おとしもの

□2.新しい季節
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ウインターカップが終わった。

優勝した誠凛高校は、創部2年目。
スポーツ会では大きなニュースにもなった。
あれからしばらく経ったのに、誠凛高校のバスケットボール部には、雑誌の取材などもときどき来ているそうだ。


随分と暖かくなって、もうすぐ学年が変わる。








「キャーーーーッ!!

 小羽ちゃーーーんっ!!」





いきなり飛びついてきたもんだから、思いっきり倒れてしまうと思ったのに、そこはちゃんとがっしり抱きしめられてしまい、転ぶことはなかった。





「・・・もももも、桃井さんっ・・・!」



「ああぁぁ、ごめんごめん。

 小羽ちゃん、相変わらず可愛い〜〜♡」





小羽の顔をまじまじと見ると、テツくんにそっくり〜と満足げに微笑んだ。そう言われるのは何度目だろう。
いや、桃井さんのほうがよっぽど綺麗で美人なのに。





「桃井さん。」



「あ〜!テツくぅ〜〜ん♡♡」





今度は兄のところで♡マークを飛ばした。
桃井さんは、あんなに美人なのに彼氏はいないらしい。
兄のテツヤとは学校は違うが、時々メールなどでやり取りをしているようだ。


今日は、春休みになって偶然部活が休みになった兄と、桃井さんと兄の友人の青峰さんとで、大学バスケットの大会を観戦に行くらしい。

わざわざうちまで、兄を迎えに来てくれたそうです。




「おい、さつき。

 テツの横にいるこの子誰だ?」




「ああ、大ちゃんは初めてだっけ?

 小羽ちゃんだよ。テツくんの妹の。」




桃井さんは、こっちは青峰くん、元帝光中のバスケ部だよと紹介してくれた。




「テ、テツの妹〜!?

 おまえ妹なんていたのか?聞いたことねえぞ。」



妹だと紹介してもらったその少女は、人形のように真っ白で、ショートパンツから出た細い足は、まるでモデルのようなバランスの良さだ。




「正式にいうと従兄妹なんですが、一緒に暮らしてますし、妹同然です。」




テツヤが簡単に紹介した。
青峰は、面食らったように二人を見ている。




「はじめまして。小羽です。
 帝光中学で4月には3年生になります。」



「へえ、

 ちょっと似てんのな。テツ、こいつも消えたりすんのか?」




「相変わらずですね。青峰くん・・・。
 ハァ・・」


テツヤは青峰さんには容赦ないみたいだ。
横で桃井さんが、大ちゃんバカだねって呆れてる。
あぁ、この人たちが凪沙の言っていた、帝光中のバスケ部で3連覇を果たしたっていうメンバーなんだ。
確かにあのウインターカップでの試合もすごかった。





「ねえ、小羽ちゃんも一緒に試合観に行く?
 ウインターカップも全試合、見に来てくれてたんだよね。」




さすが桃井さん、よく知っている。



「へえ、バスケ好きなんだな。」


青峰さんもバスケが大好きなんだ。一瞬でわかってしまった。





「あっ・・!でもせっかくのみなさんの約束ですから、遠慮します。」




兄が兄の中学時の友人と、折角の約束だ。
そこへ妹の自分が入るなんて、申し訳ない。





「気にしなくていいよぉ〜!ねえ大ちゃん、いいよね?」


「あ?別に気にしねえよ。」




どうしたらいいかと兄の方を振り向くと、にっこりと笑って頷いて


「今日は両親の帰りが遅いので、一緒に連れて行ってもいいのなら助かります。

小羽は今日は、予定はなかったですよね?」



「あ・・うん、でもホントに、いいんですか?」




「もっちろんだよー!
 小羽ちゃん、待ってるから準備してきなよ!」



「はいっ!では、すみませんが少しだけ待っていてください。」













慌てて、家の中に駆け込んで準備をした。
まだ肌寒いから、ニーハイのソックスを履いて、薄いクリーム色の上着を着て、お気に入りのポーチにお財布とハンカチ、紫色のケイタイを入れて。







「すみません、おまたせしました。」



「じゃ、いきましょうか。」
 




近くの駅から電車にると、休日だからか春休みだからか、駅に着くたびに人が増えてくる。

乗り換えをする時に、あとで更にほかの誰かと合流すると桃井さんが言った。



「誰が来るんですか?」


兄が桃井さんに聞くと、




「きーちゃんだよ。さっきメールしたら、モデルの仕事が近くだから、終わり次第合流したいって!」






あの混み合っていた電車の中で、いつの間にメールをしていたのか、
本当に桃井さんの手際の良さは感心する。



「黄瀬くんですか。」


「あいつか、暇人だな。」


「青峰くんや僕も一緒だと思いますよ。」


「まあ、そうだな。
お前は黄瀬のこと知ってるのか?」


ふいに、青峰さんが振り返って聞いた。
さっき電車に乗っていたときから、桃井さんとわたしのことを危なくないように、人との間に立ってくれたりと、ぶっきらぼうっぽいながらに気をつけてくれている。







「黄瀬さんには、ウインターカップの間、何度か会ったことがあります。」



「黄瀬くんは、小羽のことをずいぶん気に入っているので、ちょっと心配ですが・・」




テツヤがそう言って、小羽のほうを見た。
それにさつきが便乗して、黄瀬のことを話しだした。




「きーちゃん、小羽ちゃんのことすっごい可愛いっていってたよ。
妹羨ましいって。それに・・・・」




「桃っちーーー!」






大きな声でこっちに手を振ってやって来たのは、

すっごいお洒落なジャケットを着て、細身のパンツにデザインの凝った靴と帽子を被った、黄瀬さんだった。
さつきさんはモデルの仕事を終えてその足で来ると言っていたけど、黄瀬さんがモデルをしているっていうのは納得できた。
今日の格好だって、衣装かもしれないって思うくらいセンスがよくてよく似合っている。



「青峰っちも黒子っちも、お待たせッス!」





ウインクして、目から☆を飛ばした黄瀬さんを半ば鬱陶しそうにみている、青峰さん。



「おめー昼間っから相変わらず騒がしいな。」





そんな声をかき消すかのように、黄瀬さんはさらに叫んだ。




「・・っっ小羽っちーーー!!


 どうしたんスか!?」




「あの、すみません私もご一緒しても大丈夫ですか?」


自分が来ることを知らなかった黄瀬さんに、申し訳なく思いつつ、おねがいをした。




「もちろんっスよ!
 いやぁすっごい嬉しいっス。まさか今日小羽ちゃんに会えるとは思ってなかったっス!」




「おいテツ・・・
黄瀬のやつ、俺ら無視か。」


大輝が前を歩く黄瀬を、呆れた様子で眺めた。




「はぁ・・
 桃井さんも言ってたでしょう。黄瀬くんは小羽のことを凄く気に入っているんです。

小羽は僕の妹なのに・・。」



「おいテツ・・お前そんなキャラだったか・・?」




大輝が驚くのをみて、さつきは笑った。




「でも、きーちゃんが小羽ちゃん可愛がる感じ、わかるなあ♡
だってすっごい可愛いんだもん。小羽ちゃん。テツくんによく似てるし♪」

 




頬を少しだけ染めてそういうさつきに、さらに大輝は呆れてため息をついた。
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