舞姫

□B.熾熱燈(しねつとう)
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「おはよう、舞姫ちゃん。」





ゆっくりと目を開けた舞姫は自分がどうして眠っていたのか、どこにいるのか、いつなのか、

状況を理解できないでいた。




「覚えてないのかい?昨日の夜からの事。」



覗き込んで様子を見る与謝野の言葉に、此処が探偵社の医務室だろうという事に気が付いた彼女は、ゆっくりと体を起こそうとした。



不意に、両足首に激痛が走り、その足首には包帯が巻かれているのが分かった。








「あぁ、私が”キミシニタモウコトナカレ”で、傷を治そうとしたんだけれどね、あんたの異能が発動して、傷一つつけることが出来なかったよ。

あたしの異能は、瀕死の状態じゃあないと効果がないからね。」





そうなのだ、手足の酷い腫れを治してやろうと、瀕死の状態まで傷つけようとしたところ、意識のない彼女の体から異能が発動され、それは遮られてしまったのだ。
よって、与謝野の異能は使えなかった、治せなかったという事である。





「異能が・・・わたしの・・」




「そうだよ。無意識に守ろうとでもしてるのかもね。」



ベットに座った舞姫の隣に腰掛けた、与謝野はすぐに彼女の異変に気が付いた。






「あ・・・うっ・・」




大粒の涙が、ぼろぼろとこぼれ、彼女の服の上にぼたぼた落ちた。それはすぐにしみになり、与謝野は、声を抑えつつも酷く泣きじゃくる彼女の背中を撫で続けた。















「・・・わたし、誰に、
したんですか・・・?」





「あぁ、・・国木田だよ。」




「国 木田さん・・。

ほかは?ほかには誰に・・?」




心配そうに、ようやく顔を上げて与謝野のほうを見上げた。
その顔の可愛らしいこと。泣いて真っ赤になった目と、紅潮した頬とが、なんとなく与謝野自身の心をかき乱す。


あぁ、なんとなくわかる。
彼女が色香を出した異能を使って、それで国木田があの状態になったのが。

男じゃなくたって、誘惑されるわ。





そんなことを考えてしまっていた。




「ほかには誰にもしてないそうだよ。
心配しなくてもいいよ。社長なんてあんたのその姿を誰にも見せたくなくて、あんなに異能力をひた隠ししてたんだから。」




「・・・福沢社長には、此処に来たばかりの時、お世話になる条件として、異能を使ってみせたんです・・。

その時も私は・・自分の知らないうちに、祝福のキスを施し、社長に色香を使ったそうです。


恥ずかしくて、もう・・・。」





そうか、と言って与謝野はまた背中を撫でた。
女の子にとっては、全然嬉しくないだろうその能力に、少しばかり気の毒に思って。







すると、

ぽつり、ぽつりと話し始めた。




初めて、異能を発動してしまった時、
同級生の男の子にキスをしてしまい、1か月ほど学校を休んだこと。
それからは、二度と使わないと異能を封印した。父親が亡くなるとき、力尽きるその時に力を分けようと祝福を施したが、間に合わなかったこと。




それから、その能力は力を与えるばかりではなく、威力を倍増させる。
そして能力を使うと、立っていられないほど疲れてしまう事。




とんだ能力だとも思ったが、かなり珍しいものだとも理解した。
恐らく、何人もいないであろう異能だ。












コンコン  ガチャリ






不意にドアが開いて、ナオミがのぞいていた。



「与謝野先生、目覚めました?」




「あぁ、すまないね。
さあ、みんなが舞姫ちゃんが目を覚ますのを待っていたんだよ。
会いたがっているよ。」





「・・あの、行かなきゃ、だめですか?」





きっと異能を使って、国木田にキスをしたことを気にしているのだろう。
国木田は意識しているのだろうか。





「気にしなくていいよ。
国木田は、大人だからね。なんとも思っちゃいないよ。」



「・・そうでしょうか。
わ、わたしのキスなんて、きっと子供っぽくて、大したことない・・ですよね・・?」




「そうだよ!
気にしない気にしない。

ほら、皆に元気になった姿を見せてあげな。」






傷ついた足を気遣いながら、ベットから手を引いて誘導すると、舞姫の背中を押して事務所のみんなのところへ突き出した。


両手両足、湿布と包帯でぐるぐる巻きで、少し痛々しい彼女は、
泣いて真っ赤にした目を、大きく見開いて動きを止めた。



「え・・これ。」











「「「「おめでとう!!!」」」」







社員全員、とはいかなかったが、
事務員を含め10人程度が探偵社の事務所で、舞姫に拍手をしている。

ぽかんと立ったまま、何が起きているのか理解できていない彼女は、敦が言った、『入社おめでとう』の言葉で、探偵社の入社試験に合格したことを知った。


以前、学科や実地試験は社長室で行ったが、その結果は社長には合格だと言われていた。

もうひとつ、探偵社にある最終入社試験は実践的なもの、と聞いて試験に合格するのは無理だろうと覚悟はしていた。






「舞姫ちゃん、君もこれで晴れて探偵社の社員だ。」



乱歩さんが、にっこりと笑いおめでとうと言ってピンクのリボンのかかった包みをくれた。
入社祝いだと言って。




「おめでとう!
傷は痛む?僕からはこれを。」



谷崎さんとナオミさんが、少し大きめの箱に、こちらも赤いリボンのかかったプレゼントらしきものだ。



「あの、・・ありがとうございます。」




それからみんなが次々と可愛い包装の包みをくれるもんだから、両手いっぱいになって、それを与謝野先生がそばにあるテーブルにおろしてくれた。



「私からは、コレ。舞姫ちゃんによく似合いそうな髪飾り。」



「うわぁ、かわいい・・」





最後に、太宰さんがくれたものは

小さい小さい箱に入ったプレゼント。ちっちゃいリボンが付いていて、どうやらアクセサリーの入っている箱のようだ。



「開けてみてよ。」



「はい。」



包みをほどくと、ピンク色の可愛い模様の付いた白い箱で、開けると中にはシルバーの花のモチーフの付いたネックレスだった。



「うわぁ、お花のネックレス。可愛い・・」



「なに、かわいいー!太宰さんっぽく無い!」



「えー?そう?
わたしはこういうのを選ぶのは得意な方なんだけれどね。
女の子はアクセサリーとかのほうがいいと思って。」




初めてアクセサリーをプレゼントされた。

可愛い女の子らしいの。
なんか女の子扱いしてもらったみたいで、嬉しいもんだなぁ。こういうのも。




与謝野先生が、お花のネックレスを付けてくれて、
事務室で、お菓子を持ち寄っての入社パーティが始まった。








「・・・舞姫。
その、俺は何も気にしてないし、これからはだな、困ったときはこの俺に頼れ。
お前が能力を使ってしまった時は、太宰が無効化する。
だから心配するな。」




「ご、ごめんなさい。
ほんとうに、ごめんなさい。」




舞姫は深々と頭を下げた。
そして、顔を真っ赤にしているの彼女を見た国木田が、照れながらも上司としてキリリとした態度をしたものだから、舞姫はほっとしたようで、それからは言われた通り、困ったことがあると国木田を頼るようになった。






探偵社に入社した舞姫は、昼間は学校へ夕方学校が終わると、探偵社に出社するようになった。
仕事という仕事はあまりできないが、社長の秘書のごとく必要な書類づくりなどの事務処理を次々とこなした。













ちなみに、皆のプレゼントの打ち明けはこうだ。



太宰:花の形のネックレス
与謝野:髪飾り
国木田:薄いピンク色の靴
谷崎・ナオミ:黒のワンピース
敦・鏡花:ニーハイソックス
社長:猫のついたポーチ
乱歩:お菓子を入れておけるバスケット







それを全部身に着けて、週末の探偵社に出勤した舞姫はみんなの絶賛を受けたそうだ。
とくに乱歩からは、激しく・・。
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