おとしもの
□2.新しい季節
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「そっか、小羽っちはもう受験生になるんスね。」
一緒に並んで歩いてくれている黄瀬さんもだし、青峰さんも背が高くて、話すときはうんと見上げないといけない。
「はい、まだ実感は全然ないんですけど、お兄ちゃん達を見てると、高校って楽しそうだなと思います。」
「楽しいっスよ。中学の時みたいに制限ないし、小羽っちは部活とかやんないんスか?」
この人が、
学校を、部活を、バスケを楽しんでいるのはすごくよくわかった。
だってとっても楽しそうに話をしている。
海常高校も今日は練習はOFFだったみたいだけど、せっかくの休みにもモデルのバイトをしているのだろうか。
「部活、実はあのウインターカップのあと、バスケ部に入ったんです。
選手はこの時期からは無理なので、マネージャーで。
黄瀬さんたちの試合をみていたら、選手のサポートもいいかなって思って。近くでバスケットも見れるし、監督さんも入って欲しいって言ってくださったので。」
「へえ!帝光のバスケ部のマネージャーっスか!女子バス部っスか?」
「いえ、男子です。
女子バスケ部が良かったんですが、マネージャーがもういっぱいで。
男子の方は、全学年でもいまは4人しかいなくて大変なんです。」
黄瀬さんは歩く速さも、ちゃんと小さい私にあわせてくれている。さすが高校生って感じがした。
優しいし、見た目ほど軽くないし、とてもいい人だ。
さっきから、若い女の子たちの熱い視線を浴びるのも、どうやら気のせいではないようだ。
「そうなんスか・・。
黒子っち〜、心配じゃないッスか?」
「男子バスケ部のマネージャーですか?」
黄瀬さんが後ろを歩いていた兄の方へ振り向いた。
「僕は、大変なのも知ってますし、小羽のことを思うと・・一応反対をしましたが、小羽がやりたいのなら応援しますよ。」
「お兄ちゃんと桃井さんが色々と教えてくれるので、助かってます!」
そうなのだ。
マネージャーは大変ってのは聞いていたので知っていたが、結構な重労働で忙しい。体力的にはじめは苦労したが、今は慣れてきて随分と楽しくやれている。
大きな体育館に到着すると、もう2試合目が始まっていた。今日は大学バスケの春の大会なんだそうだ。
大学生のバスケットは、高校生のとは全く違っていた。
もちろん、中学と高校とのバスケも全くスケールが違うが、大学ともなるとカラダはみんな大人だ。また違った迫力がある。
「すごいっスね〜。
高校とは全然違うっス。」
「ほんとだね。ね、あそこ今吉先輩じゃない?」
さつきが指をさした先には、数ヶ月前まで一緒に練習していた、もと桐皇の今吉の姿があった。
「へえ、もう大学で部活に参加してるのか。」
青峰がにやりと笑ってその姿をみた。
ウインターカップまで参加して、ぎりぎりの受験。結局バスケは続けているんだ、とまだ入学式まえの大学の試合に、半分見学だろうが手伝いをしている様子の先輩を眺めた。
「うちの先輩たちもいるかもしれないっスね。」
何しろたくさんの大学が来ているし、進路のためにと高校生の観客もたくさんいる。
とりあえず座る席を探して座ったのが、やっとだ。
私は勉強がてら、大学生の試合を見ながらスコアをつける練習をした。ちょうど桃井さんもいたから、わからないところは聞くことができる。
「小羽ちゃん、だいたい出来てるよ!」
「ありがとうございます。桃井さんの説明、すごくわかりやすいです。」
帰りは、夜になったのでみんなでご飯を食べて帰った。
やっぱり青峰さんと黄瀬さんのやり取りが面白くて、ずっと笑いっぱなしで。
小さい頃から見てきた兄が過ごした世界を、羨ましいなと思った。
わたしにもこんな友達が、出来ますように・・
ノ。+゜*.☆.。.:*・゜
「あー、小羽っち。」
「はい。」
駅に着くすこし前、黄瀬さんが少しだけはずかしそうに話しかけた。
見上げると、照れくさそうに笑って、
「ケイタイ番号交換してくれないっスか?よかったらッスけど・・。」
「はい、私でよければ。」
鞄から携帯をとり出して操作すると、黄瀬さんもスマホを開いて画面を表示した。
赤外線を使って交換すると、黄瀬さんは『小羽っち』と携帯に名前を入力していた。
「黄瀬さんて、尊敬する方に〜〜っちってつけるって、お兄ちゃんから聞いたんですけど・・・
なんでわたしにも小羽っちって付けるんですか?
年下なのに・・。」
一瞬、ちょっとだけ目を見開いて見た黄瀬さんだったけど、
「そりゃ、小羽っちが凄いからっすよ。」
「?」
疑問符だらけだった。きっとそんな顔してただろうから、黄瀬さんも言葉を続けた。
「小羽っち、ちゃんと人の内面みれるっしょ?
俺のことも、モデルの黄瀬涼太として見てるなって思ったことないし・・
結構外面で寄ってくる子、いるんスよ。もうそういう子って、表情でわかるっていうか・・話しかけてくるときに雰囲気でわかるんス。
でも小羽っちは俺のこと全く興味なさそうで、最初は小羽っち可愛いから、俺みたいな感じで周りが寄ってくるから珍しくないのかな〜なんて思ったッスけど、小羽は周りを寄せ付けない。
そういうの、俺にはないところだし、中学生なのに凄いななんて思ったッス。」
「私はファンを増やす必要なんて、無いですから。
むしろ、忘れられたいって感じです。」
なんだか、モテる人って大変なんだなって初めてわかった。
そうか、人を見極める眼を持たなければ、この人は本当に大切なものを見つけられない。
「小羽は小さい頃、すごく可愛かったので誘拐されそうになったことがあるんですよ。」
兄のテツヤが振り返って、付け加えた。
「え・・・。
そうなんスか!?」
「私は覚えてないんですけど、そうみたいです。」
「確か、小羽が4歳くらいのときだと思います。
愛憎ストーカーっぽい感じで、僕と近所の公園で遊んでいたときに、車で連れ去られそうになって。
そのときたまたま通りかかった人が、気付いて助けてくれたんです。
その男、自宅に小羽の写真をいっぱい持ってたみたいで、どうもずっと付け狙っていたそうです。
だから一人でうちに置いておけないんですよ。」
その場にいた全員が、まじか・・・と、絶句した。
「いや、小羽っちならわかるっス。」
「まあ確かにな、でもよく助かったよな。」
「帰り、テツ君も気をつけてね。」
口々にそう言って、駅で別れた。
「お兄ちゃん、楽しかったね。
私も明日から部活頑張ろうっと。」
急にやる気が出てきて、明日は部室の掃除をしようか用具室を片付けようか・・色々と考えが浮かんできた。
横を歩いてくれている兄は、嬉しそうに笑んでいた。