サクラサクラ


□3、流れる雲
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蔵馬視点



不思議なデザインの建物の中には、いつも学校で会うのにほとんど話したことのないクラスメイトと、夕方一緒にいた思惟がいた。

俺と飛影・桑原くん・ぼたんの四人、指定された通りのメンバーで来た。


「思惟!!」


クラスメイトである、海藤のそばのソファに横たわっている彼女を見つけたが、すぐに眠っているのだと解った。



「思惟ちゃんじゃないかい〜。

また変な奴らに捕まっちゃって、コエンマ様に怒られてしまうよ。」



顔を青くして嘆いたのは、ぼたんだ。
ぼたんは思惟の監視役のような役目もしているようだった。監視だけでなくぼたん自身が彼女のうちへ行きたがっているようだが・・・ときどき思惟の家に泊まり、そこを拠点にして人間界での仕事をこなしているようだった。



夕刻、桑原くんが持ってきた、奴らからの手紙に、幽助と思惟をさらったと書いてあった。幽助だけでなく、思惟を人質にしたのにはきっと飛影が来なければならなかったからであろう。幽助だけが人質では、もしかしたら飛影は来なかったかもしれない。

奴らは、そのことも知っていた。





「貴様が思惟と幽助をさらったのか・・。どれだけ無謀なことをしているか、思い知らせてやる・・・!」


飛影はそう言うと、左手に持っていた刀を抜くと、一瞬で海藤のいる方へ飛んでいた。





ーーーガキーンッ!!ーーー




飛影の刀は海藤の座る椅子の少し手前で、一瞬にして粉々に砕けてしまった。

まるで透明の壁にぶつかったかのように。





「・・・!!」





あの時と同じだ。暗黒武術会のときのホテルの中で、力が使えなかった・・あの時のようだ。





「無駄だよ。」




海藤が不敵に笑を浮かべて、自身の持つテリトリーのことを話し始めた。
どうやら、この中では彼のルールに従うしかないようだ。




イラついた飛影は、さらに海藤を睨みつけると俺の静止も聞かずにあの言葉を言ってしまったのだ。


「言葉で俺を殺せるとでもいうのか!」


「言えばわかるよ。」


これは、挑発だ。

海藤は自信ありげに椅子の肘掛に肘をついて、ほおずえをついた。




「たかが”あつい”という言葉でか!!」





「あ〜あ、言っちゃったね。」


計算しつくされたそのやりとりに、海藤は嬉しそうに声をあげた。

その瞬間、飛影の体からきらめくように何かが飛び出し、海藤の手に引き寄せられるように光り飛んだ。



「ああ、そうだな・・せっかくだから相田さんもこうして魂にしまえばよかったな。

わざわざ眠らせなくてもさ・・。」





俺は、ジロリと海藤を睨みつけると椅子に座った。

蒸し暑い部屋の中で、俺と桑原くんとぼたんと海藤の我慢比べがはじまった。





「なあ蔵馬、今日は思惟ちゃんとは一緒に帰らなかったのか?
よく一緒に帰るって、聞いてたんだがな。」


桑原くんが、汗を拭いながらそういって俺に目を向けた。



「あぁ、最近は部活の方も忙しくてね。

彼女も受験生ですし、同じ時間にお互い授業が終わることがないんですよ。」






俺は、言い訳がましい、思惟と一緒に帰れない理由を並べた。


本当は帰ろうと思えばいつでも帰れる。


本当は高柳にも、ほかの男子生徒さえも近づけないように、そばにいることだってできるのに・・・





彼女が、きっと俺を避けている。



なぜ?





他校に進学しようと考えているのも、


うちへ夕飯を食べに来ないのも、





俺と距離を置くためなのか?








「おい蔵馬。」



桑原くんが、俺を引き戻した。

「なんか飲むか?冷蔵庫に飲み物あるってさ。」



「あぁ、あたしがやるよ。
何かしてないと落ち着かなくってさ!」


ぼたんが立ち上がって冷蔵庫の扉を開けた。
中にはたくさんの飲み物が入っている。





「おやまぁ、結構いろいろ入ってるねぇ。


んー・・と

桑ちゃん、オレンジジュースでいいかい?」




「あぁ、ついでに氷も入れてくれ。

ストローもあったらつけてな。」



暑さにうんざりしている様子の桑原くんが、一番に飲み物を欲しているように見えた。


俺には、飲み物を飲むよりも、目の前の思惟のことが気になって、仕方がなかった。





その時だった、桑原くんの体が光り、さっきの飛影と同じように魂が海藤の方へと吸い出されたのだ。



「桑ちゃんあついって言ってないじゃないか!」


ぼたんが叫んだ。



「!!」





瞬間、桑原くんと同じように、電気が走ったように体が強張り、魂が海藤の手に渡ってしまった。




「きれいだよねぇ。女の子のが一番俺好みの色してるな〜。
やっぱ、相田さんも魂にしてみれば良かったよ。学園内の美少女がどんな色してるか、君も見たかっただろ?」




海藤は三つの魂を手のひらに、うっすら笑を浮かべながらしゃべり続けた。


「この魂を少しだけ引っ掻いてみようか・・・すこしだけ・・。」





「・・やってみろよ。


それは、俺にとってのタブーだと言っておく。


もしもお前がそんな真似をしたら・・・、
いかなる手段を用いても、

・・・お前を殺す!」






海藤は少しだけ真顔になって、メガネの位置を直した。




「ナイス・・。

やっと君の素顔が見れたような気がする。」


そう言って、海藤はニヤリと笑みを浮かべた。





俺は、海藤との駆け引きの間、思惟が人質に取られている割には至って冷静だった。
いや、彼女が眠っていたことは、幸いだったのかもしれない。


俺は海藤のタブーをやぶり、桑原くんと飛影・ぼたんの魂を元に戻すことに成功した。
そして、思惟をそっと抱き上げると優しくその名前を呼んだ。



「思惟、

大丈夫ですか、思惟…」



随分と強い薬なのか、ちっとも目を開けようとしない。
俺はそれ以上、思惟を起こすことをしなかった。


すうすうと小さな寝息を立てて、俺の腕の中で眠る彼女に俺はとても満足していた。








結局のところ今回の事件は、果し合いでも何でもなく、人間たちの中で現れた能力者達の自己紹介のようなものだった。



主犯は、玄海師範。




思惟を囮に使うと提案したのも、師範の考えだったようだ。


俺は、これから始まる事に、また思惟を巻き込んでしまうことを危惧していた。
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