舞姫
□D. 翳(かげ)
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おまけ@「梶井基次郎の生きる糧」
舞姫ちゃん、君に出会えたことが自分にとって人生最高に幸せなことだ!
そう、初めて出会ったのは2年前。彼女が14歳の時だった。
ポートマフィアに連れてこられた彼女は、唯一の父親を亡くしたばかりで身寄りがなく、ボスである森鴎外が引き取ったとのことだった。
少女の母親と古くからの知り合いなのだと言っていたが、知り合いだとはいえ少女を引き取るくらいだから、おそらくすごい異能力を持っているのだろうと推測した。
マフィアでは貧民街などで子供の異能力者をスカウトすることもよくあることだ。だから14とはいえ、ここに子供の能力者がいることはそう珍しいことではない。
だから特に興味も持たなかった
その姿を一目見るまでは。
市野舞姫
(現在)
16歳
158センチ
45キロ
血液型 O型
誕生日 11月30日
好きなもの 紅茶・いちじく・料理・お芝居をみる
嫌いなもの えび・かに・蜘蛛
さて、もう一度2年前の話に戻ろう。
彼女と僕が初めて出会った時、それはポートマフィア拠点内の廊下でのことだった。
部下に連れられた少女は、細くて肩ほどの髪の毛をさらさらと揺らして白いワンピースを着ていた。
凛としたその表情は、14歳のものとは思えず、目の前を通り過ぎたにもかかわらず、ついじっと見入ってしまうほどで、連れているマフィアの構成員に声をかけようと思ったが、なんとなく話しかけるのを阻まれた。雰囲気というか、空気に。
その次に少女を見たのはその3日後。
ボスが彼女に誕生日プレゼントを贈るというので、それを届ける仕事を引き受けたことだ。
本来なら下級の構成員の仕事だが、なんとなく引き受けた。
学校から出てきたその少女は、普通の女子中学生だった。
可愛かった。
笑った顔が天使のようで、それはもう見たことのないほどの透明感と、清潔感。
その瞬間、一気に引き込まれた。
その日は、預かったプレゼントを渡しそびれてしまった。
二日目、もう一度わたしに行こうと学校を訪れると、あまりに眩しい笑顔で、声もかけれなかった。
三日目も、四日目も、結局わたせず、結局のところ誕生日から一週間が過ぎてしまい、ボスにも報告ができないでいた。
あぁ、なんてことだ。
毎日少女の笑顔を観察しているうちに、すっかりそれに取り込まれてしまったのだ。
「舞姫ちゃあん。
可愛いよ、すごく素敵だよ。」
それからこっそり写真を撮ったり(犯罪です)、自宅を追跡したり(ストーキングです)、友達と買い物に行って買っていたものと同じものを買ってみたりと、彼女に近づきたいと思った。
「ねえ、舞姫、あの人いつもあんたのこと見てるけど、知り合い?」
「ん?どこ?」
ーーー舞姫ちゃんと、目が合った!ーーー
こっちを見ている。
くりんとしたまあるい瞳が、明らかにこっちを見ている。
これはーー
カメラ目線!!!
不意にスマホを取り出し、シャッターボタンを押した。
「あ!!今撮ったよね!?
ちょっと盗撮ですよ!!舞姫、警察呼ぼう!!」
「え!?あ、ま、まずい!」
慌てて逃げ出したが、きっと顔を覚えられた!
なんてことだ、恥ずかしい!
「あ、待って、これ落としましたよー!」
慌てすぎて、その場にスマホを落としたが、そんなものを取りに行く余裕もなかった。
あのスマホは仕事用ではないから、別段重要な情報は入っていない。無くしたとしても、やむを得ない。
そんなことよりも、
あー・・・きっと、変な奴だと思われた・・。(←既に十分に変な奴だが)
✳ ✳
翌日、ポートマフィアのボスから呼び出しを受けた。
最近は爆弾作りもおろそかで、仕事に身がないっていないと叱られるのだろうか。
それとも、ボスの大切な舞姫ちゃんの隠し撮り写真がバレたのか、誕生日プレゼントの件でまたお叱りを受けるのか・・。
あぁもうどれでもいいや・・。
正直言って、何がどうでも、もう仕事にならない。いっそのこと早退しようか。
そんなことを考えていた。
「ボス、梶井基次郎参りました。」
「やあ、今日君を呼んだ要件は、なんだと思う?」
「え・・?
あ、あの・・爆弾作りが滞っている件でしょうか・・それとも先日失敗した仕事の件・・とか・・・」
既に冷や汗がダラダラと流れていた。
やはりこの方の前に立つと、緊張が半端ない。
「いや、これだよ。これ。」
ボスの手のひらにあったものは、昨日舞姫ちゃんの学校の前で落とした、僕のスマホだった。
「こ、これは・・!」
「君のものだろう?
昨晩、舞姫ちゃんが届けにきたよ。」
「え!!!舞姫ちゃ・・様が!?」
なぜだろう、何故だろう!
何故これが私のものだと、わかったのだろうか!
「多分ポートマフィアの人のだろうから、と言って持ってきたよ。
君が彼女を監視してくれていたんだねぇ。助かるよ。
ボディーガードをつけたいところなのだけれど、中学校に潜り込ませるのは容易ではなくてね。まあ、学校内は安全だろうから心配はしていないのだけれどね。」
ボスの手から僕の手のひらに置かれた、見慣れたスマホが、
今日は全く違うものに思えた。
なんて優しいお方だろう。
そして、僕のことを知っていてくれた!
僕のことを、
僕のことを・・・!
これで、10年くらいは生きていける!
難しいレモン爆弾作りも、きっと頑張れる。
それから、ある事件をきっかけに、梶井は舞姫にものすごく嫌われることとなる。
それはまた、今度・・・♪