舞姫
□A 骨牌(カルタ)
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芥川さんは、
いつも忙しそうだ。
銀ちゃんと一緒に居ることが多い私だから、会うことも多い方だと思うけれど、それでも月に1・2度程度だった。
朝になって仕事から帰ってくることもあれば、数日は帰れないこともしばしばなのだとか。
それも全部、銀ちゃんから聞いたことなんだけれどもね。
今日はお休みなんだろうか。
「・・あの、芥川さん・・・」
「なんだ。」
「怒っていますか?」
「・・何をだ?」
進まない会話と、早歩きで着いていくのに必死なのとで、次にどんな言葉を続けて行けばいいのか迷っていた。
急に、黒い靴が動きを止めたと思ったら、
芥川さんが立ち止まり振り返ってきた。
私も慌てて動きを止めて、息を整えながら芥川さんの顔を見上げると、そこには、よく知っている心配そうな表情の芥川さんと目が合った。
「すまない。
歩くのが少し早かったな。」
「怒ってますか?」
「怒ってはいない。
ただ、気に入らない。」
え・・、と心の中で驚いたのか、実際に声が出たのかわからない程、動揺してた。
気に入らないって、
やっぱり怒ってるんだ。
「やっぱり・・怒ってる。」
ぼそっと、今度はちゃんと声を出した。
「なぜ探偵社なのだ。
ポートマフィアなら、なんの不自由もなく今まで通りに暮らせただろう。
ボスも、なぜあなたを手放したのかがわからない。」
「おじさまは、私が、どうしても異能力を使わない、と知っていたからだと思います。
きっと、初めからわかっていたんだと思います。使うように言ったけれどやっぱり使おうとしなかったから、嫌いになったのかな・・?」
「・・・舞姫の、異能力とはなんだ。」
眉と眉の間に、しわを寄せた険しい顔になって私にそう聞いた。
芥川さんとは、異能力の話はしたことがない。
いや、銀ちゃんや幸田君にもしたことないし、たぶん私の異能力を知っているのは、おじさまと探偵社の福沢社長くらいかもしれない。
「ナイショです♪」
「言えぬのか。」
「・・はい。聞かないほうがいいです。」
それから芥川さんは、何も聞かなかった。
父の言いつけは、絶対に異能力は使わないこと。話さないこと。
聞けば、その能力を試したくなる者がいるだろうから、話すこともしてはいけない。
同じ能力を持っていた父は、絶対にその能力を使わなかったそうだ。
だから、その能力欲しさにいろいろな組織から狙われて、母が襲われた時も能力は発動させなかった。そして自分が死ぬ時も。
もしも、異能力を使っていたら、
ふたりとも助かったのだろう。
「寒くなってきたな。夕食を食べていくぞ。」
「はい。
あの、芥川さん・・」
「なんだ?」
「ハンバーグが食べたいです。
チーズの入っているやつ・・
・・だめですか?」
しかたないな、と聞こえた気がした。
いや、実際はそういう顔をされた。
あぁ、メールをしなければ。
福沢社長に、今日は夕食を食べて帰るので遅くなりますって。
ひとりじゃないから、大丈夫ですよって。