サクラサクラ
□6、氷雪の花
1ページ/15ページ
〜氷雪の花〜
私の足は、ずいぶん強くなったと思う。
でも、それでも前を走る本物の盗賊、妖狐・蔵馬についていくので必死だ。
大きな森を抜けたと思ったら、休憩なしで茶色の大地を駆ける。
私は考えることもせず、ひたすらすごいスピードではしる銀髪についていった。
必死に、一生懸命、
これがきっと、蔵馬の記憶を戻すことにつながる。
きっと、古代種の種を手に入れて現代に帰ってみせる。
ずいぶん走って、私ももう限界だと思ったその時、
振り返った、銀髪が。
「・・・っ、・・はあっ・・はあ・・」
「・・まあ、遅いがなんとかついてきたな。」
「・・・・はあ・・はあ・・・っ・・早すぎ・・よ・・」
私は息を整えながら、答えた。
ようやく休憩できた、
でも、・・・・この人・・・
今日だけで3回も置いていかれた・・!
蔵馬(南野先輩)とぜんっぜん違う。
置いていっても全然気にしてないし、全く一緒に行動している私のことなんて構うそぶりもない、気にしてない。
遅れていくと、冷ややかな目で鬱陶しそう。
森の中やくさが背の高さくらいまで生えてるところとか、砂地の場所とか岩がゴロゴロとか、
走れない場所もたくさんあったのに・・!
もちろん助けてもらおうとか思ってはいなかったけど、
一度も手を差し伸べることなんてなくて。
これ、何日ついていけばいいの!?
昔の蔵馬って・・・ホント容赦なくて、非道・・・(泣)
「・・あの、あと・・どれくらい・・?」
「・・・・・ここが目的地だ。」
そうなんだ、ここが。
でも、ここ・・何?洞穴みたいな、でも建物?
「入れ。」
「は、・・はい」
入り口はわかりにくいけど、中の方へ入るとちゃんと扉があった。
扉の前には男の人が二人立っていて、
一瞬私の方を見て怪訝そうな顔をしたが、その後は多分私の後方に立つ人に気がつき頭を下げた。
「おかえりなさいませ!蔵馬さま。」
「ああ、変わりないか。」
「異常ありません!」
二人の男は、ひどく蔵馬に丁寧だ。
私に入るよう促すと、その洞窟のような建物(?)の中は、とても見た目以上に広かった。
全部で数十人もの盗賊だろうか。
全部蔵馬の仲間なのだそうだ。
その中にこの間毒で死にかけていた男の人もいた。
「ああ!思惟じゃねーか!」
「あなたは、・・その後体調はどうですか?」
なぜかその男性に会ったのが懐かしく感じて、
つい手を取って再開を喜んでしまった。
「俺はピンピンしてるぜ?
あれからすっげえ調子よくってさあ!お前の魔法が効いてるのかもしれねーなあ」
「まさか!黒鵺さんが、体力あるからですよ。」
私たちが、他の盗賊たちの目を気にせず再開を喜んでいたものだから、周りの妖怪たちは不思議そうに見ている。
「あ、ごめんなさい・・妖狐。」
私はいつの間にか、妖狐蔵馬のことを『蔵馬』ではなく『妖狐』と呼んでいた。
多分、南野先輩である、私の世界の蔵馬と同じ呼び方で呼びたくなかったのかもしれない。
自然と、妖狐で定着していた。
だって、全く別の人格で、別の人のようだから。
「この女は、次の仕事に同行しともに目的を果たす。
貴重な仲間として、一時的に手伝ってもらう。」
「蔵馬、仕事先で治療でもしてもらうのか?」
黒鵺が質問した。
盗賊たちの中でも、妖狐とは親しいようだ。
「いや、そっちは必要があれば、だな。」
チラリと私の方を見た。
私は妖狐と目があって、どう答えればいいかわからくて戸惑っていたら、
妖狐の方から目を逸らした。
「詳細の計画はまた伝えるが、
次の目的は、マシュラ族のコレクションの一部だ。」
一瞬、シンと空気が静まり返ったような間が空いたけど、
その後ざわざわと小さな囁き声が広がった。
「その大きな狙いのために、こいつを連れてきた。
魔界で見たことない宝具を使えるそうだ。丁重に扱えよ。」
マシュラ族って、そんなにすごい相手なんだろうか。
一瞬で盗賊たちの顔色が曇った。
妖狐は、そのまま自室に入っていってしまったけど、
私は横にいた黒鵺に聞いた。
「あの、そんなに大変なこと?マシュラ族って。
いや、大変なのはわかっているけど・・みんな盗賊のプロなんだよね?
それでも、難しいの?」
「・・盗賊のプロって、お前・・。
まあな。
お前そういう世界に疎いみたいだから知らないだろうけど、
まともに盗みに入って、戻ってきた盗賊はいないと聞く。」
「そうなんだ・・。
妖狐も、最初話した時かなり難しい顔してたもの。そうだよね」
私は、少し不安な気持ちになった。
私はとんでもないお願いを妖狐にしてしまったのではないだろうか。もしもこの、過去の世界で妖狐を傷つけてしまったら、怪我させてしまったら、未来が変わったりとかしないのだろうか。
もう、すでに出会ってしまった。
それだけでも、不安なのに。
「なあ、お前の部屋案内してやるよ。
おい、客室の鍵もってこい!」
私は洞窟のような、盗賊たちの隠れ家の端の方にある客室へ案内された。
黒鵺は、とても親切で優しい。
妖狐とは大違い。
「呼ばれるまで、ここにいていいぜ。
夕食できたら声かけるからな。」
部屋の扉を閉めようとした黒鵺を呼び止めた。
「あの、
妖狐、いや蔵馬って何?偉そうにしてるけど、ここでは強いの?怖いからみんなあんな感じなの?」
「はあ?・・・あはははは!
お前知らずについてきたのか。
魔界でも多分、今一番有名な盗賊団が俺たちだ。
その中でも蔵馬はとびきり強く、あいつが考えた作戦で失敗したことは、ないな。
それに他の奴らなんて比べ物にならないくらい強いぜ、あいつは。
ああ、あと蔵馬はこの盗賊団の頭だ。」
私は、少しだけ予想していた答えに、がっくりきた。
ここでは妖狐の言う通りにしたほうがよさそう。
私の目的を達成するためにも、彼が手伝ってくれなければマシュラ族の秘宝を手に入れることは難しいだろうから。
この先、私・・
妖狐と一緒にマシュラ族の屋敷までいけるのかな・・・
私は黒鵺がその後呼びに来る前に、
疲れ切って眠ってしまっていた。