おとしもの
□11.空の色が。
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せいくんから、帰国の予定が決まったとの連絡があったのは、今朝だった。
来月には卒業式を終えて、帰れるとのことだ。
勉強できるあの人のことだ。
きっとものすごくいい成績を残しての、飛び級での卒業なのだろう。
「お従兄ちゃん、もうすぐせいくんが帰ってくるって!」
朝のメールが来てすぐに、兄のテツヤに報告をした。
嬉しすぎて、凄い勢いだったらしく、
ちょっと驚いた顔をしていた兄だが、一緒に喜んでくれた。
大学は、楽しい。
学校での課題が多いため、今は家からすこし距離はあるが、もともと父と住んでいたマンションにピアノが置いてあるため、そこに寝泊まりをして練習をすることもしばしばある。
ただ、できるだけ黒子家にも帰りたいので、自分の部屋のあるその家に帰って、みんなとご飯を食べるのを楽しみにしている。
父が先日帰国した。
そのとき、せいくんの話をした。
アメリカに行ったときに、本当は父の予定が合えば3人で会おうと話していたのだけれど、あいにく父はヨーロッパへ行っていた為に、それは叶わなかった。
父は、私の音大でのピアノの練習のため、父が大切にしている実家のマンションのピアノを、私のために調律しておいてくれたことがすごく嬉しくて、そのお礼としてピアノを演奏してみせた。
すごく喜んでくれて、それから父は冬には日本でリサイタルをすると言っていたから、せいくんと来るといいよと言って、また仕事へ戻っていって。
相変わらずの、短い帰国だった。
〜〜◆〜〜◆〜〜
小羽久しぶり
赤司くん戻ってくるって?
よかったなー
和成先輩、
お久しぶりです。
お元気でしたか?
真太郎先輩も元気に
していますか?
あー、
シンチャンも元気だよ。
相変わらずだわ。
赤司くん帰ってきたら
シンチャンにも連絡
してやってよ。
淋しがってるからさー
もちろんです!
帰国したら連絡するので
予定あけてくださいね♪
朝一番のせいくんの帰国の知らせは、ほんとうにほんとうにうれしくて、
一日の授業もお昼ご飯の時間も、すべてが美しく輝いて見えた一日だった。
すれ違う、大学で新しくできた友人たちに、イイ事あったの?・・なんて言われるほど、顔にも出ていたようだった。
大学では、高校から一緒の同級生はいなかったし、知り合いはいなかったからここではほとんどが新しい友達、という事になる。
いま、声を掛けてきた女の子も、2か月ほど前に友人を通じて紹介してもらった、『できたて』のお友達である。
「ねえ、七原ちゃんよかったら土曜日コンパとかいってみない?」
「え・・コンパ・・。」
「七原ちゃんすっごくかわいいからさ、きっとみんな喜ぶと思うんだ〜。
大丈夫、私の友達の子ばっかりだし、みんなここの大学の人だから。」
「あ・・いや、
あの申し訳ないけど、彼氏がいるからそういうのはちょっと・・・」
一瞬驚いた顔をした、できたばかりの友人は、不思議そうな顔をして、残念そうに言った。
「え〜・・そうなの?
結構七原ちゃん狙いの男子、多いのに勿体ないな〜。
でも、彼氏いるんだー。きっと七原ちゃんのカレシは素敵な人だね。
今度紹介してね!」
「ありがとう。」
手を振って別れると、ちょうど真太郎先輩からの着信があり、その電話にすぐに応じる。
大学内の、中庭の一角のベンチ。
日陰が涼しくて気持ちのいい場所。
「もしもし、真太郎先輩!」
「小羽か、いま電話いいか?」
「はい、大丈夫です。
先輩お元気でしたか?」
本当に久しぶりだ。
和成先輩はときどきメールをくれるけれども、真太郎先輩はそうとう忙しいと聞いてた通り、連絡が取れることが少ない。
「俺は元気なのだよ。」
「授業大変ですか?
和成先輩が、バスケもあまりできないって言ってましたから。」
「問題ないのだよ。
ところで、赤司が帰ってくると聞いたが、いつになるのだ?」
相変わらずで、何も変わってない。
話し方とか、
雰囲気とか。
「詳しくは聞いてないんですが、帰国が決まったとメールが来ました。」
「相変わらず、だな。
電話くらいすればいいものの。」
「ふふ、
サプライズ好きなんですよ。
またいつ戻るかの連絡きたら、先輩にも連絡しますね。」
ほっこりと笑顔になる。
高校の時も、
せいくんがアメリカに行ってからも、
いつも支えてくれた先輩達。
そしてせいくんの大事なお友達。
なんて幸せなんだろう。
幸せは、しっかりとかみしめないと。
「連絡をまっているのだよ。
あぁ・・小羽。」
「なんですか?」
「いや、・・じゃあまたなのだよ。」
「はい、ではまた。」
早く会いたい。
せいくん、きっとさらに磨きをかけてすごくなっているんだろうな。
せいくんにふさわしくなろうと、この半年ピアノも勉強もしっかりやった。
でも追いつけないだろうなぁ。
あの人には。
いつも尊敬と、
敬愛と、
そして憧れで埋め尽くされている。
それから、大好きで大好きで、
仕方のない人。
帰ってきたら、この1年分、
しっかり甘えるんだから。