おとしもの
□4.高校入学
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◇秀徳高校のお昼休み
♪〜♬〜〜♩〜〜〜
「・・黒子か。」
『こんにちは、緑間くん。お久しぶりです。』
お昼休みは、たいてい高尾と一緒に中庭の端の、涼しいところにいる。
珍しく携帯が鳴ったかと思えば、『黒子テツヤ』との文字。
「何か用か?黒子。」
そばで黒子、という名前に高尾が反応した。
『秀徳のバスケ部に、マネージャー希望で1年生が入部したでしょう?』
「? それがどうしたのだよ。」
『それ僕の妹です。
秀徳で、悪い虫が付かないようにしてください。』
「なっ・・・!
なんなのだよ!七原がなんで黒子の妹なのだよ。」
高尾がさらに目を見開いて、驚いた。
いちいち鬱陶しいやつだ。
『詳しく話すと長くなりますから、今は話しませんが・・
とりあえず、小羽をいじめたら、いくら緑間くんだとしても許しませんから。
じゃあ、よろしくお願いします。』
ツーーツーーツーー・・・
「な、な、なんなのだよ!!」
「あっはっはっ!!
おもしれー!!何それ!?
小羽ちゃんて、誠凜の黒子くんの妹〜!?」
横で高尾が大爆笑している。
ますます苛立ってきたが、それよりも、なんなのだよ、そのシスコンっぷりは!!
「ねえ、シンチャン、
今から小羽ちゃん呼ぼうよ。事情聴取しようぜ。」
ちゃっと携帯を取り出すと、高尾はすぐさま七原小羽を呼び出した。
5分するかしないかのうちに、中庭にやってきた七原は、お弁当もまだ食べていなかったのか、片手にはお弁当、反対の手には携帯が握りしめられている。
「あーごめんね。小羽チャン!」
高尾が軽ーく手を上げた。
「どうしました?」
部活の時は、ポニーテールをする小羽だったが、学校ではだいたい髪の毛をおろしている。
制服姿で髪をおろした姿は、部活の時にあわただしく動いている、マネージャーの彼女とは別人だ。
「ね、シンチャンがさ、聞きたいことあるってさ!」
「なっ・・・!!
た〜か〜お〜〜っ!!!
聞きたいことがあるのは、お前だろう!」
きょとんと二人の先輩を交互に見ると、小羽は二人の座っている芝生に向かい合って座った。
首をかしげてちょっと笑う。
その姿が、妙に自然で可愛かった。
「ねえ、小羽チャンてさ、誠凜の黒子くんの妹ちゃんだってホントなの?」
「はい、そうです。正式には従妹ですけど。」
「従妹なんだ。
なんで言わなかったの?
帝光中出身のシンチャンもいるのにさ。」
「なんとなく、です。
特に理由はないんですけど・・
帝光中の時のことは、従兄(あに)はあまり話さないので・・
もしかしたら、いい思い出がないのかと・・。」
高尾は、鋭い。
そして七原の言っていることも正しいかもしれない。
ただ、気に入らないのは・・
入部したばかりなのに、こんなにすんなりマネージャー業がこなせて、文句のつけようがない。
その上、その仕事ぶりから、既に監督のかなりのお気に入りで、2・3年生選手たちからも一目置かれつつあるほど、だ。
あの黒子とは、正反対の機敏さ。
なのに、
俺が七原をいじめたら、とはどういうことなのだよ!!
「お昼まだなので、ここで食べてもいいですか?」
「あぁ、いいよ。俺たちはさっき食べたからさ。いまお菓子タイム。」
七原はお弁当の包みを開くと、
今日は従兄(あに)のぶんと一緒に作ったんですよ、なんて言って
小ぶりなお弁当の蓋を開けた。
「あーうまそ〜。」
高尾が、凄いじゃん、器用だねと褒めると、
うれしそうに笑っている。
3年の先輩二人の前で、堂々とお弁当が食べれるあたり、その度胸はやはり黒子の血筋だ。
「ね、小羽ちゃんてさ、お弁当の飲み物はスポドリなんだね。以外〜」
「高尾先輩はお茶派ですか?」
「あー俺、伊右衛門派。緑茶好きなの。
ちなみにシンチャンは、番茶とかほうじ茶とか、茶色系のお茶派。」
「うるさいのだよ。高尾。」
じゃあ、緑間先輩にはコレ、
と言って、七原がポケットから取り出したのは、ほうじ茶ラテ飴だった。
「外道なのだよ!なんなのだよこの飴は!」
「美味しいから食べてみてください。」
はいっと手渡された手前、帰すこともできず受け取ってしまった。不覚だ。
それから、週に何度かは七原は俺と高尾と三人で昼食をとるようになった。
バスケ部の話とか、月バスの事とか、案外話ができるので高尾のお気に入りだ。
3年の俺と高尾がしょっちゅう一緒にいるから、部活はもちろん学校内でも”悪い虫”はつくことがない。
黒子の思惑通りというところが、しゃくに障るが。