おとしもの
□7.冬のおくりもの
1ページ/8ページ
◇高尾の憂鬱
冷たい風。
制服のスカートが寒そうだな、なんて女子を眺めていると、グレーの丈の短いコートを着た女の子が白い息を吐きながら、駆けてきた。
この高校に入学してきた時から、
ずっと妹のように、また片思いの相手として想い続けてきた相手だ。
その胸中は複雑で、好きという気持ちははっきりわかっているものの、全力でどうにかしてやろうというところまで行かない。
だけど、学校のほかの誰かが、可愛いってだけで告ってたりべたべた付きまとっているのを見るのは、どうにも耐えがたい。
だから、昼休みはバスケ部キャプテン命令でお昼を大体一緒に食べる。
その結果、気軽にちょっかいをかける輩は少なくなったし、只の先輩後輩以上に親しくなった。
ただ、それなのに一緒にそれ以上を望まなかったのは、一緒にお昼の弁当を食べている、もう一人のライバルがいたからだ。
均衡が崩れる。
柄にもなくそんなことを、ふと考えたりしたこともある。
「おはようございます、和成先輩」
「おはよ、小羽。今日も寒いな。」
時間は朝6時。
朝練の準備のために、小羽が俺とシンチャンとの待ち合わせ場所にやってくる時間だ。
俺もシンチャンも朝が早すぎるから、夏休み前からこうやって小羽を交えて一緒に行けば危なくないからという理由で、
一緒に登校するようになった。
この時間の通学路は、サラリーマンが少しと、あとはお年寄りがお散歩をしてらっしゃる程度だ。
「真太郎先輩、遅いですね。」
「先行っちゃおっか。」
「怒られますよ?」
「いいっていいって、どうせおは朝占いのアイテムでも探して遅いんだからさ。」
「そういえば、今日はなんか変わったものだった気がする。ん〜思い出せない・・」
なんだったんだろうと、スマホで調べると・・
「あっ・・」
「?」
「こりゃー、まあ・・。」
「なんです?」
苦笑いをしてしまった。
そこへ少し慌てたシンチャンが、やってきた。
「おはようございます。」
「おはようなのだよ。」
いつもに増して、不機嫌そうなシンチャンをみ
て小羽が不安そうに眺めている。
「おっと・・シンチャン、ラッキーアイテム見つかった?」
「・・・高尾、わかっていて言うな。」
「・・・?」
ちょっとだけため息がシンチャンとシンクロしたような感じがした。
「しかたねぇな、
んじゃ、小羽、ちょっとこっち来て。」
「はい・・?」
手招きされたほうへ素直によってくる。
この子、ホントすぐ拉致られるぞ。
シンチャンの肩と、小羽の肩を俺のほうへぐいっと引き寄せて、すぐにスマホを起動させると、自撮りモードにして写メった。
パシャリ!
「???」
「ハイ、出来上がり。シンチャン今から送るからさ。」
――可愛い女の子との写メ――
「こんなの小羽しか思いつかねーし。」
「え?わたしの写メでいいんですか?」
「当たり前だ。今日はこれを壁紙にしておくのだよ。
ちなみに小羽、お前はいて座だから、このロケット鉛筆をやろう。」
「ちゃーんと小羽のも準備してんじゃん。」
「高尾!!うるさいのだよ。」
「ありがとうございます。懐かしい〜ロケット鉛筆大好きだったんです。小学生のとき♡」
思いの外よろこんでいる小羽を横目に、ご機嫌を直したシンチャンが、さっそく携帯の壁紙にさっきの写メを登録している。
よく見ると、頬と頬がくっつきそうなくらい近くて、一瞬だったからあまり意識しなかったけど、これって結構いい感じに撮れてるかも。
「和成先輩、あとで私にも送ってくださいね?」
「オッケー!
壁紙にすんなよ?イケメン二人との写メだからってさ!」
「ふふっ、貴重な一枚ですねっ」
部活の集合写真は時々とるし、一緒に撮った写メは幾つかあるが、ほとんどが単体か俺とシンチャンのツーショット。3人が一緒に映る事なんてなかった。
その写メは、間違いなく高校生活の青春と呼ばれる中での、貴重な一枚になった。
🍃〜〜🍃〜〜🍃〜〜
「シンチャン、今日小羽は?」
「係の仕事があるとか言っていたのだよ。」
「ふーん、じゃあ今日はデザート無しだな、」
いつも彼女の手作りのデザートが、お弁当のあとに出てくる。
部活・ピアノと忙しい中、俺とシンチャンのためにデザートを欠かさず作ってきてくれる、その優越感のようなものが、ほかの彼女に気があるだろう面々に自慢してやりたくなるほどだ。
「小羽ってさぁ、今好きな人いんのかな。」
「・・・・」
「なんだよシンチャン。急にだまんなよ。
言ってるこっちがへんなヤツみたいだろ。」
ジト目のような、鬱陶しいという言葉が顔に書いてるような顔して、
ほんと腹立つな。
「・・知らないのだよ。
いるとしたら、」
「・・・誰だよ?」
「メールの相手だ。」
黄瀬が元彼で、
俺が見てもやっぱりイケメンと美少女でお似合いだな〜なんて思っていたけど、
彼女は今顔も見たことないメール相手を、想っているのだそうだ(シンチャン予想だけど)
たしかに・・
彼女の携帯にメールが届いたときの嬉しそうな顔と言ったら、頬をピンクに染めて嬉しそうに笑って、
時々、両手で頬っぺたを包んだり、口元に手を当てたり、見ていても可愛すぎて
恋する乙女ってやつだな・・なんて客観的に見ている俺もドキドキする。
それを見ているシンチャンも、恋してる顔で。
あぁ、俺とおんなじじゃんって気づかされる。
「赤司くんかー。
どうしてこうも敵わなさそうな相手ばっかなんだよ。
でもさ、どうして赤司くんは自分がメールの相手だって言わないんだろ」
難しい顔して、弁当を食べ終わったシンチャンは弁当の蓋を閉じながら言った。
「さあな。
赤司は、高校出たら恐らく実家の家業を継ぐために大学へ行き、経営学などありとあらゆることを学ぶだろう。
小羽とのメールが、ただの暇つぶしだとしたら、もう少しでそのメールのやり取りも終わるのだよ。」
「なるほどね・・。
じゃあそのあとのほうが、俺たちはチャンスがあるって事かな。」
「さあな。」
シンチャンは奪うつもりないのかねー?
俺は卑怯なやつだから、そういう時が来れば、その気満々なんだけどな。
でもその時は、シンチャンでも譲らねーからな。