おとしもの
□9.咲く花の色
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濃いピンク色のドレスは、派手すぎて、
いつも白や淡い色の服が好きな私にとっては、とてもハードルの高いドレスだと思った。
でも不思議。
今は、そのピンクさえも幸せの色に見える。
ドレスを適当に畳んで大きなバックに詰め込むと、急いでお化粧を直した。
コートをハンガーから外して、主催者に軽く挨拶をするとホールを出て、待っていたあの人のところへ向かった。
「もっとゆっくり準備してきてよかったんだよ。」
「だって・・、着替えてる間に居なくなっちゃいそうで・・。」
「居なくならないよ。
明日は、一緒に東京へ帰ろうか。」
「え・・、いいんですか?」
選抜の合宿の時、なんどか洗濯場で話をしたときより、もっともっと優しくて、
でもちょっと瞬きしたら、煙のように消えて、夢でした、なんてオチになりそうで怖かった。
コンサートは21人の演奏者がいて、夜は懇親会のようなものが用意されている。
その時間までにはずいぶんあるし、せいくんが京都を案内してくれるって言ってくれたので、一緒に近くを歩くことにした。
まさか、こんな日が来るなんて。
思ってもみなかった。
肩を並べて、一緒に歩いて、
ちょっと横を見ると、背の高い赤い人。
目をつぶるとせいくんなのに、目を開けると赤司さん。
不思議。
こんなに嬉しい。
一緒に居られることが。
「あ、赤司さん・・」
「なんだい?」
「私の事、メールの小羽が私だって・・
いつから知ってたの?」
冷たい空気に、夕方の風でコートのボタンもちゃんと留めていないと、寒い。
せいくんもキャメル色のコートを着ていて、マフラーは赤と青とグレーの3色なのを巻いていた。
「月バスに、春ころ、メンバーが載っただろう?
そこで名前を見たんだ。
そのあと、緑間に電話で確認したのだけれどね。」
「あ・・あの全体写真の・・。」
そっか、そんなに前から知っていたんだ。
「・・大学生か、社会人の人かと思ってました。」
「俺のことをかい?」
ほんの少しだけ驚いているような、赤司さんのことを珍しいと思った。
「もしかして既婚者とかだったら、どうしようとか・・本気で考えてた。」
赤司さんであるのか、せいくんなのか、両方なんだけど、よくわからない。
でも、そこにいるその人が、ずっと前から知っている、ちょっと意地悪で厳しくて、でも頼りになって優しい、せいくんなのだ。
そして責任感があってかっこよくてバスケが凄く上手で優しい、赤司さん。
どちらも私にとっては王子様のような人。
「ところで、さっきからえらく他人行儀だね。」
「いつものメールや電話での小羽じゃあないね。」
「あ、うん。
えっと、・・・・じゃあ普通に話しても、いい?」
「もちろんだよ。小羽らしくないからね。」
すこし嬉しそうに笑うと、せいくんは私の持っていた荷物を手から引き取ると、その大きなバックを軽々と持ってくれた。
「さあ、どこへ行こうか?
まずは、何か温かいものでも飲もうか。」
そういって連れて行ってくれたところは、京都らしい和風のお座敷タイプの客席のカフェ。
冬だからか、火鉢なんかが置いてあって、凄くおしゃれだ。
「うわぁ!可愛い。このカップ。それにおいしそうなモンブラン♡」
「相変わらず、美味しいものと可愛いものに目がないね。」
私は温かい紅茶とモンブランのケーキセット。
せいくんは、お抹茶とチーズケーキ。
「うふふ。嬉しい!
せいくんとこうして、ケーキが食べられるなんて、夢みたい!」
そう、ずっと夢だったから。
こうするの。
「幸せそうだね。小羽」
「・・だって。」
ついついほっぺたと口元がにんまりしてしまう。自分でもわかる程に。
「ここへは、レオとも来たことがあるよ。」
「レオさんと?じゃあ、小太郎さんとかも?」
「いや、レオと二人で来たよ。
たしか玲央が引退したあとだったかな。」
モンブランをサクッとフォークでさして、口の中へ運ぶと、香ばしくて甘い栗の味が広がった。
せいくん・・いや赤司さんの食べ方って、すごくきれい。品がいいっていうか、スポーツやっている男の子って感じのイメージがない。
「・・もっと早く、せいくんと会いたかったなぁ。
そしたら、せいくんのバスケの試合、応援できたのに。」
「君は秀徳のマネージャーだろう。
それでも応援してくれてたのかい?」
「してたよっ、
い、一番は秀徳だけど、それとは別に、個人的に応援してたからっ」
「そうか、それは残念なことをしたかな。
でも、小羽を守ることはできなかったよ。あの時なら、きっと。」
「そんなこと・・」
言いかけて、言葉を止めた。
そっか、きっと灰崎さんとのことを、気に病んでくれているんだ。
確かに、思い出すのも嫌な出来事だったけど、あの時助けに来てくれたのは先輩たちと赤司さん、でもそこにせいくんがいたら・・と思ったことは確かだ。
ただ、電話を、偶然だろうけどかけてきてくれて、結果助けてくれたのは赤司さんであってせいくんだったのだから、それはとても嬉しい。
でももう、そんなことはいいや。
こうしてせいくんと、会えたんだから。
それだけで、もう十分贅沢だし。
突然やってきたその幸せが、
すごく、すごく、大切で、
ずっとかみしめていたいと思った。