手を伸ばした。


「うん」


互いに握った手は、震えてなんかいなかった。

笑顔すら浮かんでいた。



怖れはない、君と一緒なら。



どんな最後だって、笑って迎えられる気がしたから────。




 
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