舞姫

□C. 燈火(ともしび)
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国木田さんは事務室内の休憩室の畳のところで寝ているみたいだった。
私と太宰さんは、廊下のところで少しひんやりとした空気の中、そして真っ暗で窓からの少しだけの町の明かりで、お互いの位置を確認できている程度だった。


何が私に言いたいのだろうか。



「君は、私たちに対しても、ポートマフィアの人間に対しても変わらず接する。そして、どちらも君にとって良き友人であり仲間と認識しているのだよね?」



「・・はい、そうです。
銀ちゃんも幸田くんも、探偵社のみなさんも、私が知り合った大切な方たちです。だけど、大好きな人たちが、他の誰かを傷つけているとしたら、悲しい・・です。」



私は、ようやく思っていた自分の気持ちがはっきり言葉にできた。はっきり言葉にしたことで、自分の中でモヤモヤしていた霧が晴れたような、そんな感じがした。
私は、ポートマフィアの仕事をする友人たちという現実から、逃げていたのだわ。きっとそんなことない、なんて夢物語のように妄想して。


それを聞いて、太宰さんが言葉を続ける。



「私は、昔の友人との約束で人助けをすることを約束した。
君は、きっとポートマフィアのボスの森さんが、どんなに頼んでも無理やりそうさせようとしても、人を傷つけることはしないだろう。

でも、ポートマフィアはタダでは君を探偵社へやらない。
きっとそこには何か裏があるはずだ。私がポートマフィアのボスなら最後には、君をポートマフィアに引き戻すだろう。
おそらく、社長の元で社長の異能力によって、君の異能力が自在に操れるようになった時に。

それなった時に、君はとても傷つくだろうし絶望するかもしれない。もしかしたら、探偵社にもいられなくなるかもしれない。」




太宰さんの言っていることは、すべて私に降りかかっていたことと一致した。
森のおじさまが言っていたことや、なぜポートマフィアが以前より敵対する探偵社に、私を送る事になったのか、とか。



「・・いっその事、無くなってしまえばいいのに。」


「異能力が?」



私の独り言に太宰さんが答えた。



「そうです。あんな恥ずかしい異能力・・私は・・」


「うーん。・・でもさ、それを必死に守ろうとしてくれているおじさんたちもいる事だし、異能力が欲しい時に身について、いらない時は無くなってしまうなんて便利なものだったら、みんな自在に好き勝手に使ってるよ?」



「わかっています。
ちょっとだけ、愚痴を言ってみました。いつも思っている事なんですけどね。」


わかっている事だけれど、そう言って笑って見せた。
十分に愛想笑いだっただろうと思う。太宰さんならそれも見透かしているだろう。



「君は、君自身はどうしたいんだい?」



「わかりません。自分が何をすればいいのか、どうなればいいのか、本当は何も決められないでいるんです。
でも、私が私の出会った人の支えになれるのなら、そのための努力はしようと思っています。」



それは、ずっと考えていた事というよりは、今初めてはっきりとした言葉になった、『思い』だった。
でも、太宰さんが聞いてくれたおかげで、心の中でもやもやと雲のように漂っていたものが、すっきりと晴れてとても気分がいい。



「まっすぐだね。君は。」


「探偵社の皆さんの方が、ずっとまっすぐですよ。」


「そうだね。国木田君とか敦君、賢治くんもそんなタイプだよね。だから結構疲れるんだよね〜、私は。」


だるそうにそう言った太宰さんの言葉に、ちょっとだけ傷ついた。疲れるんだ、そういうタイプ。私を含め。



「あの、太宰さん。」


「なんだい?」


「ポートマフィアでは、上司から部下へ下賜を送る、というのはよくある事なんでしょうか。」



太宰さんが、ピクッと目元を動かしたような気がした。
ポートマフィアでの慣例なのかどうなのかが、聞きたかったのだが、やはり変なことを聞いただろうか。



「あまり聞いたことはないね。
何か褒美をもらうことはあったけれど、ボスの森さんの持ち物を下賜するなんてことは、聞いたことない。

・・・特に、『人』を下賜するとかはね。」




「え・・、し、知っているんですか?」


「中也に聞いたよ。
舞姫ちゃんにしては、回りくどい言い方するね。」




「すみません。

・・あの、下賜されたということは・・私はもうおじさまには必要ない存在、ということなのでしょうか。
もしそうならー・・」


「違うよ。

きっとそうじゃない。
芥川くんに君を託したのは、君が君自身の意思で、彼に協力するようになることを期待してのことだろう。
そしてその上で、君がポートマフィアにいつまでも残り、ポートマフィアに居続けることが目的だったんだと思う。」



太宰さんの言っていることは、正しい。
全て辻褄があうから。そう思う。






「寒くなってきたね。そろそろ寝たほうがいい。」


「・・はい、遅くまですみませんでした。
では・・おやすみなさい。」












私は、なぜかポートマフィアの芥川さんに会いたいと思った。
私がおじさまから下賜されたモノだから大切にしてくれた。

それでも、そうだとしても、
一人だった私を、大切にして守ってくれた。
そのお礼を言いたくなった。


銀ちゃんにも幸田くんにも・・


守ってくれて、ありがとう・・って。
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