おとしもの
□7.冬のおくりもの
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* ☆ *
時刻は夜7時を回っていて、ずいぶん冷え込んできた。
少し周りからの目に付きにくい、ボックス席風のカフェに入って、温かいものを注文することになった。
唇が少し腫れているし、小羽も俺たちもすぐに家に帰る気分にはなれなかった。
「俺とシンチャン、コーヒー。
小羽はロイヤルミルクティーにしとくか?」
小羽は落ち着きたいときは、ロイヤルミルクティーを飲む。
ピアノのテストの前とか、試合後の帰りとか、試験勉強をするときなんかは大抵それだ。
「はい。ありがとうございます。」
「俺もコーヒーを。」
赤司くんも注文を終えて、全員がなぜか口を開かなかった。
小羽の表情は、怯えたままで、
跡のついた手首をおさえたままでいるのが、痛々しかった。
赤司君が、申し訳ありませんが・・と店員に氷を袋に入れたものを貰うと、
それを手首にあてるように小羽に渡した。
そりゃ、無理やり連れていかれて、犯されそうになったんだもんな・・。
怖かっただろうに。
まだ震えるような手で、氷の入った袋を受け取ると、言われたように手首にあてた。
「・・ありがとう、ございます。
少し、落ち着いてきました・・。
真太郎先輩と、高尾先輩は・・?唇の傷・・だいじょうぶじゃないですよね?」
泣きそうな顔してる。
可愛いんだって、そういう顔も。
「大丈夫大丈夫!
俺もシンチャンも丈夫だからさ、気にすんなよ。」
「う・・でも血が出てたし、痛かったですよね・・?」
「心配ないのだよ。たいしたことはない。」
シンチャンは本当に小羽には甘い。
自分の妹にもこんなに甘いのかね。
「実は前に、青峰さんに、忠告されていたんです。
気をつけるようにって。
は、灰崎さんは、・・黄瀬さんに執着しているからって・・。」
「・・それって、なんなんだよ。
黄瀬への腹いせなワケ!?」
「中学の時も、灰崎は黄瀬の彼女をとったことがあったそうだが、黄瀬も本気で付き合っていたわけじゃないから、
それに関しては気にしていないようだったのだよ。」
珍しくシンチャンがコワイ顔してる。
でも、口調は普段以上に穏やかで優しい。あえてそうしているのだろうけど。
「・・心配することはない。
もう灰崎は何もしてこないだろうからね。」
コーヒーを飲みながら、赤司が平然とした顔でそう言ったのをみて、
恐らく、
こいつ何か裏でやるつもりか・・という察しは俺もシンチャンもついた。
「赤司さんも、助けてくださってありがとうございます。
あの、チームの皆さんに迷惑おかけしてませんか?」
「大丈夫だよ。
今日はこの後実家へ帰ることになっているんだ。許可をもらってね。
さっき黒子に電話をしておいたよ。
すぐに迎えに来てくれるそうだ。」
小羽の様子が気になって、余裕がなかった俺やシンチャンと違って、流石赤司征十郎だ。
あのとき、小羽に電話をかけてきたのは、恐らくここにいる赤司で、その電話を取ってとっさに助けを求めた小羽の様子に気が付いて、助けに来たのだろう。
ただ、当の彼女は此処にいる赤司が自分が長年メールをしている相手の『せいくん』だということは知らない。
打ち明けるつもりはないのかよ?
シンチャンの話を聞いている限り、
ただ女子高生とのメールを楽しんでる風にも思えない。
でも、本気なら、なぜ打ち明けないんだ?
アタマの良いヤツの考えることはよくわかんねーわ。
シンチャンの占い馬鹿も、赤司みたいなのも、俺には理解不能だっての。
それから、黒子がすぐに迎えに来て、
小羽は黒子に連れられて家へ帰った。
残された俺とシンチャンと赤司、
俺は、
気になっていることを聞けずにいた。
「あのとき、電話をかけたのは赤司か?」
シンチャンが聞いた。
「そうだよ。
たまたまだったが・・・かけてよかったよ。」
「・・・灰崎に、無理やりキスをされたのだよ。」
「・・・・そうか。」
「えっ・・!!マジかよ!!」
赤司の反応と正反対の俺の反応に、ちょっとシンチャンが鬱陶しそうな顔をした。
「俺にではないのだよ!!
小羽になのだよ!!」
「解ってるってーの!
だれがシンチャンになんて思うかよ!」
「殺してやりたいのだよ・・灰崎のやつ!」
「そうだな。
それ相応の罰は受けてもらう。
それに関しては、俺に任せておいてくれ。」
やっぱり赤司は恐い奴だな。
一体何をするつもりなのか・・考えたくない。
「赤司くんてさ。
小羽のこと、好きなの?」
ぶっちゃけ、聞くのは今しかないって思った瞬間、勝手に口からこのセリフが出ていた。
ちょっとだけ、片目を伏せたような言いたくないようなそんな素振りを見せた赤司は、
「・・まあね。
知っているんだろう?俺がメールの相手だということを。」
「ああ、まあ。
でもさ、キスしたって聞いても結構平然としてたし、
さっきなんて目の前でシンチャンが小羽のこと抱きしめても、嫌そうな顔もしてなかったじゃん。
本気で好きなのかと思ってさ。」
「やめるのだよ、高尾!」
「いや、いいよ緑間。
彼がそう思うのは仕方がない。
もうしばらく、彼女の事を頼むよ。
京都にいては、守ってやることすらできないからね。」
その言葉は、えらく印象的で
ずっと頭の中に引っかかった。
もともと自分のものだったかのように、
自分のものをただの一時、貸してやっているかのような、そんな物言いに。
引っかかりはしたが、それよりも
それが自然すぎて、不思議と腹も立ちはしなかった。
やっぱり頭の良いヤツの考えてることはわからねーわ!