サクラサクラ
□1、花の季節に…
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「ん…まぶし。」
ベットに仰向けのまま、窓から差し込む光に目を向ける。
カーテンの隙間から、暖かそうなひかりを浴びながら体をゆっくりと起こした。
「いい天気…」
長いさらさらとした栗色がかった髪が、肩からすべり落ちると同時に、少女の頬に笑みが差した。
小さな華奢な足首がベットから抜け出て床に着くと、窓にかかる麻のカーテンを開きリボンで縛る。
「今日から学校だった…。」
少女は部屋の壁に丁寧に吊るしてあった制服を手にとった。
久しぶりに聞くチャイム。
たくさんの生徒、校庭、校舎、靴箱。
通った事がない学校でも、もうこんなに懐かしい。
思惟は一年ぶりに学校へ通う。
中学に入ってからは病気がちで、
ほとんど出席していない。
そのうち遠くの中学へ通うのが負担になるとの事から、引っ越しと高校受験のない中学…
学力が高くて有名な、盟王高校の
中等部への編入を果たしたのだ。
さして、特別行きたかった学校というわけでもなかったが、
中高一貫というのが魅力だった。
新設されて間もないこともあり、
広く知られてはないが制服も可愛いし、校舎も築3年。
思惟の住む引っ越し先のマンションからは徒歩15分。
この上ない環境なのだ。
何もかも新しい、イチからのスタート。緊張しないわけがなかった。
真新しい制服を身に纏い、教室の扉に手を掛けた。
「えー、今日から二年生になるが、盟王の中等部には珍しい転入生が来ている。」
30過ぎくらいの体育会系のがっちりした男の先生が紹介して、
思惟の方へ視線を向けた。
すでにクラス中の目が、思惟の方へ向いていたが、気にしないように少し視線を下へ向けていると、担任は話しを続けた。
「相田思惟さんだ。
席は後ろの窓側にとりあえず座っとってくれ。」
担任は呆気なく紹介を終えた。
思惟にはありがたかったが、これが進学校 なのだろうか?
思惟は窓ぎわの席が気に入った。
高等部と共用の運動場がよく見え、向かいにはその立派な出で立ちの校舎が見えるのだ。
クリーム色の壁に古い建物、一見普通の学校の校舎だが、所々ふるさゆえの美しい細工が目をひく。
何度見ても、その姿は凛々しかった。
「ねえねえ、相田さん、
前は何処の学校にいたの?」
「ね、部活動は何するの?」
思惟は休み時間のたびにクラスの女子たちに囲まれた。
「ねえ、廊下見て!
三年生の男子まで相田さんの事、見に来てるよ。」
廊下を見ると、たくさんの男女の生徒たちが、珍しい転入生を見にやって来ていた。
「だって、相田さん、ほんっとモデルみたいにキレイなんだもん!」
口々に自分の意見を喋る女子たちに、思惟は幸せそうに微笑んだ。
こういう感じ、久しぶりだなぁ。
「ね、ずっと入院していたって本当?もう大丈夫なの?」
「うん、今はすごく体調がいいから。」
遠慮がちに思惟が答えた。
ついひと月前まではまだ、病院のベットの上だった。
くる日もくる日も、ベットで点滴…
制服の袖で隠れた思惟の腕は、注射跡だらけだった。
すると前の席のボブヘアの女子が
愛嬌のある笑顔で思惟を見つめると…
「思惟って呼んでもいい?可愛い名前、いいな〜。あたしなんか麻里だよ。
普通でしょ?」
麻里と名乗った少女は、残念そうに舌を出して笑った。
「うん。私も麻里でいい?」
「もちろん!」
麻里はスポーツが得意で、クラス役員なんかもこなせるクラスの人気者だった。
☆*:.。. o…。…。…..。o .。.:*☆
朝からなにかを感じていた。
こういった気配を感じとるのは得意で、だから予感と言うよりは、確信に近い物だ。
あぁ、またなにやら俺のテリトリーに入って来たな。
少し憂鬱にかられながらも、蔵馬は教室の窓から外を眺めた。●●