おとしもの
□1.紫のスマホ
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「〜〜小羽っちー!!」
試合会場のアリーナに着いて、先ず始めに出会った人は、
背が高くて、目立つ容姿で、おっきな声で私を目指して走ってきた。
「・・黄瀬さん、こんにちは。」
「来てたんスね!
今日も黒子っちの応援ッスか?」
きらきらしたさわやかな笑顔で、人懐っこい感じのこの人は、年下の私なんかにも気さくに話しかけてくれる。
兄の友人の話では、とても女子に持てるそうで、あの笑顔は営業スマイルというのだそうだ。
「黄瀬さんのところの海常高校と、今日は試合なんですよね?」
「そうっスよ。
小羽っちに応援して欲しいけど、やっぱ黒子っちを応援するんスよね〜」
「はい。でもお兄ちゃんには勝って欲しいけど、黄瀬さんも応援してますから。」
そういうと黄瀬さんは海常の先輩に呼ばれて、「あとでまた、」と言って手を振って、体育館へ消えた。
「なあ黄瀬。あの子、すっげー可愛いな!
おまえのモデルの友達か?」
「中学生?
まさかお前のファンじゃないだろうな。」
海常先輩たちが口々に聞いてきたもんだから、
ちょっと得意げな気分になって小羽っちを自慢した。
「小羽っちはまだまだピチピチの中2っス。
誠凛の黒子っちの妹ちゃんっスよ。可愛いっしょ!」
小羽っちは、すごく可愛い。
見ためとかももちろんだけど、特に心が。
桃っちみたいに中学時でめっちゃ大人っぽいとかでもなく、歳相応でだけれども時々見せるその表情には、可愛いとか綺麗だとかそんな言葉は全く当てはまらない、不思議と目を引かれ心を奪われる時がある。
よく周りの人を見ているし、気使いもできる。それから見た目で、人を判断しない。
なにしろ未だに、俺がモデルをしているってことを知らないっぽい。
.☆.。.:*・゜
初めて小羽っちを見たとき、彼女は試合の応援に来ていてその会場で、なぜか灰崎と喋っていた。
一瞬、あーショウゴくんまた女の子に手え
出してるって横目で見て、通り過ぎようかなと思ったんだけど、偶然聞こえてきたその言葉に、つい足が止まった。
『・・・おまえ、あの黒子の妹ってほんとなのか?』
なんで灰崎が、黒子っちの妹ちゃんことなんて知ってるんだろう。
・・・てか、黒子っちに妹なんていたんスか?
中学の頃、黒子っちから妹の話なんて一度も聞いたことなんてないし、それにあんなに可愛い妹!?
近くで見ていた海常のチームメイトに聞いたところ・・・
どうやら、ほかの学校の生徒に絡まれていたところに黒子っちが気付いて助けに入ったところ、灰崎が通りかかったようだった。
「灰崎くん、助けてくれてありがとうございます。」
「はあ?
俺がいつお前の妹を助けたんだよ。」
灰崎はテツヤを忌々しく思い、睨みつけた。
「灰崎くんが通りかかってくれたおかげで、さっきの人達が勘違いして逃げていきましたから。」
「あいかわらずバカだな。おまえ、」
そうすると、灰崎は小羽の方へ興味を示した。
「へえ、黒子の妹っつうだけあって、可愛いじゃん。今から俺と遊びに行くか?
なぁ?」
そう言って、興味ありげに小羽に手を伸ばそうとした瞬間、テツヤの表情は一変し、灰崎を鋭く睨みつけた。
「小羽に触らないでください!
いくら灰崎くんでも許しませんよ。」
普段穏やかな黒子の、見たこともない形相でさすがの灰崎も、ため息をついて手を引いた。
「・・チッ!
コドモに興味なんてねえわ。・・てかお前の妹ってだけで、萎えるし。
まぁ、りっぱに育ったら相手してやってもいいけどな。
じゃあな、黒子〜」
そのとき、小羽が鞄から、何かを取り出して歩き始めた灰崎を呼び止め、それを渡した。
「指、血が出てます。どうぞ。」
爪の脇から、地が滲んでいた。
話している時から、ちょっと気になっていて・・と笑うと、絆創膏を渡して兄のところへ戻った。
.☆.。.:*・゜
灰崎と小羽とはどうやらそんないきさつがあったようだ。
『お前、また絡まれたいのか?
一人でうろうろしてんな。バーカ』
関わるつもりはないとでも言うかのように、そういうと灰崎はその場を去った。
その灰崎の言葉は、耳を疑った。まさかあいつがあんなことを言うなんて信じられなかったもんだから。
ふたりの間が何だったのか、全く予想もできなかったけど、黒子っちの妹ってのが灰崎がおとなしく引き下がった理由かも、って思った。
遠まわしでも、アイツが人を気遣うようなことを言うなんて。
でもそれよりも、その子の堂々とした、その凛とした表情の横顔が、忘れられなかった。
決して、見た目からしても灰崎は、ガラ良くは見えない。むしろ女の子からしたら怖いはず。
なのに、怖がるどころか、対等に会話していたように見えた。
そういえば、黒子っちも灰崎には普通に話してたっスね。
やっぱ兄妹だから?
俺には出来ないって思った。
それが彼女に初めて会った時の印象。
そういえば、俺に対しても特に特別な扱いをするわけでなく、ファンの子がいると近寄らないし、特別な思いも無さそうで・・
あぁ、そっか、
そういうのがきっと彼女には無いんだ。
だから・・・
.☆.。.:*・゜
「じゃあ、あの小羽ちゃんて、お前のファンとかじゃないってことだな?」
「俺、完っ全にファンになったわ。」
女の子が大好きな、森山先輩が目をキラキラさせて言った。
「ダメっス!!
小羽っちは絶対にダメっスよ!」
「黄瀬のファンじゃないんだろ。
一人くらい譲れ!」
可愛い女子を常に求め続ける森山先輩は、割とイケメンだし危険だ。小羽っちはああいうタイプには絶対に合わない。
「小羽っちは天使なんスよ。
先輩たちには勿体無いッス。」
「てめ〜〜〜(怒)!!」
ショウゴくんが、小羽っちに気安く喋ってるのは正直気に入らない。
あー、
こういうの初めてかも。
あの、凛とした横顔が頭ン中を支配していて、やっぱり小羽っちを見かけるとそばに行きたくなって、あの笑顔を見たくなってる。
妹、
俺には居ないからッスかね。