舞姫

□C. 燈火(ともしび)
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学校は好きだ。
大好きな銀ちゃんがいるし、幸田君もいる。
他にも授業を聞くのも、体育も音楽も全部楽しい。

それに、今は探偵社の方々と夕方一緒に仕事ができるのが楽しい。






「どうしたんですか?舞姫さま。」



「あぁ、ごめん。銀ちゃん。今日は幸田君は?」



学校の玄関で靴を履き替えると、いつも大体銀ちゃんと一緒に居て校門あたりで待っていてくれる幸田君がいないのを不思議に思った。



「今日は休みです。何か御用でもありましたか?」



「ううん、いつも居てくれるのに居ないのは、少し寂しいね。風邪とかじゃないよね?」



長いさらさらの髪を、かき分けて、少し言いにくそうに銀は答えた。



「今日は、・・・仕事で。」



「あ、・・そっか。」




仕事、というとー・・

やっぱり、ポートマフィアなんだから、健康健全な仕事ではないのだろうな。
あんなに優しい彼でも、人を傷つけたりするのだろうか。未だ信じられない。




「舞姫さま、どうしました?幸田に夕方顔を出すよう伝えましょうか?」



銀ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
なんともないよと笑って見せたが、そこはもう1年近く一緒に過ごす仲である。それが取り繕った笑いだろうことは、バレている。



「うーん、やっぱり今日メールしてみる。」

「はい。きっと喜びますよ。」















〜〜*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*







舞姫さまから、メールが来た。
あの方は、もう気がついているのだろう。俺が人を殺したり、傷つけたりしていることを。

ポートマフィアには、たくさんの構成員がいる。
大半が孤児だったり、家出した者だったりと何かしら育った環境は恵まれたモノではない。


でもそれでもチカラを持つものは、強い。

例えば異能とか。


芥川さんは、幹部にこそなっていないが、その能力の凄まじさはポートマフィア幹部も認めるほどの力だ。
一緒に仕事をしたことはないが、その残忍さは有名で、その方がとても舞姫さまと共に過ごせるとは思えなかった。

ボスが、彼女を芥川さんに委ねたと、

そう聞いた時から。




委ねたとは、芥川さんに舞姫さまをお譲りするということだろうか。その状況を少しでも知ろうと、芥川さんの班の知り合いに話を聞いたが、芥川さんにその気があるのかどうなのかさえ、分からなかった。




♬♩〜〜♪♬♪




”お疲れ様、今日は休みだったね。
今日は席替えだったよー!なんとね、私と幸田くんお隣同志だよ?これから2ヶ月、よろしくね。

では、またね👋”





舞姫さまからのメールだった。
探偵社に行ってからほとんどメールが来ることはなかった。
放課後アルバイトで事務仕事をしているからだと言っていたが、メールができないほどこき使われているのだろうか。あちらで嫌な目にあってはいないだろうか。

芥川さんは、なぜ放っておくのだろうか。


疑問が次から次へと湧いてきて、ついいつものように唇を噛み締めてしまった。そこからは血が滲み、鉄っぽい慣れた味がした。

隣の席。
それは、とても嬉しい。
学校で他の男子共に、舞姫さまと親しくさせないで済む。そして、その役は必然的に自分の役になる。



いつの間にか、それほどまでにも

好きになっていたのだろうか。



自分でも驚く。


ポートマフィアの、真っ黒で真っ赤に染まった自分が。


たった一人の、ごくごく普通に幸せに育った女の子を好きになるなんて。
きっと銀は気づいているのだろうな。



幸田は、そんなことを考えていた。
銀と自分がボスからの直接の指令で、舞姫様を護衛することになった時から、もうすぐ一年。


きっと、それは運命だと信じたい。
きっと、いつかうまくいく恋だと信じたい。



たまたま、指令で普通の生活のふりをしている、自分なんかでさえ、好きな人と一緒に過ごせる未来を。
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