おとしもの

□2.新しい季節
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「えーーー!

 黄瀬さんに、練習試合の応援に来て欲しいって誘われた〜!?」


凪沙が、珍しく大きな声で驚いている。




「うん、凪沙も都合がよければ一緒にどうかなって思って。海常の試合なら面白いかも。」



「いや、あんた。
 黄瀬さんとどんだけ仲いいのさ。そこらの女子が聞いたら、殺されるよ?ケー番知ってるとかさ。」


そうなんだ・・。
そんなにすごい人気なんだなぁ、と改めて思ったけれど、実際に黄瀬さんの載っている雑誌をクラスの女の子から見せてもらったら、実物の方が優しそうで、素敵なのにって思った。


本物の黄瀬さんて、もっとお茶目で人懐っこいし、でも試合になるととてもモデルなんて想像できないくらい熱い。




「お兄ちゃんのこととか、みんなに言ってなくてよかったかも。」


「そうだね。
 できるだけ、バレない方がいいと思うよ。
あんた知らないけど、在学中はすごかったんだから。」





そう言って、凪沙はため息をついた。

兄のテツヤもすごかったと言っていた。女の子が体育館にも見に来るもんだから、当時1軍の体育館は、夏でもカーテンを締め、最小限の入口しか開けてなかった。


マネージャーも桃井さんに限定されていて、ちょっとでも黄瀬さんや他のキセキの世代のメンバーに興味ある素振りの子は、一切、1軍体育館には入れてもらえなかったとか。




私がバスケを見に行くきっかけになったのは兄だから、その頃に自分がいたら、きっと体育館には入れなかったんだろうな〜。

・・と思いながら、小羽は窓から、校庭のすみにある桜の木を眺めた。













ノ。+゜*。.☆.。.:*・゜











           おはよう。
           きのうはあれから
           大丈夫だったかい?





   おはよう。

   心配をかけてごめんね。
   あのあと、
   兄に迎えに来てもらいました。





朝早い時間に、せいくんからメールが来た。









昨日、部活のあと暗くなっていたのに、プリント作りの作業を頼まれて作っていたら、いつもより随分遅くなってしまい・・
帰ろうと玄関に行くと、こんな時間にいるはずもない桐谷くんがいた。

どうやら待っていたようだとは思ったのだが、さよならを言って通り過ぎようとしたら、止められて告白をされたのだった。






「七原さん、彼氏とかいないんだよね。
 俺、七原さんが帝光中学に来た時からずっと好きだったんだ。

 七原さんにいいとこ見せたくてバスケも頑張ってきて、一緒に1軍に上がれて、ほんと嬉しかった。

 俺と付き合って欲しい、ダメかな。」




割と背も高くて、勉強はあまり得意じゃないみたいだけど、スポーツもたいていなんでも出来るみたいだし、ふつうの男子中学生。


特に意識したこともないから、
もちろんその気もないし、その場で申し訳ないけど・・とはっきり断ったのだが、







『諦められない』






そう言ってうつむいた桐谷くんに、ごめんなさいと言って別れてきたのだけれど、
どうやら家の近くの駅まで着いてきていたらしく、凪沙の言っていたことを思い出して、家の場所を特定されるのはよくないかもと思い、ひと通りの多い駅でどうしようかと立ち往生していた。


そのとき、たまたませいくんからメールが来て、




           昨日は、月バスの
           情報ありがとう。
           今日早速買ったよ。



   せいくん
   どうしよう  



           どうかしたのかい?



   後をつけられてて、
   駅から動けないよ




           知らない奴か?




   学校の同級生
   さっき告白されて
   断ったの
   なんかこわいよ




           ついてきたのか。
           
           家に誰かいる?
           迎えに
           来てもらえないかい?




   電話してみる







自分では思いつかなかった。



お兄ちゃんに迎えに来てもらおう。
いつもより時間が遅いから、もしかしたら近くにいるかもしれない。


早速兄のテツヤに電話をすると、もうすぐ駅に着くという。




結局兄が到着するまで駅で待ち、事情を話して一緒に帰ってもらった。
桐谷くんも、そこからは着いてこなかった。


ストーカー



もしも本当にそうだったら・・
そう思うと身震いがする。








せいくんには、そのあと帰宅の連絡をしていなかったから、心配して朝一番にメールをくれたのだ。



   
   心配してくれたのに
   昨日は連絡もせずに
   ごめんね。



           いや、
           無事ならよかったよ。
        
           きのうは随分遅い
           帰りだったね。




   作業を手伝ってて。
   
   でも本当に怖かったよ。
   今日、学校で会ったら
   どうしよう




           帰りは誰かと一緒に
           帰るんだよ。
           ひとりに
           ならないように。





   わかった。
   ありがとうm(_ _)m







せいくんは、優しくて大人だ。
高校生かな、大学。生かもそれとも大人の人?いろんな事を知っているし、アドバイスも的確。けっして振れることのない考えと強さ。
メールだけだけれど、そういうせいくんに憧れた。





携帯を拾ってくれたのが、この人で本当によかった。

          
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