大人になりたい!

□3冊目
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もうすぐ秋も終わり、クリスマスとか年末とか慌ただしい季節がやってくる。来年は受験ということもあり、のんびり過ごせるのは今年かなとも思っている。


でもその前に、今はテスト期間中!
全然遊べない期間・・・

成績はうんと上がって、廊下に張り出される順位表にも名前が載るようにはなってきたけれども、
その分ライバル視されることも多く、苦労もある。


赤羽さんみたいに天下のT大は無理だけど、
私は行きたい大学があるからそれに向けて頑張りたい。












明日は日曜で赤羽さんと勉強会。

がっくんもあれから、赤羽さんのことは何も言わないし(私も話はしないけど・・)いつものように困ったときは助けてくれる。
ただ、学校内の生徒の手前、以前より学校外で二人だけで会うことは少なくなった。
きっと、何か困ることもあるのだろう。





   着いたよ。
   出てこれる?


赤羽さんからのメール。
いい勉強場所を見つけたというので、今日は赤羽さんの車でのお出かけ。
乗せてもらうのは二度目かな。









玄関を出ると、道路に赤い車が止まっていて、急いで玄関に鍵をかけると門まで小走りに急いだ。



「おはよう、乗って。」

「はい、お願いします。」





私は勉強道具を詰め込んだバックを抱えて助手席に乗ると、すかさずそのバックを運転席側から取り上げると、後部座席に置いてくれた。
シートベルトを締めて、赤羽さんの方を見ると、
優しく笑っていて、目があって、急にものすごくどきりとした。



「30分くらい走るよ。そんなに遠くないけど、いいかな。」


「はい。」



少しだけ、意識した。
大人の人の車に乗って、出かけている自分に。





「勉強会も久しぶりだね。」

「はい、部活始めて忙しくなってしまって。
すごくお願いしたかったんですけど・・」




そう、この勉強会は1ヶ月半ぶりくらいになっている。
テニスの大会も終わったが、テスト期間に入るまでの間
課題をやったりと自分がやらなければならない勉強でいっぱいだったのだ。

ずっと赤羽さんにも会いたいと思っていたのに、
バスであうのも週に一度もないくらいで。





「テニス部、結果どうだったの?」

「うーん、団体は地区で4位。個人だと県大会に出た人もいます。」


「へえ、すごいじゃん。」


赤羽さんは車を運転しつつ、ナビを確認している。






なぜか今日は、いつもと違う。
赤羽さんではなく、自分が。



赤羽さんの大きな手とか、運転している横顔とか、喋る声のトーンとか、そういうのが気になる。
で、なんか緊張してる。





「最近バスでも会いませんね。」


「あー、ちょっと仕事で残業したりする日が続いてて、
あんまり実家に帰ってないんだ。」


「?一人暮らしですか?」



「一応、マンション借りてるよ。」





私は、当たり前だけど知らなかった事実に驚いていた。
以前は毎日とは言わないけれど、割と頻繁にバスで会っていたから、てっきり実家から通っているのかと思っていた。



「そうなんですか、
仕事忙しいのに、お休みの日にすみません。」


「遠慮しなくていいって、俺も恋ちゃんと話するの楽しいし。」






心臓が、

鳴ってる。




今までなら、気にも留めない会話なのに。
今日は、変だ。





「あの、今日お弁当作ってきたんですけど・・
食べる場所ありそうですか?」


「え、ほんとに!?
確かデッキがあったから食べれると思うよ。楽しみだな。」




「人に作ったことはないので、味は自信がないですけど。」


「学校に持っていくお弁当はいつも自分で作ってるの?」



「はい、簡単なものばかりですけど。」



私は、お弁当といっても、買っておいたベーグルにサラダを作って持って行ったり、ご飯に卵焼きや唐揚げ、ソーセージなんてごくごくお弁当らしいおかずだったりと、簡単なものがほとんどで、手の込んだお弁当を作っているわけではない。
少し、ハードルを下げないとと慌てて補足した。


「ほんとに、立派なお弁当ではないので期待はしないでくださいね。」






赤羽さんはやっぱり優しい。
私の慌てた様子が伝わったのか、不安を取り除いてくれるようなことをちゃんと言ってくれる。



「うちの母親はさ、結構子供の頃から仕事が忙しい人でさ。」

「おばさまが?」



「手作りのお弁当とか、いつもいつも作ってくれることはなかったから、そういうの作ってくれるとすごく嬉しかったんだ。

中学生になった時にはもうあまり気にしなくなったけど、
小学生の時は流石にさ、友達はウインナーとか卵焼きとかハンバーグとかお弁当に入ってるのに、
うちの母は料理が下手なわけじゃないのに、そういうの作らないんだよね。」





赤羽さんの、見たこともない子供の頃の話は
すごく楽しかった。



「おばさまのお弁当って、どんなのだったんですか?」



「バケットサンドとかドライカレーとか。」

「へえ、なんだかオシャレですね。」


「うーん、でも一度だけ文句言ったことがあってさあ。
それからは普通にお弁当にご飯とおかずとか詰めてくれるようになったんだけど、
今思えばちょっと悪かったかなって・・。」




私は、少し笑って、



「私もあります、似たようなこと。

小学生の頃母の作ってくれたスカートが、お魚の柄で。
色味とか気に入ってはいていたんですけど、お友達にからかわれて、母にこんなスカート履かないって言ったんです。

でも、今思えば・・あのスカートが母の手作りの最後の服になってしまって。とっておけば良かったかな、って今は思います。」



私はもう居なくなった母の思い出を話した。
両親のことはあまり話したいと思えず、がっくんとだけ思い出を共有していた。
でも今日は話してみようかなと思えた。
きっと、赤羽さんだから。





「そうなんだ。
そういうのって、みんな大なり小なりあることなのかもね。」


「はい。今度おばさまに、赤羽さんの子供の頃のこと
聞いてみたいです。」


「やめたほうがいいと思うよ?
俺すごく荒れてたから。」



またまたすごい話が聞けそうっっ!






「椚ヶ丘の時ですか?」


「そうだね〜。渚に聞くとわかるけど、中学の時は2回停学になったこともあるかな。喧嘩強かったから、他校の生徒と喧嘩したりしてさ。」



「もしかして不良だったんですか?
想像もできませんけど・・。写真とかみたいです!
髪の毛金色だったり、ツンツンにしてたりとか?」



「あはははは!!
恋ちゃん、漫画の見すぎだよ。」


赤羽さんがすごく笑ってる。
今度渚さんにも聞いてみたい。




「普通の格好してたよ。制服もちゃんと着てたし。
体力あったから、喧嘩とか負けたことはないんだ。
でも、中3でそういうのもだいたい卒業したかな。」


「そうですかあ〜。
今日は赤羽さんの過去が聞けて楽しいですね♪」




「さあ、着いたよ。
朝だからまだ空いてるね。」



到着した場所は芝生に囲まれた、真っ白な大きな建物。
区立の立派な図書館のようだ。


「すごい、きれい!」



「良かった。
さ、行こうか。」




赤羽さんは、私の大きな荷物を車から降ろして、それを持ってくれた。

建物の中に入るとカフェがあったり、休憩できる机があったりと広々とした空間になっている。

赤羽さんが受付をしてくれ、なにやらキーをもらっているようだが、なになに?個室を借りてくれたの?


「3階だって。
個室借りれるみたいだったから、1日予約してみたんだ。」


「へえ!すごーい!
こんな素敵な図書館があったなんて。」



「だよね。俺も読みたい本あるから、先に取ってくるよ。」



そういうと、借りた個室の鍵を開けて中に荷物を入れると、早速本を探しに行った。赤羽さん、前も本たくさん買ってたからなあ。

私は、勉強道具の準備と、部屋のエアコンと電気をつけて、飲み物を買いに行った。














「ごめん、お待たせ。」


赤羽さんは4〜5冊の本を持ってきて机の上に置くと、
なにからはじめる?と私の勉強の方を優先してくれた。


「じゃあ、一番やれてない数学から、
あと、先生に飲み物を・・。よろしくお願いします。」




「ありがとう。
じゃあ、数学からね。」





やり始めたら時間はどんどん経ってしまって、あっという間にお昼。
車であんなにドキドキしてしまったことも、すっかり忘れて夢中になってしまった。



「さあ、お昼になったし休憩する?」


「あ、、もうお昼・・はや・」



「うん、ちょっとコン詰めすぎたね。
時間忘れてたよ。」



そう言いつつも、私が問題解いている間とかに、
赤羽さんは借りてきた本を、もう1冊読み終えている。




「お弁当にしますか?」

「お腹すいたよ。」






デッキに登ると、ちらほらお弁当を食べている人がいて、
テーブルがある席に持ってきた保冷バックからお弁当を二つ出した。

赤羽さんはすごく喜んでくれて、
美味しいと全部食べてくれた。



午後は夕方まで勉強すると、
家まで送り届けてくれて。




「ねえ、テスト来週には終わるんだよね?」


「はい、金曜日までです。」




「じゃあさ、その次の日曜日、空いてる?
今日のお弁当のお礼に、美味しいものでも食べに行こうよ。」



赤羽さんからの誘いに、私は二つ返事でOKした。
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