舞姫
□E. 油燈(ラムプ)
10ページ/10ページ
「モンゴメリちゃん。仕事何時に終わるの?」
「ちょっと!あんた!!
大丈夫なの?なんか襲われたんだって?熱も出たんだって?
本当に心配ばっかかける子なんだから!!」
モンゴメリちゃんのところへ行くと、すごい勢いでまくし立てられた。かなり心配をかけたらしい。
熱も下がってすっかり元気になった私は、話したいことを相談しに彼女のところへ行ったのだった。
「ふふ、ごめん。もう大丈夫だよ。
あとで話したいんだけど、時間あるかな?」
「もちろん!あと少しで終わるから、ここで待っててよ。」
「うん。じゃあ待ってる。」
私は、お店のカウンターの一番端の席に座った。
今日、学校が終わると、いつものように幸田くんと銀ちゃんと帰るはずだった。そこに今日は、中原さんが待っていて、話があると言ってきた。
きっとこのあいだの話だろうなぁと想像はついたけど、本当はこの方には先日助けてもらったお礼を言わなければと思っていた。
太宰さんの話によると、中原さんの『汚辱』という能力は太宰さんが異能無効化で止めなければ、死ぬまで力を使い果たす能力なのだという。
私の異能で暴走した中原さんは、自分でも止められず、私もどうにもできなくて、増幅したその力さえも使い果たして死んでしまうところだったのだというから、なんてことをしてしまったのだろうかと、心から反省した。
嫌だと言いながらも、安易に自分の異能力を使ってしまったこと。
それに大いに後悔した。
「この間は、すみませんでした。それと、ありがとうございました。」
頭を下げた。きっと中原さんも体のダメージはひどかったのだろう。
しかし、中原さんは、私を責めるようなことは一言も言わなかった。
「いや、異能を見せろと言ったのは俺の方だ。
まあ、俺とお前の異能の相性はあまり良くないみたいだがな。
その・・怪我はしてないのか。俺も汚辱を使っている間は、あまり意識はないからな。」
中原さんは、ポートマフィアの幹部なのだと幸田くんが教えてくれた。
そして元太宰さんの相棒なのだとも言っていた。
私は、自分では何もせずに二人に助けられてここにいる。
「私こそ、自分の能力さえちゃんとコントロールもできなくて、結果大変なご迷惑をおかけしてしまって・・。」
「ボスにお前を守るように言われた。
だがそれは俺の役目じゃねえ。俺は芥川にその指令を任せたんだが、あいにく今は芥川が北方へ出かけている。
だから俺が行っただけだ。」
「そうでしたか。
でも、私いつかきっと自分でちゃんと自分を守れるようになります。今特訓中なんですよ?」
みんなが助けてくれようと動いてくれている。
森さんも、社長も、国木田さんも、芥川さんも、中也さんも、
太宰さんも。
嬉しい、けれど
きっと自分でなんとかしてみせる。
私自身が、負けたらダメだと思うから。
自分だけでも、自分を信じてあげたい。
そして、助けてくれたみんなに報いたい。
「その、・・無茶するなよ。
奴らはかなり大きな組織だ。売られたら、まず探せないぜ。」
「はい。よく気をつけます、中原さんも怪我しないでくださいね。」
心配はないと言ったら嘘になる。
でも、次こそ絶対に捕まったりなんかしない。
次は、私が誰かを助けてみせるから。
そうして、中原さんと話をしたあと、探偵社付近まで送っていただいたところ、通りすがりの賢治くんに偶然会い探偵社へ帰った。
探偵社で事務仕事を終えた後、社長にお願いして、1時間ほどモンゴメリちゃんと話をすることになったのだ。
🌼
「・・で?どうしたのよ。あんたから誘ってくるなんて珍しいじゃない。」
仕事終わりのモンゴメリちゃんが、エプロンを外しながらやってきた。ひらひらとしたスカートがよく似合っていて、本当に可愛らしい。
近くにある花屋のあるビルの2階のカフェへ場所を変えて、二人でフェア中のイチゴのパフェを頼んだ。
雑誌にも載る、有名なパフェなんだそうだ。
「あのね。ちょっと相談なんだけどね。
最近芥川さんがおかしいの。北のほうへ出張へ行っているそうなんだけれど、電話がかかってきたと思ったら、用事はないってすぐに電話切ってしまったり。」
「はは〜ん・・。用もないのに電話をかけるような人じゃないってこと?
様子がおかしいのはそれだけ?」
モンゴメリちゃんが、イチゴのパフェの上に飾られているクッキーをつまんで、ニヤリと笑いながら聞いてきた。
「仕事が忙しすぎて精神的に追い詰められているとかー・・、私に言いたいことがあるけれど私が気がつかないから言いにくいとかー・・」
「あんた、鈍いからねー」
「あ、ひどーい。」
ぷぷっ、二人で吹き出して、大笑いして、
それから再びパフェをつつきながら女子トークをした。
「ねえ、本当はどっちが気になってるの?」
「ん??どっちって?」
「だからー、芥川って男と、あの探偵社の自殺マニア!」
「え?気になるって・・別にその・・」
あいかわらずそういう女子バナが好きだなあ。モンゴメリちゃんは。
「じゃあ、どっちといるとどきどきする?」
「・・うーん。どきどきって・・」
「じゃあ、二人とも死にそうな時助けたいのはどっち?」
「えぇっ!?どっちもだよ!」
「もうっ、じゃあさー、
他の女の子とイチャイチャしているのを見るの、嫌だなって思うのはどっち?」
モンゴメリちゃんの問いに、
一瞬フリーズした。
だって、考えたことなかったけど、
その答えはすぐにわかってしまって
あの人が、他の女性と楽しそうにしているところを想像しただけで、胸がきゅうっと締め付けられるような感覚がしたから。
「あ・・・」
「やっぱり、わかってるんじゃない。」
「・・うん・・。」
「でも、あの男で幸せになれる可能性、低いわよ?」
「そうかも・・というか、私のこと気にもしていないと思う。」
気がついてしまったその感情に、
すごく切なさを感じてしまって。
だって、あの人は女性には誰にでも優しい。そして触れられた女性は、皆顔を赤らめて次を求める。その姿を幾度もみてきたから。どんな表情で女性に触れるか、知っているから。
でも、その甘美な笑みは私には向けられたことはない。
「ちょっと、落ち込まないでよ!」
「あ・・ごめん。つい考え込んじゃって・・。」
「協力はしないわよ。ポートマフィアの芥川って男も、あんたには似合ってないけど、あんたのことは大切にしている。でもあの自殺マニアだけは、いけ好かないわ。
だから私は反対!」
「うん・・私きっと、みんなのことすごく大事に思っていて、いつも結果みんなを助けることを考えている太宰さんが好きなんだと思う。
その優しさと強さを心から尊敬してるの。」
モンゴメリちゃんが、空になりかけたパフェのグラスを眺めながら、呟いた。
「まあ、協力はできないけど話くらいなら聞いてあげるけど?」
「うん、ありがと。モンゴメリちゃん大好き❤」
二人でふふふっと笑うと、残りのパフェを食べ始めた。