おとしもの

□4.高校入学
3ページ/11ページ





入学して1か月がたって、
しばらく会えてなかった黄瀬さんと、久しぶりに会う約束ができた。


海常高校は、春の間は合宿もあるし、新入部員のことで3年生である黄瀬涼太も忙しいらしい。

海常高校も新入部員はとても多いし、マネージャー希望もかなりいるらしい。
残念ながら、モデルの黄瀬涼太目当ての女子が多すぎるため、バスケ部内の雑用は、けが人や1年生がやりマネージャーはとらないことにしているそうだ。

だから、というわけではないが、
合宿や遠征なんかはすごく大変らしい。









まだ、秀徳高校のマネージャーをやることは、彼氏である黄瀬には言ってなかった。



(きっと、怒るだろうなぁ〜・・黄瀬さん。)




ちょっと憂鬱な気分が半分、
久しぶりに会えるのがちょっとうれしいのが半分。





お互い部活のオフになることが多い、月曜日に学校が終わってから待ち合わせた。






「小羽っちーーー💛」



「・・・黄瀬さん・・。

すっごく目立ってます・・。」







ショッピングモールの真ん中、おおきな何かよくわからないモニュメントの前で、たくさんの人が待ち合わせしている前で、

制服姿の黄瀬さんは、走ってやってきた。



ただでさえ、その容姿で目立ってしまうのに、ファン除けの変装もせずに、
堂々と制服でやってくる。

それがちょっと黄瀬さんらしいところもあるのだけれど、思いっきり注目を浴びているような気がする。






「ごめん、待たせたッスね!」


「ううん、大丈夫。私のほうが、学校近いから。」





「ほんと、久しぶりに会ったッスね!

ちょっと髪伸びた、それに制服可愛いッスよ。」



女の子を喜ばすの、上手だなあ。なんて思いながら、やっぱりそう言ってもらえると嬉しくて、お言葉に甘えた。







『ね、あの人さ、黄瀬涼太じゃない?』




近くにいた若い女性たちから、そんな声が聞こえた。

最近は、ファッション誌の表紙になったりしたもんだから、かなり有名になっているみたい。




「・・おっと、

 小羽っち、せっかくのデート邪魔されたくないし、行くッスよ。」





「あ、、はい。」




少し歩いて人の多い場所を抜けると、
とっさに黄瀬さんは、私の右手を取った。

おおきなおおきな手。


軽く優しく握ったその手が、温かくて、すごくドキドキした。



「さ、着−いた!


小羽っち、ゆっくり話したいッスから、お茶でもしよ?」




和風のお店で、甘味処”和”って暖簾がある。
入ると、席がひとつひとつパーテーションで区切られていて、これならファンの女の子たちに見つかることはなさそうだ。



「あ、これかわいい。」


席に座ると、テーブルの上に小さい陶器の伝票入れ。それから壁には和布のモチーフのウサギちゃん。

うさぎのちっこい人形に手を触れると、黄瀬さんの携帯がシャッター音。


「え・・なんで撮るんですか〜」




「久しぶりの小羽っちをちゃんと撮っておきたかったッス。会えない時にみるんスよ」




「えっ・・ちょっと、消してください・・。」


「ほらほら、抹茶のケーキ来たッスよ。」




「うわあ!可愛い、美味しそう♪」


甘いもの、ちゃんと食べるの久しぶりだ。
部活とか結構忙しかったのもあるけど、スイーツ食べたいな〜とか考える余裕なかったな・・と少しだけ、今の生活に反省。




「可愛いッスね。小羽っち。」



「もうっ、そういうこと言わないでください。

恥ずかしくなるから・・////」




この人に・・・
こんな風に頬杖をついて、嬉しそうに笑いながら見つめられたら、どんな女の子だってときめくにきまってる。


「そろそろ、リョウタって呼んで欲しいッスね。」


「それは、・・・」





妙に真剣なまっすぐな目つきになった、黄瀬さんは、鋭い。





「俺が、彼氏じゃないから?」




「・・・・」



普段は、彼氏として、彼氏のようにふるまってくれている。
電車の中では、人ごみに押されないようにちゃんと守ってくれるし、いつもメールや電話もくれる。
優しくて、好きって言ってくれるし、ほかの女の子とはちゃんと分けてくれていると思う。



そうだ・・


私が、



「まだ小羽っちさ、俺の事、好きだって言ってくれたことないッスよね。」


「は、い・・。」



「ごめん、自分からお試しでって言っといて、攻めるようなこと言ったッスね。

いいんスよ。それでも俺は、小羽っちが好きなんスから。」




ほんとうに私のことが、好きなんだろうか。




バスケが好き。

オシャレが好き。

友達が好き。

ケーキが好き。




そういうのと、同じじゃなくて・・


黄瀬さんは、とても私を大事にしてくれる。

とびっきり、優しくしてくれる。





だから、私もー



ちゃんと


歩み寄らなくては・・・









「リョウタ・・・くん・・。」




「!・・・小羽っち〜〜〜!!」




これが、いまの私の精一杯です。

もう少し、時間をください。



ちゃんとあなたのことを、好きになるから・・。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ