おとしもの
□1.紫のスマホ
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準決勝
早く来て場所取りばっちり!
でも早く来すぎたかも。軽い練習も見れるからいいけど。
今日は”せいくん”は来てるのかな。
きっと高校バスケマニアとかかも。すごく詳しそうだし、ルールとかもわからないと教えてくれる。
「まずは・・洛山と秀徳の試合。」
「おーい、小羽〜」
後ろを振り向くと、同じクラスの一番の仲良し、凪沙がいた。
「凪沙、どうしたの?」
凪沙は背の高いバスケ少女。
現在の、帝光中の女子バスケ部の主将だ。
そして、帝光中バスケ部の男子と同様、女子バスケ部のレベルもなかなかのものだ。
部活帰りだろうか、学校のジャージのままこちらへの階段を軽々と降りてくると、手摺りに手をかけて、う〜んと背伸びをした。
「あーっ!
やっぱおっきい体育館はいいね!」
「凪沙、部活終わったの?」
どう考えても、いつもなら部活の時間のはずの彼女がここにいる。
「んー、実は途中で抜けてきちゃったんだ。
この試合観たくてしょうがなくって。
買いだしもあったし、
ま、たまにはね。」
主将なのに、そういう肩の力の抜けたところが割と好きだ。
短めのショートカットで、168センチの身長、それからさっぱりとした性格。それだけではない、濱田凪沙の男前っぷりと言ったら、帝光中学の女子は知らないものがいないと言われているほど、有名だ。
まさに、黄瀬涼太の再来ともいわれるほどのイケメンなのだ。
中2の後半になっての転校で、友達ができることなど期待はしていなかったのに、こんなに素敵な友人ができるなんて。
「ね、今日一人?ここ座っていい?」
「もちろん。」
うふふ、とふたりで顔を見合わせて、試合前のアップを見た。
「ね、凪沙。あの緑の髪の大きな人、なんかすごいかも。」
「ん?なにが?」
「なんとなくだけど、バランスが良くて繊細な感じがしない?シュートとか見てみたい。」
バスケとかお兄さんがやってるからってくらいで、ほとんど知らない小羽が、なかなか鋭い分析をする。
この間なんて、うちのバスケ部員の体調不良の理由を、見ただけで察した。
「小羽。あの洛山の背の高い、ちょっと髪の長い人。あの人とかどうよ。」
「き、綺麗な人・・ほんとに男の人なのってくらいだね。。」
珍しく、男子を褒めた。
まさかああいうのがタイプなのか?
「ねえ、あんた意外とマネージャーとかむいてるかもよ。」
ずっと思っていたことだった。
「私、前の学校でも部活やってなかったんだよ?」
「うん、でもさ、
たぶん私の感だけど、小羽よく気がつくし、観察眼あるし、料理もできるから向いてると思うんだよね。」
小羽は驚いたように目を見開いて、凪沙を見つめた。
それから少しばかり考えて、
「料理・・?関係あるの?
あ、でも
凪沙のとこのマネージャーならやろうかな。」
「それがね〜・・
うちの部、マネいっぱいいるんだよねぇ。」
そうなのだ、帝光の女子バスケ部は、男前な凪沙の存在からか、今年はマネージャーの数も部員の数にも困ることはない。
「だよね。
あとは詳しいスポーツとか、あまりないし。」
「男バスのマネ、また辞めちゃったみたいだから、あっちは喜ぶだろうけど・・
あ、ちなみに料理は、ドリンク作ったりとか合宿の時に炊事の手伝いとかマネはやるからさぁ。」
そう言いかけて、凪沙はちらっと小羽へ目をやった。
なにぶんこの容姿だ。
男子バスケ部なんかにマネージャーで行ったら、違う意味で苦労しそうだ。
「男子バスケかあ、なんでマネージャー辞めちゃうんだろうね。」
「たぶん、私たちが1年の時、すっごいかっこいい先輩たちがいたんだよね。男子バスケ部に。
で、それ目当てに入ったマネージャーが、いっぱいいてさ。
最初はみんな頑張ってやっていたと思うんだけど、その人たちが卒業して、もともと男子バスケ部なんて人数も多いし仕事も多いし、キツいでしょ?
それで辞めてったんだと思うよ。」
ふうん、と言って小羽はつまらなさそうにした。
ただ、兄のいた帝光中バスケ部が、意識の高い場でいて欲しかった。選手もマネージャーも。
だから、ちょっと残念な気がする。
お兄ちゃんと仲良しの、桃井さんとか、黄瀬さんとか、きっとこれ聞いたら残念がるだろうなぁ。
小羽はそばにあった、炭酸水のペットボトルを飲み干した。