おとしもの

□3.ひまわりの想い
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夏休みに入って、部活は朝から夕方まで。
ほぼ一日を通して部活をしているような状態だが、夜は時間ができる。

結局は、自身のトレーニングにあてたり、勉強をしたり、家でやらなければならないことをする時間になるのだが、それでも普段よりは余裕がある。




「ねえ、せいちゃん。

 最近あの子、どうなったの?」




トレーニングルームでトレーニング中の征十郎は、
首の汗を軽く拭うと相変わらずのすっきりした表情で、その問いに耳を傾けた。





「小羽のことかい?」



「そうそう、小羽ちゃん。
 征ちゃんのお姫様。」




玲央は、この話題にはいつも興味深げだ。
そんなに女の子の友人が珍しいのか、
ほかのメンバーには、メール相手に玲央がヤキモチを焼いているんじゃないかと言う者もいるが、
そういう風でもない。

どちらかというと、玲央は面白がっているように思える。
面白がって聞きたがる。特に何も特別なことはないし、俺にだって桃井ともメールくらいはするし、クラスの女子とだって話さないわけじゃない。





「あの子はお姫様じゃないよ。
 どちらかというと・・

 そうだね、
 
 子猫って感じかな。」






「子猫!?

 で、手懐けてどうするつもりなんだ?赤司」





横から、ニヤけた顔で首を突っ込んできたのは、小太郎だった。
最近、女の子に興味が出てきたのか、いやもと
もとそうだったのかもしれないけれども、
高校生男子だ仕方ないわね。
バスケに支障がなければいいんだけど。





「小羽ちゃんってさ、中学生なんでしょ?

 どこに住んでるの?東京?」




「さあ・・・
携帯拾ったときも、お兄さんの試合の応援だと言っていたから、他県から応援に来ていたのかもしれないね。」





征十郎は、ベンチに座ってスポーツドリンクを口にした。
乾いたというより、体の水分が足りないのがよくわかる。口に入れたドリンクが、気持ちいいくらい、体にしみこむ感じがわかる。



「そういう情報、交換してないの?
 いつもメールしてるけど、まさかバスケのことばっかりとか・・」




「そんなこともないさ。
お互いのことは特に彼女も色々聞いてこないからね。

 そういえば、最近部活帰りに危ない目に合ったと言っていたな。」




「危ない目・・って、大丈夫なの?」




玲央は敏感だし、勘がいい。
女の子目線でもちゃんと考えることが出来るところあたり、
何かと助かっている。




「玲央。

 女の子が危ない目に合うのを防ぐには、何が一番効果的かな。」




「えっ・・・」




征十郎が、そんなことを口に出したもんだから、動揺して手に持っているタオルをつい落としてしまいそうになった。
一緒にいた小太郎は、
既に口をあんぐりとあけて、タオルを床に落としてしまっている。




「っあ、そうねっ・・。


やっぱ彼氏とかいたら、いいんじゃないかしら。
男の影があれば、ふつうは手を出さないでしょ?」




とっさだったけれど、
その子猫ちゃんが、征ちゃんを本当の恋愛へと意識させるきっかけになればいいと思った。



征ちゃんは、優しくて責任感があって、人望が厚い。
でもそれは、男女関係なく全ての人においてだ。
特にウインターカップの決勝で負けてからというもの、
負けを知ってからというもの、
征ちゃんは今まで以上に部員に気を配るようになった気がする。


みんなは優しくなって、何をするかわからないという危うさがなくなった、
というけれども、もともとこっちが本当の征ちゃんだったんじゃないかとも思う。




でも個人的に言うと、
学校の女子からもすごく人気があるのに、一向に相手にしようとしないところとか、
どんなに可愛い子から告白されても涼しい顔しているところあたり、
女の子に興味がないのかと心配してしまうほどだ。
まあ、面倒くさいだけなのかもしれないけど。



実際、女の子に困っているような容姿でもないし、家も相当なお家柄だと聞いた。
だからといって遊んでる風でもない。
みるからにそんな時間は持て余していないだろうから。





本気の恋をしたことは、あるのだろうか。




もしも、本気の恋を経験していないのなら、それが彼にとって一番必要なものかもしれない。



どんなことが起きても、涼しい顔しながらちゃんと受け入れて、
すぐに解決してしまう征ちゃん。
きっと、自分たちにはどんなことをしたって、彼を揺さぶることはできないだろう。




だからこそ、小羽ちゃんって子猫ちゃんに、賭けてみたくなったのだ。



『彼氏』というワードを出したことで、
征ちゃんが少しでも子猫じゃなくて、女の子として意識しないだろうかとの
思惑だった。



なにぶん、征十郎には一番近いと思われる女の子だから。






「なるほど。
 
 一人になるな、早く帰れといっても、
ちっとも言うことをきかないからね。
小羽は。」



嬉しそうに話す征ちゃんを見て、
これはもう、手を焼く猫が可愛くてしょうがないって顔だわ、と確信した。






















ノ。+゜*。.☆.。.:*・゜













           もう夏休みだろう?
           引退して
           何をしてるんだい?




   こんにちは。

   部活終わったので
   ちょっと
   暇になったよ。

   今日はコンサート
   行くんです♪




           
           なんの
           コンサートだい?




   ピアノの
   コンサート。
   
   A・ジェフさん
   すごく好きな
   ピアニストなの
   
   


           
           へえ、てっきり
           アイドルとかかと
           思ったよ。
           俺も、その人の
           コンサートは
           行ったことがあるよ。



   ほんとに!?
   せいくん
   他趣味だね。
   
   

           帰りは夜だろう
           気をつけて帰るように
           すること




   家から割と近いから
   大丈夫。
   あれから何もないし、
   心配してくれて
   ありがとう(_ _)





中学のころだったか、仕事で忙しい父に珍しく連れられて行ったコンサートがあった。
今思えば、父の仕事の関係か、赤司家の関係で招待されたチケットか何かだったのだと思う。


個人的にはクラシックのコンサートはきらいじゃ無いし、
というかむしろ好きだった。
母がよく、子供の頃は家でピアノを弾いていて、それがすごく好きだった。

父といったそのコンサートも、とても良いコンサートだったのを覚えている。
それ以来、CDも買ってよく聞いていた。


           
来日してコンサートがあるのは知っていたが、
今日のはたしか東京公演だ。




小羽は東京にいるのか。









小羽は自分のことでよくする話題は、
ピアノの話だ。

小さい頃から、音楽が好きで
ピアノをずっとやっていたと言っていた。
事情があってピアノをやめたといっていたけれど、
実は内緒で学校で弾いたりしているのだと、
いたずらっ子のようにメールで打ち明けたりした。




彼女のピアノを一度聞いてみたい。
そう思った。

   

           




 
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