おとしもの

□3.ひまわりの想い
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今日は、都内の高校で3チームと交流試合だ。
夏休み最後の、毎年恒例の試合。


その試合に、

今日は小羽っちが応援に来てくれる。






はっきり言って、

めっちゃテンション上がってきたッス!!






だって、小羽っちが海常を応援してくれるなんて・・・

チームのメンバーに、小羽っち可愛いっしょ!って自慢して、
それから俺のバスケっとする姿、しっかり見てもらうっス。



いつも、黒子っちがすごくカッコよかったとか、火神っちのジャンプがすごいとか、ダンクもいっぱいしてた、とか、
誠凛メンバーばっか褒めてるから、
ちょっと悔しかったんス。






「先輩、聞いてくださいッス!
今日小羽っちが応援に来るんスよ。」





移動のバスの中で、隣に座っていた先輩に話しかけたら、
は?誰だ?って言うもんだから、
携帯に入っている小羽っちの写メを見せた。

この写メも、唯一1枚だけので、
小羽っちを学校まで迎えに行って一緒に帰ろうと思ったら、
帰り道に人懐っこい猫がいて、
小羽っちが可愛いって言って、嬉しそうになでてる顔が、
すごくすごく可愛かったから・・


つい撮ってしまったやつだった。




小羽っちには、可愛い顔で抗議されたけど、小羽っちと猫がすごく可愛いよって言って、なんとなく許してもらった。



俺の携帯の中で、一番のお気に入りの写メだ。






「中学生?
てか、なんかもっと派手なのがタイプなのかと思ったわ。」



「なんスか?そのイメージ。」




「お前がチャラ男だから。

 こんな正統派純粋タイプ、似合わないっていうか・・・
てか、お前のファンじゃないだろ、この子。」






隣に座っていた先輩が言った、似合わないってところだけはムッとした。



なんスか?似合わないって。
小羽っちはファンじゃなくて、俺のことを普通に黄瀬涼太として、接してくれる。




兄の友人として?
それとも、同中の先輩として?

そこはあまり考えたくないけど、それでも今日来てくれるのはものすごく嬉しい。












.☆.。.:*・゜ノ。+゜*。













「「「チーーーーッス!!!」」」



「「「練習試合、よろしくお願いしまッス!!」」





相手校の体育館に到着して、挨拶を済ませると着替えと試合の準備を始めた。
俺は、応援に来ていてきゃあきゃあと黄色い声を上げている、相手校の女生徒たちに手を振りつつ、小羽っちの姿を探した。



まだ来てないのか、姿は見当たらない。






「おい、黄瀬。
集中しろよ。キョロキョロしてんな。」


先輩に軽く小突かれて、ようやく気合いを入れなおし、試合モードに入った。



「うっす!
大丈夫ッス、」



ちゃんと試合には集中できる。
なにしろ、小羽っちが来てくれると思っただけで、ものすごくやる気が湧いてくる。




自分でも笑えてくるけど、


結構重症かもしれないッス。






試合はもちろん海常の圧勝。
試合に夢中になっている間に、ベンチの反対側の2階席にちゃんと小羽っちがいた。

となりには、いつも中学で小羽っちと一緒にいる背の高い女の子・・
たしか女バスの主将とか言ってた子がいた。



さっきのプレイ見ててくれたんスね!




1試合目はスタメンで出場して、ほとんど出場した。
結構体力使って、つかれているけど、
小羽っちを見たら、そんなこととっくに忘れていた。





もしも目があったら、


俺は、そう思って小羽っちのいる方を見上げると・・・




目が合った!







にっこりと笑って会釈をした小羽っちに一瞬見とれて、前を歩いていた先輩に、



「先輩ッ!!

小羽っち、来てたっす!!」




「へー、よかったなー。」




全然声のトーンを変えずに言った、先輩の返事にちょっと残念な気持ちもしたけれど、
それでも嬉しくて、急いで試合の片付けをした。

次の試合はしばらく時間をおいて、3試合目。午後からになる。



たぶん、少しだけなら小羽っちと逢えるはず。










海常高校の休憩室だと案内された場所は、少し広めの綺麗な部屋だった。
体育館に隣接するこのスペースは、普段は何に使っているのだろうか。



「おーい黄瀬ーー。
ファンの女の子が来てるぞー。」




「はぁ?
 
なんスか、俺はバスケの時は来ないで欲しいって、高校に入ってからはずっと言い続けてたのに、まだ知らない子がいるんスかね〜〜」





高校に入ってからは、
部活の時間、女の子達に囲まれると差し入れだとか写メとって欲しいだとか、先輩たちに迷惑かけてしまうし、集中できないから体育館は出入り禁止で、部活中は来ないようにと御願いをしていたのだ。



入学当初からそのようにしていたせいか、すっかり定着して、高校内では暗黙のルールみたいになっている。
だから、部活中に黄瀬のところへサインをもらいにきたり、写メを取りに来たり、一緒に帰ろうと待ち構えていたりする女生徒は、ほぼいない。

海常高校では、それが学校内でのファンクラブのルールみたいになっていて、女の子たちも守ってくれている。
唯一、告白したり話しかけたりしていいのは、
学校の休み時間のみ。






しかたないな・・と控え室のドアを開けると、そこには小羽とお友達の女の子が立っていた。



「小羽っち!」




「お疲れ様でした。

すみません、こんなところに来てしまって。」





「いいんスよ!小羽っちなら!

少し外歩こうか、今休憩時間だし。」



俺は、ここの学校の敷地中を探検でもしようかなと、外の方を指さした。



「あ、あの
 これみなさんに、差し入れです。」



小羽っちが差し出したのは、大きめのトートバック。
覗くと、中にはタッパーいっぱいに入った、

檸檬のはちみつ漬け。



そういえば、海常高校では女子マネいないし、帝光中の頃はよく食べたけど、ひさしぶりだ。




「これ、小羽っちが作ったんスか?

 いいの!?」



小羽は、嬉しそうに袋の持ち手を差し出すと、


「もちろんです。
好きじゃなかったらごめんなさい。」



「食べるッスよ。もちろんっ!!」




「おー!
 小羽ちゃん、ありがとうな。」




急に後ろから現れた先輩らしき海常のジャージの人が、袋を覗き込むと同時に、黄瀬から取り上げた。



「あ・・」


「俺は、黄瀬の先輩の中村。
 いつも君の話は、黄瀬から聞いているよ。
 黄瀬が迷惑かけて、ごめんな。」



中村と名乗った先輩は、ゆっくりと優しそうに話した。


「先輩、俺の分も残しといてくださいよ!

ちょっとだけ、出てくるっス。」




「遅くなるなよー。」


「はいッス!」





なんて適当な返事だ、と部屋にいた全員が思ったが、
それよりも、女子マネのいない海常バスケ部の全員が、

〔女の子がつくった〕『檸檬のはちみつ漬け』

に全員が飛びついたのは言うまでもない。
そして、黄瀬涼太の分など、残るわけがなかった。
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