舞姫

□B.熾熱燈(しねつとう)
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◆入社試験






「社長、入社試験はどうするんです?」





国木田が溜まった仕事が少し片付いたらしく、先延ばしになっていた舞姫の入社試験の事を切り出した。

ポートマフィアからの条件に、探偵社に入社という項目があったからだ。
国木田としては、全くそんなものはどうでもよかったし、そもそもポートマフィアと取引してまで面倒を見なければならない少女なのだろうかという疑問は、今も残ったままだった。

鏡花のように、酷い扱いを受けていて、というのならまだわかるが、ポートマフィアのボスに気に入られて贅沢にも学校にまで通わせてもらっていたという少女だ。しかも、護衛付きで。


そもそも、そんなに大事な娘なら、ポートマフィアも手放すなんてことをするはずがない。


やはり、スパイなのではないか、と国木田は常々思っていた。
だからこそ、彼女とは舞姫とは打ち解けることが出来なかった。



今まで、仏のような顔の人間に、幾度も騙されてきたのだから。
彼女がいくら美少女だろうと、素直に見えようと。





「入社試験は行わねばならないが・・」



社長がそういうと、衝立の脇からそっと出てきた当人が口をはさんだ。




「私は、

入社試験には、きっと合格はできないと思います。

だって、異能力を使おうとしない調査員なんて必要ないでしょう?」






「・・・居たのか。」




すみません、とでもいうように彼女は会釈をした。
社長は国木田にも、彼女の異能力の事は話していないようだった。

彼女が、探偵社に少しづつなじんでくると同時に、彼女への疑問が徐々に探偵社員たちにも生まれてきていて、このままではいけないという気持ちは、福沢にも国木田にも、乱歩・太宰たちにもあった。






「福沢社長・・
やはりもう一度、おじさまと協議を・・・」




「いや、もう少し時間が欲しい。
国木田、この件はもう少し待て。私も考えておこう。」




「わかりました。」









こういう時、舞姫はとても申し訳ない気持ちになる。

探偵社員たちに不安や心配を掛けている。
解っているけれど、異能力の事は話すことが出来ない。
どうすれば、みんなが楽しくいられるのだろうか。




















社長室から出て行った国木田は、
乱歩のところへ行くと、先程社長室であったことを話した。





「へーえ。
社長が?舞姫ちゃんの入社試験を考えておくから待てって?

んー、何か特別な事情があるんだろうね〜」




「・・・乱歩さん。
舞姫ちゃんは、ポートマフィアのスパイとかじゃないですよね?」




ふたりの会話を聞いていたらしく、敦が口をはさんできた。
国木田と同じ疑問を抱いていたようだった。
どうやら、周りに居たほかのメンバーたちも同じことを考えて不安に思っていたのだ。





「それはないね。

だって、もしもポートマフィアのスパイだとするじゃない。そしたら、もう今頃社長に殺されてるでしょ?とっくにさ。」





「そうだよなー、社長の家に泊まりこんでいて、寝込みを襲わないなんて手はないよなぁ。

ていうか、社長の家なんてだれも行ったことないんじゃないかな。」





「あーないね。

猫がいっぱいいるっていう噂はあったけど。」






谷崎のあとに、与謝野先生までその話に入ってきた。皆興味深げだ。

社長のプライベートを知っているのは、唯一彼女だけということになる訳だ。






「彼女は、あえて普通の生活をしなければならない事情があるんだよ。
学校へ行って、社長と一緒に帰って夕食を食べて、それから猫と遊んで、寝る。

その毎日の生活を”普通”に過ごす必要があるんだ。



・・あぁ、そうか。そうだったんだ」





ひとり言のようにぶつぶつと言っていると思ったら、いつもの超推理のように閃いて、そして一人で納得をしている姿を見て、皆が不思議な顔をしてその答えを待った。






「乱歩さん、なんなんですか?その理由は。」




「う〜ん・・彼女はね、普通に過ごさなければいけないんだ。
おそらく異能力を使わないために。

異能力を持たない、普通の女の子としてそれを装って暮らさなければいけない。

いや、使わないというより、使えないように。
もっと言えば、使う機会がないように・・といったところかな。」




周りに居た全員にハテナマークがついた。
わかったような、わからないようなその顔に、乱歩はプッと噴き出したが、すぐに真剣な顔つきに戻り、





「ただ、僕が言えるのは此処まで。

あとは社長の意図に反するだろうから、言わないよ。
まぁ、悪い娘じゃないのはわかるだろう?きっとみんな仲良くなれるよ。」





その場にいた全員が、黙ってもとの場所へ戻って、仕事を再開した。そんなんじゃ何にもわからないよ、という声がちらほらしたけれど、おおよその理由がわかってしまった乱歩は、乱歩だけは怪訝そうな表情だった。
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