おとしもの

□2.新しい季節
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「母さん、小羽遅くない?」



テツヤが、台所の片付けをする母に妹の小羽のことを心配して聞いた。



「うーん、確かに遅いわよね。
 6時過ぎに遅くなりそうだとは連絡あったけど・・。

 テツヤちょっと駅まで見に行ってきてくれる?」





母も心配してそう言った。














小羽は去年、うちに来た。

彼女は今住んでいる黒子家に、電車で20分くらいのところに住んでいた。



小羽の母親と僕の母は姉妹で、小羽のお母さんは僕の母の妹にあたる。

二人はとても仲がよく、僕と小羽は年も近く小さい頃から母たちに連れられて、よく一緒に遊んでいた。




ただ、
小羽のお母さんが、去年病気になって急に亡くなってしまうまでは・・








『小羽、うちで一緒に暮らしませんか?』








彼女の父親は忙しい人で、一年のうちほとんどを海外で過ごしている。


小羽の父親は、家族おもいで優しく穏やかで、すごくいい人だと思う。
病床に伏せた母のもとで、寂しく辛い思いをした小羽と、妻のもとで長く過ごした。

しかしその看病は報われることもなく亡くなってしまい、そのあとは小羽をおいて海外にまた出発しなくてはならなかった。



僕はそんな時に、日本でひとりになるであろう彼女をうちに呼んだ。
父について海外に行くという選択もあったが、
仕事の忙しい父親に慣れない土地へ行くのはどうかと彼女の父が心配したのだ。

うちの母も父はそれはもう大歓迎で、彼女も転校こそしなければならなかったが、喜んでうちに来てくれた。



ただ、ずっと練習してきただいすきだったピアノを手放さなければならなかったこと。
それが彼女の一番の決断だったかもしれない。







僕の母は、娘が欲しかったと言って喜び、亡き妹の忘れ形見だと本当の親子のように接していると思う。







「じゃあ、ちょっと行ってきます。」


「頼むわね。」




家を出ると、もう外は真っ暗で、
中学3年生の女の子がひとりで歩くには、少々不安な時間になってきた。



プルルルルル・・・・




電話にも出ない。電車に乗っているのか、それとも音に気が付かないのか・・?



ただ一つ、気になることがあった。





この間、駅までつけてきた同級生の男子だ。
あれ以来、何もないとは言っていたけれど、
本当に大丈夫なのだろうか。



帝光中の後輩に試合後何時に解散になったのか、聞けるといいのだけれど。
中学の後輩の連絡先なんて、知っているわけがない。

これはもう、交友関係の広い、桃井さんか黄瀬くんに聞いてみるしかない。
あの二人なら、一人くらい連絡先を知っているかもしれない。



「とりあえず黄瀬くんに・・・。」




プルルルルル・・・







「黒子っちぃぃーーー!
どうしたんすかー?黒子っちから電話なんてすっごく珍しくないっスか?」



「黄瀬くん、お久しぶりです。
急用です。
小羽がまだ帰ってこなくて、帝光中のバスケ部が試合後何時に解散になったか、知りたいんですが・・。」



「えっ・・まじッスか!?
 わかったっス、すぐ連絡してみるんで待ってて。」






最近黄瀬くんは、小羽によく電話をしているようだ。
小羽とは気が合うというよりは、黄瀬くんが一方的に気に入っている、というように見える。


確か、黄瀬くんは妹はいなかったはず。
妹がいるのが羨ましいのか、
それとも妹の可愛さを知ってしまったとか・・








♫〜♪♪〜








「黒子っち、」

「黄瀬くん、なにかわかりましたか?」



「今日は、6時過ぎに解散したらしいッス」

「そしたら、家には遅くても7時には着いていますね。」



「やばくないっスか?
もう8時前になるっスよ・・
黒子っち俺も駅とかさがしてみるっスよ。」



黄瀬くんは、フットワークがいいのでそうしてくれるととても助かる。
ちょうど、黄瀬くんちの最寄りの駅を通り過ぎて、うちの方の駅に向かうから、見に行ってくれたら助かる。

探すのは、
ひとりよりふたりのほうがいいに決まってる。



「黄瀬くん、すみません。」


「任せてくださいっス!」
















♫〜♪♪〜







「小羽!」


着信の画面に『小羽』と出たもんだから、あわてて電話をとると、



「ごめんなさい、遅くなって。
小羽です。今駅についたから、もうすぐ帰るから。」




「小羽、母さんも心配してますよ。
 もうすぐ駅に着くので、待っていてください。」




「ご、ごめんなさい・・」



心配してたのがわかったのか、ちょっと落ち込んだ声になった。


そういうところも可愛いのだけれど、小羽は危機感とかそういうのに欠けている。
ちょっと天然っぽいところもあるし、でもマネージャー業はしっかりできているみたいだから、気は効くのだろうが・・

心配が尽きないのは、小さい頃からだ。













「で、一体何をしていたんですか?」



「あの、実は子猫みつけちゃって・・試合の帰りに学校のそばで・・・。」





「ウソが下手ですね。」




さすがに小さい頃から一緒にいた従兄妹だ。
あっさりと見抜かれて、言い訳も更に重ねる嘘も付けなくなった。



「母さんには言いません。
何してたんですか?」



少々むっとした様子の兄は、ちょっと怒っているようにも見えた。
いつもは静かで穏やかな兄だが、怒るとかなり怖い。




「あの・・


 同級生の男の子に、話があるからって呼び出されて・・・」



「で、まさか一人で行ったんですか?」





今思えば、夕方だったし一人で行くなんて、
なんて無謀なことをしたのかと悔やまれる。


話は直ぐに終わったのだけれど、
気づけばまわりには数人の男子がいて




必死に逃げた。





なんとか逃げれたときには、もう薄暗くなっていて、
怖くて不安で、

ようやく駅まできたところに、
テツヤから電話が入っていたので嬉しさから涙が出そうになって・・・





こんなことを話したら、兄も伯母も
きっと大騒ぎになるしすごく心配もするだろうと思ったから・・・





「それで、その男子たちは
誰なんですか?僕から話をします。

小羽を怖い目にあわせたのは、ゆるせません。」





「うん。

でも、あまり学校でも評判のよくないメンバーで・・。部活にもほとんど来ないの。

明日、監督にも相談しようかと思ったんだけど、この時期だから・・。」







そうなのだ、今は全中の真っ最中。
バスケ部員の不祥事もおろか、波風をたてるのはこの時期マイナスにしかならない。







「全中、終わったら考える。

 おばさんには言わないで?」






「・・・わかりました。

ただ、暗くなる時間に、絶対に一人でいないこと。帰りはできるだけ迎えに行きますから。」





兄のテツヤは、バスケ部も事情もわかってくれている。
だからこそ、今が部にとって大切な時期なのも知っていて、それでもってマネージャーが支障をきたすのは一番よくないと思ったのだった。





「ただ、本当に気をつけるようにしてください。
小羽は、大切な妹なんですから。」






「うん・・・・。


お兄ちゃん、大好き。」










腕にギュッとつかまったら、兄は少しだけ恥ずかしそうにして、でも満足げに笑んでいた。
































【おまけ】




「あ、黄瀬くんを忘れていました。」



「え・・?」




二人は顔を見合わせて・・・


「お兄ちゃんっ・・で、電話っ!」


「そうですね・・」




プルルルルルr・・






「・・・っハァ、黒子っちっ・・


いないっすよ、小羽っち・・・ハっ・

心配っス、・・もしも、

何かあったら、オレっ・・・」






息を切らして、必死に話す黄瀬の声が、電話の先から聞こえてきた。






「・・すみません、黄瀬くん。


さっき、小羽と会えました。」





「え・・・

よかったッス・・・。無事だったんスね・・。」





小羽がテツヤの携帯を貸してと、手でゼスチュアをしたので、携帯を渡すと、



「黄瀬さん?」


「小羽っち!!」





「ごめんなさい・・
あの、ホントにごめんなさい。

探してくれて、ありがとうございます。」






必死にあやまった。
申し訳なくて、あんなに息を切らして探してくれて。




「全然大丈夫ッス!
これでも普段から鍛えているんスから!

それよりも、無事で良かったッスよ。
心配したから。」






「はい・・。」


今度はテツヤが携帯を、受け取ると、








「今度、今日のお礼にご馳走しますね。


小羽と一緒に・・。」








「ま、マジッスかーーー!!!」










ちょっとうるさいです。


黄瀬くん。
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