long story
□弐
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青い空、白い雲。
物語を始めるに当たっては上々な天気だ。
引っ越し日和とでも言っておこうか。
しかし引っ越しと言っても荷物など一つもない。あるのはこの身一つとポケットにあるクレジットカードだけだ。そのせいか、どうも新しい生活が始まるという実感が湧かない。
私は我が家となるマンション、メゾン・ド・章樫を見上げた。
流石御貴族様たちが集まるだけあって立派な建物だ。とはいってもここの住民はただの御貴族様ではない。私と同じ、歴とした紛い物だ。
さて、
一つ呼吸をして地に踏み込む。すると、
「お待ちしておりましたよ。」
声を掛けられた。