おとしもの
□4.高校入学
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入学して1か月がたって、
しばらく会えてなかった黄瀬さんと、久しぶりに会う約束ができた。
海常高校は、春の間は合宿もあるし、新入部員のことで3年生である黄瀬涼太も忙しいらしい。
海常高校も新入部員はとても多いし、マネージャー希望もかなりいるらしい。
残念ながら、モデルの黄瀬涼太目当ての女子が多すぎるため、バスケ部内の雑用は、けが人や1年生がやりマネージャーはとらないことにしているそうだ。
だから、というわけではないが、
合宿や遠征なんかはすごく大変らしい。
まだ、秀徳高校のマネージャーをやることは、彼氏である黄瀬には言ってなかった。
(きっと、怒るだろうなぁ〜・・黄瀬さん。)
ちょっと憂鬱な気分が半分、
久しぶりに会えるのがちょっとうれしいのが半分。
お互い部活のオフになることが多い、月曜日に学校が終わってから待ち合わせた。
「小羽っちーーー💛」
「・・・黄瀬さん・・。
すっごく目立ってます・・。」
ショッピングモールの真ん中、おおきな何かよくわからないモニュメントの前で、たくさんの人が待ち合わせしている前で、
制服姿の黄瀬さんは、走ってやってきた。
ただでさえ、その容姿で目立ってしまうのに、ファン除けの変装もせずに、
堂々と制服でやってくる。
それがちょっと黄瀬さんらしいところもあるのだけれど、思いっきり注目を浴びているような気がする。
「ごめん、待たせたッスね!」
「ううん、大丈夫。私のほうが、学校近いから。」
「ほんと、久しぶりに会ったッスね!
ちょっと髪伸びた、それに制服可愛いッスよ。」
女の子を喜ばすの、上手だなあ。なんて思いながら、やっぱりそう言ってもらえると嬉しくて、お言葉に甘えた。
『ね、あの人さ、黄瀬涼太じゃない?』
近くにいた若い女性たちから、そんな声が聞こえた。
最近は、ファッション誌の表紙になったりしたもんだから、かなり有名になっているみたい。
「・・おっと、
小羽っち、せっかくのデート邪魔されたくないし、行くッスよ。」
「あ、、はい。」
少し歩いて人の多い場所を抜けると、
とっさに黄瀬さんは、私の右手を取った。
おおきなおおきな手。
軽く優しく握ったその手が、温かくて、すごくドキドキした。
「さ、着−いた!
小羽っち、ゆっくり話したいッスから、お茶でもしよ?」
和風のお店で、甘味処”和”って暖簾がある。
入ると、席がひとつひとつパーテーションで区切られていて、これならファンの女の子たちに見つかることはなさそうだ。
「あ、これかわいい。」
席に座ると、テーブルの上に小さい陶器の伝票入れ。それから壁には和布のモチーフのウサギちゃん。
うさぎのちっこい人形に手を触れると、黄瀬さんの携帯がシャッター音。
「え・・なんで撮るんですか〜」
「久しぶりの小羽っちをちゃんと撮っておきたかったッス。会えない時にみるんスよ」
「えっ・・ちょっと、消してください・・。」
「ほらほら、抹茶のケーキ来たッスよ。」
「うわあ!可愛い、美味しそう♪」
甘いもの、ちゃんと食べるの久しぶりだ。
部活とか結構忙しかったのもあるけど、スイーツ食べたいな〜とか考える余裕なかったな・・と少しだけ、今の生活に反省。
「可愛いッスね。小羽っち。」
「もうっ、そういうこと言わないでください。
恥ずかしくなるから・・////」
この人に・・・
こんな風に頬杖をついて、嬉しそうに笑いながら見つめられたら、どんな女の子だってときめくにきまってる。
「そろそろ、リョウタって呼んで欲しいッスね。」
「それは、・・・」
妙に真剣なまっすぐな目つきになった、黄瀬さんは、鋭い。
「俺が、彼氏じゃないから?」
「・・・・」
普段は、彼氏として、彼氏のようにふるまってくれている。
電車の中では、人ごみに押されないようにちゃんと守ってくれるし、いつもメールや電話もくれる。
優しくて、好きって言ってくれるし、ほかの女の子とはちゃんと分けてくれていると思う。
そうだ・・
私が、
「まだ小羽っちさ、俺の事、好きだって言ってくれたことないッスよね。」
「は、い・・。」
「ごめん、自分からお試しでって言っといて、攻めるようなこと言ったッスね。
いいんスよ。それでも俺は、小羽っちが好きなんスから。」
ほんとうに私のことが、好きなんだろうか。
バスケが好き。
オシャレが好き。
友達が好き。
ケーキが好き。
そういうのと、同じじゃなくて・・
黄瀬さんは、とても私を大事にしてくれる。
とびっきり、優しくしてくれる。
だから、私もー
ちゃんと
歩み寄らなくては・・・
「リョウタ・・・くん・・。」
「!・・・小羽っち〜〜〜!!」
これが、いまの私の精一杯です。
もう少し、時間をください。
ちゃんとあなたのことを、好きになるから・・。