サクラサクラ
□8、赤と銀のそばで
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8、赤と銀のそばで
私は、妖狐の姿の蔵馬と、多くのことを話した。
正直言うと実はまだ、あの時の、
『流綺羅』と言う女性のことが頭をチラつく。
妖狐といられることに喜びを感じるけど、
あの時の妖狐ではない、
今目の前にいるのは、紛れもなく妖狐の姿をした ”蔵馬” だ。
優しくて、甘くて、少し意地悪なところがある、蔵馬。
やっぱり私は、蔵馬が好きなんだな、と思った。
赤い髪を見ると、胸が高鳴るし
翡翠の瞳で見つめられると、胸が熱くなる。
その言葉の一つ一つが、大切に思えて、
そばに立つと、包んでほしいと願う。
もう、気持ちを誤魔化すことなんてできない。
・・・🍂・・🍂・・
山から降りて、私はみんなの傷を治した。
幸い、死者はでていなかったようで、気づいた学校職員が早めに山へ入ったことがよかったようだった。
「ジャン〜、ごめん、腕・・何もできなくて。」
「いや大丈夫だよ。もう固まっていたの取れたし、
君こそ、頭殴られてたろ、大丈夫かい?」
「うん、私は蔵馬に診てもらったから。」
「あーあ・・、結局そうなるのかよ。
俺たちが3年もかけて口説いてんのに、ちっとも振り向かないと思ったら。」
ジャンが大きな声でそういうと、周りにいた学友たちが笑った。
思惟の恥ずかしそうな顔、
でも、嬉しそうな顔・・。
「な、蔵馬。
お前、本来はどっちの姿がベースなんだ?」
すでに秀一の姿に戻っている蔵馬に
治療が終わったばかりのライが問いかけた。
「ああ、そうだな。
今はこの姿かな。
妖狐の姿よりはしっくりきてる。」
私と蔵馬にあったことを全て聞いたライとジャンは、私たち二人を祝福してくれた。
ライは特に、蔵馬が現れた時から、こうなることはわかっていた、と。
「思惟は、卒業したらどうするんだ?
やっぱ、こいつと一緒にいくのか?」
「たぶんね。これから相談するよ。」
蔵馬は、多分思惟を人間界へ連れて帰るのだろう。
それで私たちはお別れになる。
こんなにこの学校で楽しめるとは思っていなかった。
私は、蔵馬から逃げるために、
自分を逃すためにここに来たのだから。
ライとジャンと兄妹のように仲の良い関係、恋人ではなくても、
お互いのことを、自分以上に理解できる相手。
そんな人たちと出会ったのだから。
・・・🌸・・・・🌸・・・・
試験から3ヶ月後の、卒業式。
簡単な式が一通り終わって、
ライ、ジャン、私は、3人での主席卒業となった。
あの卒業試験はどこまで侵入でき、どう対処したか、と言うところで成績をつけられたが、とても曖昧なものだった。
「ほら、迎えにきてるぜ。」
蔵馬は、仕事の合間の人間界の週末、仕事が休みの時に私を探しにきていたそうだ。
数日いた時は、連休や夏休みの時、
時には有給休暇をとってこっちにいたこともあるようだった。
ちゃんと、お義父さんの会社で仕事を続けていたことに安心した。おばさまも元気でいるらしい。
「蔵馬!」
「思惟、卒業おめでとう。ライもジャンも。」
「ついでかよ、こら。」
ライとジャンと蔵馬はすっかり仲良くなっていた。
確かにこの3人、好きなもののジャンルが似ている節がある。
「もう行くのか?」
「部屋も、片付けちゃったしね。」
「少しゆっくりしていけばよかったのに。」
ジャンが残念そうにそう言う。
「二人だって、明日には家に帰るんでしょ?」
「まあそうだけど。」
「いいよ、また会えるさ。な、思惟」
ライが私の頭を撫でた。
私は、ライの首元に抱きついて、お礼を言った。
「ありがとう、ライ。
あなたがいてくれたから、私は強くいられたと思う。」
「俺も、君と出会えてよかったよ。今までありがとう。
本当に、君が好きだよ。」
サラリ、とそう言ってのける。
本気か、冗談か、それさえもわからないくらいに。
するとジャンがそばにやってきて別れのキスをする。
蔵馬が目の前にいるのに、私を抱き寄せ、それは唇に。
「思惟、
蔵馬に愛想が尽きたら、俺のところに来いよ。
本当に、本当に君が、好きだよ。」
優しく抱きしめてくれて、涙が出そう。
「私も、ジャン大好き。
蔵馬の次に、二人が大切だからね。」
2人にそう伝えた。
別れはあっという間で、私は蔵馬の手をとった。
「じゃあ、思惟を頼んだぞ。」
「ああ」
「さよなら、ライ、ジャン!」
蔵馬の浮葉科の植物が体に巻きついてきて、蔵馬がそれにふわりと腕を重ねる。
私のウエストを抱き寄せると、
ゆっくりと宙に浮いた。
前にもこれで空を飛んだことがある。
とても懐かしい。
ありがとう。
さようなら、でもきっと魔界で会えるよね。
だって、ここは過去じゃないから。