おとしもの

□2.新しい季節
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新学期が始まった。
桜も満開になって、いちばん綺麗でいちばん好きな季節だ。



           おはようございます。
           わたしの家の桜が
           こんなに綺麗に
           咲きました。



朝、部活に出ようとした時に、『小羽』からこんなメールが届いた。



そこには写メがついていて、部屋の中から窓の外一面に広がる桜の花を見ることができた。
窓をあけると、桜しか見えないってくらい枝が伸びているようで、部屋と一緒に写っている両開きの窓から見える景色は、全部ピンク色だった。

きっと部屋からこんなにたくさんの桜が見えるということを、伝えたかったんだろう。



薄紫色のカーテンに、淡いブルーのリボンが掛かっていて、部屋のクロスは真っ白。女の子らしい色合いの部屋のようだった。
窓の横にある机の上には、うさぎのついたペン立てや飾りが置いてあり、『新研究』と書いた太い参考書が見えた。


あれは、中学の時に使っていた問題集だ。


懐かしいと思うと同時に、メールの相手が中学生だと知ってしまった。
自分より年下か同い年くらいだろうとは思っていたが、中学生だとは・・。
メールの感じからしたら、高校生かもと思ったのだが、自分も受験の年にあの問題集をやり込んでいた。
きっと受験生なのだろう。



   おはよう。
   きみの部屋はずいぶん
   女の子らしいね。

   桜が見えるなんて
   うらやましいよ。





           桜が一番好きな花
           なんです。
           
           学校にもたくさん
           咲いていて、
           今日はお昼は
           友達と花見を
           するんです♫




   へえ、
   小羽は花より
   団子なんじゃ
   ないかい?



           ひどーい(;_;)
           でもお弁当は
           いつもよりご馳走♪



   まだ寒いから
   薄着して
   風邪ひかないように。






最近は、小羽のことが少しずつ解ってきた。

どうやら最近バスケ部のマネージャーをやり始めたこと。
甘いもの、特にチョコレートが好きなこと。
なんにでも一生懸命なこと。

   
彼女は、特に僕のことを詮索しないし本当にメールの内容も清々しくきもちの良いものだ。
風景だとか近況だとか、そういったものが多い。





           ありがとう(^-^)
           せいくんこそ、
           風邪ひかないでね。




女の子らしい顔文字にも、最近は慣れてきた。
僕の友人には、そんな顔文字をいれるようなヤツはいないから。







「あらあ、征ちゃん。
 また可愛いメル友と朝からメール?」




学校の体育館で朝練の用具を出していると、玲央が嬉しそうに話しかけてきた。



「まあね。

 どうやら彼女は中学生らしい。
 今日わかったことなんだけれどね。」




心なしか、ちょっと楽しそうに話す征ちゃんが新鮮で、尚更メールの相手に興味を持った。




「そうなの〜?
 征ちゃん、そういうの面倒くさがって
 やらないタイプだと思っていたわ。」




玲央は以前から、僕がメールをしているのが意外だと言う。
自分でも、会ったこともない女の子とのメールが、こんなに続くとは思っていなかった。



「まあ・・
 もともとマメなタイプじゃないからね。」




「そうとも思わないけど・・

 結構楽しんじゃってるわよね。」

 
   

「さあ、練習を始めようか。」




そう言って、清十郎は準備運動を始めた。
なんだかはぐらかされたようで、でもそれも征十郎らしくない新しい一面を見たようで、玲央は内心面白いわとワクワクしていた。








.☆.。.:*・。+゜*。






           小羽
           バスケ部の
           マネージャーは
           上手くいってるかい?



   こんばんは。
   う〜ん、すごく忙しくて
   余裕が全くないから
   よくわかんない(^_^;)

   
  
   
           そうか。
           真面目にやっているん           だね。
           楽しいかい?



   もちろん!
   どんどん楽しくなって
   きたよ。
   ルールももうばっちり。
   はやく大会
   はじまらないかな♪




           
彼女の言葉に元気をもらっているようで、最近はメールをこちらから送ることも多くなった。









「小羽、
 例のメル友どうなった?」



「凪沙、面談終わったの?」


「ん、さっき次の子呼んできたとこ。」




仲良しの凪沙が、ふいに聞いてきた。
結構いつも唐突だから驚くことも多い。




「んー、特に変わったことはないよ?

ときどき、今日は学校の帰りにケーキ食べに行ったよ、とか、最近は炭酸水にもも味が出たよ、とかそういうことメールしてる。」


「え・・まじ?
 あんた、そんなくだらないことメールしてよく切られないよね。」



呆れ顔で、凪沙が言ったもんだから、いままで当たり前に話していた事が幼かったかなとか呆れられたかもなんて、メールでの会話の記憶を辿った。


「そ、そう?
 まずいかなっ!」


「ところで小羽、あんた男子バスケ部の桐谷、知ってるでしょ?」



「うん。この間1軍に上がった人だよ。」




先日昇格テストがあって、新一年生を含めて全員が昇格テストを受けた。
その中で、唯一一軍に上がった3年生が、D組の桐谷くんだった。



「桐谷、小羽のこと好きらしいよ。
ってか他にもそう言ってるヤツいっぱいいるけど、あいつ執拗いから気をつけなよ。
前はC組のエリちゃんに、ストーカーまがいなことしたって言うし。
あんたそういうのやられそうなタイプだからさ。」



「え・・そうなの?

 部活ではすごく親切だし、頑張っているし、ストーカーとかって感じの人じゃなさそうだけど・・。」




凪沙から聞いた、桐谷くんは部活でのイメージと全然違っていて、凪沙の言うことは嘘じゃないとは思うけど、にわかにストーカーってのは信じられなかった。





全中の頃までは。



  
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