おとしもの
□1.紫のスマホ
2ページ/7ページ
あれから数日。
お従兄ちゃんの誠凛高校は準々決勝まで勝ち進んでいた。
今日は、秋田の高校と試合らしい。
でもまず、その前に・・
「こんにちは。
この間、携帯を預かっていただいていた、
七原小羽です。」
この間のおじさんはいるかな〜と思いながら、事務室を覗くと、おじさんは覚えていてくれたのか、すぐに気がついて出てきてくれた。
「ああ、よく来たね。
拾ったひとと連絡がついたよ。」
「ほんとうですか!よかった。」
おじさんは嬉しそうに微笑むと、寒いからと言って事務室の中に入れてくれた。
「お礼が言いたいって言ってることを伝えたんだけど、大したことじゃないからいいと断られてねえ。」
「えぇ〜・・そうなんですかぁ・・」
がっかりした。
ひとことだけでいい、どうしてもお礼を言っておきたかった。大切なたからものを、届けてくれた優しい方に。
「でも、お嬢ちゃんがどうしてもって言ってるからってお願いしたら、携帯にかけていいっていってたよ。」
おじさんはちゃっかりウインクでもしているかのように見えた。
「えっ、あ、
ありがとうございます!
早速かけてみます!!」
事務室で携帯番号を聞いて、自分の携帯に番号を打ち登録した。
とりあえず事務室のおじさんにお礼を言ってロビーに出た。
ロビーの長椅子に座って、早速その番号にかけてみると、携帯を耳に当てて・・
1コール・・・
2コール・・・
やばいかも。
だんだん緊張してきた。
3コール・・・
4コール・・・
なんて言ったらいいんだろう。
何も考えずに掛けたことを後悔した。
「・・でない。」
もしかしたら、試合に出る選手かもしれない。
そうなれば、もちろん携帯なんて持ち歩いていないだろうし。
いや、応援に来ている家族だったとしても、今日は仕事中かもしれないし、
いや、もしかしたら学校の応援団かもしれない。なんてったってウインターカップなんて、大きな大会なんだから、どんな人が試合を見に来ているかわからない。
「時間をかえて、またかけてみようかな」
試合会場に入り、携帯をまたなくしたりしないようにての中に収めて試合を見た。
*.☆.。.:*・゜*.☆.。.:*・゜
熱戦だったのに、お従兄ちゃんはまた勝った。
ほんとうに強いんだ。お従兄ちゃんの学校。
メンバー全員が、喜びに満ち溢れ、そして
ほんとうに楽しそうだ。
その時、手に持ったままの携帯から、
表示は知らない携帯番号がなった。
〜♪〜♫〜`*.☆.。.:*・゜
「もしもし・・」
「もしもし、
さっき電話をいただいたんだけど、すぐに出れなくて。」
そう言った声は、先日の自分の電話に出てくれたあの声だった。
騒がしい会場から、あわてて廊下へでると、
そこは会場のざわつきとは裏腹に、静か過ぎて声が響くほどだ。
「あの、このあいだ携帯電話を拾っていただいた者です。
迷惑かもしれないとは思ったんですが、どうしてもお礼が言いたくて。」
「ああ、別によかったのに。
無事に届いたみたいで良かった。」
「いえ、すごく大切にしていた携帯なんです。
ほんとうにありがとうございました。」
「今日はウインターカップを見に来たのかな。」
拾い主さんは、そう続けた。
きっと、会場の声が電話の先にも聞こえているのだろう。
従兄弟が出ているのでその応援に、と答えると、じゃあどこかで会っていたかもしれないね、と言った。
もう一度お礼を言って、電話を切った。
ちゃんとお礼が言えて良かった。
とてもいい人に拾ってもらえて、ちゃんと帰ってきた大切な携帯。
思い出の紫色のスマホ。
.☆.。.:*・゜.☆.。.:*・゜
「ねえ、征ちゃん。
誰と電話してたの?」
「ああ、この間の試合の時、携帯を拾っただろう?その持ち主だよ。」
鞄から着替えを取り出して、それをロッカーに一旦置くとユニフォームを脱いでそれに着替えた。
「へえ。珍しいわね。征ちゃんがそういうことするの。」
何か含みのある目で、そう言ったのは玲央だ。
「僕だって、落し物くらい拾うさ。」
「そうじゃなくて、そのお礼の電話、かかってきたのをかけ直したんでしょう?
それが、珍しいと思って。」
大きな男がその会話に割って入った。
「その携帯拾った相手って、女か?」
「ああ、そうだが。」
「まじか!
その子って、どこの学校の子!?可愛かった?」
ロッカールームに響き渡るほどの、明るい声、小太郎だ。
赤い髪の征ちゃんと呼ばれた少年は、軽く笑んで、いつものようにタオルで体の汗を拭きながら答えた。
「残念ながら、会ってはないよ。」
「ちょっと、小太郎。
大会中なんだから、もうちょっと気をひきしめておいて頂戴!」
そう言いながら先ほど通話を終えた友人の携帯の画面に、LINEの連絡メールが来ているのが見えた。
「あ、征ちゃん、LINEきてるわよ。」
確かに、携帯の画面にメールの表示があった。何も言わずに、携帯を手にとると、
そこには、
『知りあいかも?』
『小羽』
・・・と。
ああ、きっとさっきの子だね。
紫色の携帯の。
なんとなく。
なんとなくだった、普段なら消してしまう連絡先だ。
だけど、
特に意識せずに、
『小羽』にメールを送った。
携帯を拾った者です。
言い忘れていましたが、
携帯を拾った時に
友人が携帯を踏んでしまいました
傷が付いていないといいけれど。
不注意ですみません。
きっとこの会場にいるであろうその子。
わざわざお礼の電話もしてくれるような子だ。
電話の声はとても丁寧で、きちんとしてる印象だった。
大会の最中ではあるが、ちゃんと伝えておきたい。
ロッカールームを片付けて、体育館を出て宿舎に帰るバスの中で、
『小羽』から返事がきた。
こちらこそすみません。
体育館の事務所で連絡先を聞いたとき
携帯に登録してしまったから
LINEに入ってしまったみたいですね
携帯がもどってきただけで、
本当に十分です。
傷などありませんよd(ゝc_
わざわざありがとうございます。
こちらこそ、
勝手にメールをしてしまったね。
何ともなってなくてよかった。
外は暗いので気をつけて。
そう簡単に、返事をした。