おとしもの
□6.秋風
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▼秀徳体育館から・・
気が付いた
気が付いていた
好きか
尊敬か
憧れか
どれだろう。
でもきっと、もう答えは出てる。
「小羽。
今日は早いな。用事でもあるのか?」
今日の練習が終わって、片付けも終わらせて制服に着替えると、まだほかの部員がちらほら残っている時間に体育館の出入口へと急いだ。
今日はりょうくんと約束をしていた。
学校帰りに、私のほうからメールして。
「真太郎先輩。お疲れ様でした。」
「珍しいじゃん、今日はもう帰るんだ。
いつも最後なのにさ。」
和成先輩も真太郎先輩も、まだ今から練習するんだ。
ウィンターカップに向けてかな。
さすが、というほか言葉がない。
「今日はちょっと約束があって。
お先に失礼します。」
早く学校を出る理由を聞かれたりしたくなかったから、会釈して足早に体育館を後にした。
あの二人の先輩達には気づかれてしまいそうだと思ったからだ。
「あー、あれかな。ね、シンチャン。」
「なんなのだよ。高尾」
彼女の消えていった方向を向きながら、真太郎は目を合わせずに答えた。
高尾は気が付いている。
最近の彼女の様子は、かなりおかしかった。
昼食の間は、時々考え込むかのように黙りこんだり、部活の途中では小さいミスをすることもあった。
はじめは、合宿もあったしテストもあったから疲れているのかと思ったのだったが、
ある時、
黄瀬の話が出たとき、
表情が一変したのだった。
その様子は俺も高尾も見逃すことはなかった。
「やっぱ、あれでしょ。」
「黄瀬、か。」
「ん、もしかして・・」
高尾が言いかけて口を閉じた。
俺はそういうことには鈍いほうだと思うから、
その続きを、
というより、高尾の想っていることが自分の考えと同じかどうか、聞いておきたいと思ったのだが。
「・・・おためし期間、終わりにするのかもね。」
「・・・そうか」
黄瀬と小羽がお試しでって付き合い始めて、もうずいぶん過ぎた。
でも、彼女が黄瀬に夢中になることはなかった。
恋というのは、いくら好きになろうとしても努力しても、結果恋になるわけではないようだ。
彼女は、努力していたし、楽しもうとしていたと思う。黄瀬には勿体ないくらい、尽くそうとしていた。
そして、少なからずいつもファンの女子に囲まれている黄瀬が、ひとり残らずファンから解放されるまでいつも遠くで待っていて、女の子たちが居なくなってからしかそばに行かなかった。
それがどんなに時間がかかっても。
どのくらい、彼女が忍耐強くて寛容だっただろうか。
そして小羽は、それをみてヤキモチを妬けない自分にずっと自己嫌悪していたようだった。
きっと黄瀬と同じくらい、小羽は傷つく。
酷い奴だと罵られても、
俺たちが彼女の想いを知っている。
ばかだな、
そういっただろう。
「やっぱさ、ズルいよ。黄瀬くんはさ。
結局、小羽泣かせるんじゃん。」
「二人とも馬鹿なのだよ。」
「・・・そうだな。」