◆Library◇
□見てるだけでいい
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"貴方"という大切な大切な存在が
"私"という存在を必要としてくれる
だから…多くは望まない
見てるだけでいい
布の擦(す)れる音が部屋に響く。
主から与えられた服を何の乱れもなく、きちんと着こなす。
リボンを結べば出来上がり。
シエル様に忠実なメイドの私の。
◇◆◇
「おはようございます。」
c「あぁ。」
素っ気ない返事。
私を見ることなく新聞を読み進める。
そして、私は彼の為に紅茶を慣れた手つきで入れる。
いつものこと。
「シエル様、紅茶をどうぞ。」
c「ん。」
コクリ…と一口。
すると、シエル様は新聞から目を離されて、私を見る。
c「上達したな。上手い。」
「ありがとうございます。」
セバスチャンから教わり、シエル様の舌に合う紅茶が出来るまで、必死に練習して来た。
こうして評価して戴(いただ)けるのが、とても嬉しい。
◆◇◆
シエル様が紅茶を飲み終えたのを確認し、ワゴンにテイーカップを置き、彼に声をかける。
「それでは、私は失礼します。」
c「あぁ。」
ワゴンを押して、扉へ向かう。
c「クオリア。」
「はい。」
c「午後の紅茶(アフタヌーンティー)の紅茶もお前が淹(い)れろ。いいな?」
「はい。承知致(しょうちいた)しました。」
c「それだけだ。下がっていい。」
私は頭を深く下げ、部屋を後にした。
◇◆◇
s「おはようございます、クオリア。」
「おはようございます、セバスチャン。」
s「何かありましたか?」
「え?」
s「嬉しそうな顔をなされていたので。」
私は顔を挟(はさ)むように勢いよく、両手を両頬(ほほ)に添(そ)えた。
s「クス…坊っちゃんがらみですか?」
「う…はい…。」
s「何か頼まれた、とかですかね?」
「はい。午後の紅茶(アフタヌーンティー)の時も、私が紅茶を淹れるようにと。」
s「やはりそうでしたか。」
「知っているなら、聞かないでくださいよ…」
s「他人(ひと)の色恋沙汰(いろこいざた)ほど愉(たの)しいものはないですよ。」
「私で遊ばないでください!」
s「クスクス…そろそろ私は行きます。くれぐれも、浮かれて仕事を疎(おろそ)かにしないでくださいね。」
「そんなことしませんよ!」
立ち去るセバスチャンの背中を見送った後、私もしなければならない仕事をする為に歩き出した。
その途中、窓から見えた門の前に止まった馬車に私の心は暗く沈む。