おとしもの

□1.紫のスマホ
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あれから数日。

お従兄ちゃんの誠凛高校は準々決勝まで勝ち進んでいた。



今日は、秋田の高校と試合らしい。



でもまず、その前に・・






「こんにちは。
この間、携帯を預かっていただいていた、
七原小羽です。」



この間のおじさんはいるかな〜と思いながら、事務室を覗くと、おじさんは覚えていてくれたのか、すぐに気がついて出てきてくれた。



「ああ、よく来たね。
拾ったひとと連絡がついたよ。」


「ほんとうですか!よかった。」




おじさんは嬉しそうに微笑むと、寒いからと言って事務室の中に入れてくれた。



「お礼が言いたいって言ってることを伝えたんだけど、大したことじゃないからいいと断られてねえ。」


「えぇ〜・・そうなんですかぁ・・」




がっかりした。

ひとことだけでいい、どうしてもお礼を言っておきたかった。大切なたからものを、届けてくれた優しい方に。




「でも、お嬢ちゃんがどうしてもって言ってるからってお願いしたら、携帯にかけていいっていってたよ。」


おじさんはちゃっかりウインクでもしているかのように見えた。




「えっ、あ、
ありがとうございます!
早速かけてみます!!」






事務室で携帯番号を聞いて、自分の携帯に番号を打ち登録した。
とりあえず事務室のおじさんにお礼を言ってロビーに出た。



ロビーの長椅子に座って、早速その番号にかけてみると、携帯を耳に当てて・・



1コール・・・


2コール・・・




やばいかも。

だんだん緊張してきた。





3コール・・・


4コール・・・




なんて言ったらいいんだろう。
何も考えずに掛けたことを後悔した。





「・・でない。」




もしかしたら、試合に出る選手かもしれない。
そうなれば、もちろん携帯なんて持ち歩いていないだろうし。


いや、応援に来ている家族だったとしても、今日は仕事中かもしれないし、
いや、もしかしたら学校の応援団かもしれない。なんてったってウインターカップなんて、大きな大会なんだから、どんな人が試合を見に来ているかわからない。





「時間をかえて、またかけてみようかな」



試合会場に入り、携帯をまたなくしたりしないようにての中に収めて試合を見た。






*.☆.。.:*・゜*.☆.。.:*・゜










熱戦だったのに、お従兄ちゃんはまた勝った。
ほんとうに強いんだ。お従兄ちゃんの学校。

メンバー全員が、喜びに満ち溢れ、そして
ほんとうに楽しそうだ。





その時、手に持ったままの携帯から、
表示は知らない携帯番号がなった。




〜♪〜♫〜`*.☆.。.:*・゜






「もしもし・・」



「もしもし、
さっき電話をいただいたんだけど、すぐに出れなくて。」




そう言った声は、先日の自分の電話に出てくれたあの声だった。

騒がしい会場から、あわてて廊下へでると、
そこは会場のざわつきとは裏腹に、静か過ぎて声が響くほどだ。






「あの、このあいだ携帯電話を拾っていただいた者です。
迷惑かもしれないとは思ったんですが、どうしてもお礼が言いたくて。」



「ああ、別によかったのに。
無事に届いたみたいで良かった。」




「いえ、すごく大切にしていた携帯なんです。
ほんとうにありがとうございました。」


「今日はウインターカップを見に来たのかな。」




拾い主さんは、そう続けた。
きっと、会場の声が電話の先にも聞こえているのだろう。


従兄弟が出ているのでその応援に、と答えると、じゃあどこかで会っていたかもしれないね、と言った。






もう一度お礼を言って、電話を切った。




ちゃんとお礼が言えて良かった。
とてもいい人に拾ってもらえて、ちゃんと帰ってきた大切な携帯。
思い出の紫色のスマホ。










.☆.。.:*・゜.☆.。.:*・゜










「ねえ、征ちゃん。
誰と電話してたの?」



「ああ、この間の試合の時、携帯を拾っただろう?その持ち主だよ。」




鞄から着替えを取り出して、それをロッカーに一旦置くとユニフォームを脱いでそれに着替えた。



「へえ。珍しいわね。征ちゃんがそういうことするの。」


何か含みのある目で、そう言ったのは玲央だ。







「僕だって、落し物くらい拾うさ。」


「そうじゃなくて、そのお礼の電話、かかってきたのをかけ直したんでしょう?
それが、珍しいと思って。」






大きな男がその会話に割って入った。


「その携帯拾った相手って、女か?」



「ああ、そうだが。」



「まじか!
その子って、どこの学校の子!?可愛かった?」



ロッカールームに響き渡るほどの、明るい声、小太郎だ。


赤い髪の征ちゃんと呼ばれた少年は、軽く笑んで、いつものようにタオルで体の汗を拭きながら答えた。



「残念ながら、会ってはないよ。」



「ちょっと、小太郎。
大会中なんだから、もうちょっと気をひきしめておいて頂戴!」


そう言いながら先ほど通話を終えた友人の携帯の画面に、LINEの連絡メールが来ているのが見えた。




「あ、征ちゃん、LINEきてるわよ。」


確かに、携帯の画面にメールの表示があった。何も言わずに、携帯を手にとると、
そこには、






『知りあいかも?』

『小羽』

・・・と。







ああ、きっとさっきの子だね。
紫色の携帯の。








なんとなく。


なんとなくだった、普段なら消してしまう連絡先だ。



だけど、


特に意識せずに、
『小羽』にメールを送った。





    携帯を拾った者です。
    言い忘れていましたが、
    携帯を拾った時に
    友人が携帯を踏んでしまいました

    傷が付いていないといいけれど。
    不注意ですみません。







きっとこの会場にいるであろうその子。
わざわざお礼の電話もしてくれるような子だ。

電話の声はとても丁寧で、きちんとしてる印象だった。
大会の最中ではあるが、ちゃんと伝えておきたい。






ロッカールームを片付けて、体育館を出て宿舎に帰るバスの中で、

『小羽』から返事がきた。





    こちらこそすみません。
    
    体育館の事務所で連絡先を聞いたとき
    携帯に登録してしまったから
    LINEに入ってしまったみたいですね

    携帯がもどってきただけで、
    本当に十分です。
    傷などありませんよd(ゝc_
     
    わざわざありがとうございます。      
             










    こちらこそ、
    勝手にメールをしてしまったね。

    何ともなってなくてよかった。
    外は暗いので気をつけて。
    
             
           

    



そう簡単に、返事をした。
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