大人になりたい!

□4冊目
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高校3年になって、何が変わったかと言うと、
クラスみんなの勉強への意識が変わってきたこと。

この進学校では、3年になる頃には大体の進路が皆決まっていて、それに向かってみんな必死に補修を受けている。



先生方が言うところでは、
今年の学年は比較的みんな仲がよく、でも勉強もちゃんとやってくれている、のだそうだ。





中間テストも終わり、ホッとした頃
久しぶりに赤羽さんとお出かけの約束をした。
赤羽さんも仕事が忙しいらしく、

実に会うのは1ヶ月半ぶり。












「恋ちゃん、久しぶりだね。」


「はい、いつもメールありがとうございます。返事が遅くてすみません。」



「いや、俺も休み時間とかしか送れてないから。」




私はメールはよくするものの、
お互いの気持ちを確認してから会うのは初めてで、
なんだか今までみたいに何も考えずにはいられなかった。

ああ、変な感じ・・





「何緊張してんの?
恋ちゃん、意識しすぎだよ。」



「あ、す、すみません・・
やっぱり私、変ですか。」



ぎこちない私の様子は、やっぱり赤羽さんにも伝わっているようだった。






「今まで通り、にはしないつもりだけど、
無理しなくていいよ。」



気を遣ってくれている。
いつもと違う駅で待ち合わせして、そこからは電車で移動すると言っていたけど、どこへ行くかは聞いていない。


不意に、
手を取って歩き始めた。



土曜日だからか人混みがすごい。
方向音痴なワタシだから迷子になるのが怖い。だから手を繋いでもらったのは、すごく安心できる。



でも・・
私は大きな手に握られただけで、ドキドキと心臓が煩い。
背の高い赤羽さんの後をついていくのが、
楽しい。


行き先は、工事されて綺麗になった公園で、
桜の木が緑色の葉をいっぱいに広げていて本当に綺麗だ。
この公園には何度か来たことはあるが、
特に用事もなく通り過ぎただけ、と言う時の方が多い。

確か奥には動物園みたいなのもあったはず。





「人多いね。」


「今日は気候がいいですから。」



「博物館とか、好き?」



赤羽さんはゆっくり歩きながら、
まだ手は繋いだまま離してくれず、、話をしながら歩く穏やかな時間。



「好きです。美術展とか時々一人で行ったりもします。」


「よかった、俺はあんまり芸術とかはわからないけど、
時々静かなところ行きたくなって、そういうの見たりするんだ。
行ってみない?」



「行きたいです!」







行ったのは、赤羽さんのお母様が好きそうな、インドとか東洋の美術展。

私もすっかり赤羽さんの家の影響で好きになって、
いつか絨毯とか、刺繍の飾りとか欲しいなあって思うようになっていた。

前に赤羽さんからもらった、台湾土産のお守りもお気に入り。






インドの昔の高価な宝飾品や、美術品がガラスケースに入っていて、一つ一つ細かい細工をみているだけでも楽しかった。

シンと静まり返っている美術館の中で、
私が気に入ったのはクリスタルの細工品と、金の糸の刺繍の服だった。




「気に入ったみたいだったね。」


「はい、すごく!」









「そういえば今度、渚が会いたいって言ってたよ。」


「渚さん、この間学校に来てました。話はできなかったですけど、多分テニス部のご用だった思います。」



二人で並木道を歩きながら、
美術館で買ったグッズの袋とカフェで買ったタピオカドリンクを飲みながら近くのベンチへ座った。


こういう時間が、すき。








「もう恋ちゃんは引退したんだっけ?テニス部。」


「はい、3年になってすぐ引退しました。
学校の補習も多いし、夕方も案外帰りは遅いですけど。」



「そっか、受験生だもんね。
志望校決まった?」



「実は少しだけ、進路変更しました。」


「へえ、保育士取るって言ってたの?」




赤羽さんはタピオカドリンクを飲みながら、
私の方を見た。

腕が触れるくらい近くに座っているけど、
それだけでもドキドキしてしまうくらいかっこいい。


ちなみに赤羽さんはタピオカ初めてらしい。





「保育士は取りたいですけど、心理学科か養護教諭になるのも検討中です。
早く決めないと・・なんですけどね。」



「そっか、迷ってるんだ。」


「赤羽さんはいつ頃進路決めましたか?」



「あー俺、中3でなりたい職業大体決まったから、
それになるために一番近い大学選んだだけなんだよね。」



「赤羽さんて、渚さんから聞いたんですけど、
がっくんと勉強のライバルだったんですよね。

・・てことは、全国トップの成績、なんですよね。」






到底レベルが違う。
全国模試のトップって、全教科満点争いを、同じ学校でしていたってこと?



「ライバルね。まあ、そうだけど、
全国トップの浅野くんは学校の先生に、
俺は公務員に、と二人とも地味な進路選んだと我ながら思うよ。」




懐かしい中学生の頃のお互いを思い出すと、今でも少しあの頃の感情を思い出す。
間違いなくライバルだったし、簡単に追い越せる相手ではなかった。






「今まで聞いたことなかったですけど、
赤羽さんて、公務員って言ってましたけど・・
何の仕事してるんですか?」




「恋ちゃん今まで聞いたことなかったよね。
俺の職業とかさ。気にならなかったの?」


赤羽さんは、以前から不思議だったんだ〜
なんて言いながらそう聞いてきた。







「あ・・の、興味ないとかそういうことじゃなくて・・。
私にとって赤羽さんは赤羽さんで・・その、何の仕事をしているかとか知らなくても、

大丈夫っていうか・・。」






一瞬、彼の空気が止まったみたいな感じがした。
何か、変なことを言ってしまったのだろうかと、飲みかけていたタピオカドリンクを膝に置いて顔を見上げると、

驚いてような顔をしている赤羽さんが、
私の頭に大きく手を回して、引き寄せた。

私の頭に顔を寄せたかと思うと、優しく撫でて。




「恋ちゃんの、そういうのが好きだよ。」


「・・・//// 」





「俺は普通の国家公務員だよ。まあまだ3年目だし大した仕事はしてないかなあ。
経済産業省にいるよ。

だから割と土日は休みなんだ。今働き方改革とかで、残業とか休日出勤すると怒られるしね。

黙っていたかったわけじゃないけど、ちゃんと話さなくてごめん。」



「いえ、お仕事のこと話してくれて嬉しいです。
何となく、赤羽さんの仕事する姿がイメージできます。」






「あとさ・・」



赤羽さんは、抱き寄せていた私の頭を解放して言った。






「俺、恋ちゃんのこと、好きだよ。」






赤羽さんは、唐突に、

再び私に告白してくれた。





あの時のことは、夢だったんじゃないかと、
なんども私を不安にさせたし、
もしかして”好き”の意味を私が取り違えたのではないかとか、私の勘違いじゃないのかなんて、考えたりした。

手を繋いでくれて、本当に好きでいてくれているのかな、と
少しだけ期待したりもした。





揺れている私の気持ちに気づいてくれているのだろうか。





「・・私、でいいんですか?」



「ん?」



「私、勘違いしてるんじゃないのかとか、好きの意味が違うのかもとか、実はいろいろ考えてました。
私が、大人の赤羽さんと一緒にいることを、望んでもいいのかな、って・・」



毎回、私は変なことを言っているのかもしれない。
赤羽さんは、軽く笑って、また私の頭を引き寄せた。





「んー、俺、不思議と恋ちゃんには素直になれるんだよね。

俺の職業とか、年齢とか、あまり気にしてなかったでしょ?
そういうのが結構、嬉しかったんだ。

俺も一緒にいてほしいし、恋ちゃんが嫌になるまでは離すつもりないよ?」






嬉しかった。
私の大事なところと、きっと赤羽さんの大事なところは似ている。



久しぶりのお出かけは、のんびりとたくさん話ができる1日だった。
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