おとしもの
□6.秋風
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🎶♪〜♬♪🎶〜〜
「はい。」
「赤司か。まだ部活は始まる前か?」
珍しく、というか
電話をあいつからかけてくるなんて、今まで何度あっただろうか。
おそらく、記憶にあるだけでも片手で収まるくらいだろう。
「あぁ、緑間か。
珍しいね。どうかしたかい?」
「・・・もう、わかっているんじゃないのか?」
少し深刻な声で、そう言ってきたものだからもしかして何か大変なことでも起こったのだろうかと思った。
「なんのことだい?」
「・・・・小羽が、
黄瀬と別れたそうなのだよ。」
合宿中、少し悩んでいるようだった。
敢えてかと思っていたが、黄瀬からわざわざ距離を置くようにしていたのは、ただ単に先輩マネからの嫌がらせを受けないためだけではなく、
自身の問題もあったのかもしれない。
「そうか・・。」
「知っていたのか?こうなる事を。」
「まさか。
小羽とそんな話は合宿中もしていないさ。」
正直、驚いたというよりは、
彼女が出したその決断が思いのほか早かった。いつかは言わなければならないということは、小羽自身も解っていたのだろうが。
そして、彼女が今、どういう状態にあるのかが気になった。
「小羽は?どうしてる?」
「ひどく落ち込んでいるのだよ。
自分が悪いと思っているのだろうな。」
「1年も付き合っていたんだ。仕方ないな。」
緑間は、心配で心配で仕方がないのだろう。
わざわざこんな電話をかけてくるのだから、彼女をどうにかしてあげたい一心で。
俺に話しても、恐らくこういう答えが返ってくるということも解っていただろうに。
しかも、自分も小羽の事を欲しいと思っているはずなのに。
未だ自分の気持ちに気が付いていないはずはないだろう。
「赤司、おまえは小羽に自分がメールの相手だとは打ち明けないのか?」
「今はね。
時期じゃない。」
「そうか・・・
要件はそれだけだ。
じゃあな。」
そういうと電話を切った。
緑間とはああいう男だ。
淡々と話して、他人の事は我関せずなはずなのに、でもどこか優しいところがあって。
だから、いつまでも友人でいられる。
バスケでも、小羽の事でも、
俺は誰にも負けるつもりも譲るつもりもない。
小羽
きっと今頃泣いてるんだろう?
きっと誰よりも傷ついて、
誰よりも自分を責めて。
黄瀬には小羽の気持ちも全部、
持っていかれると思っていた。
もしかして、もう『せいくん』のところへは戻ってきてくれないかもしれないと思っていた。
そうか、自分の気持ちに正直になったんだ。
それから何日も、
小羽とメールをしなかった。
彼女からも来なかったし、こちらからも
あえてメールをしなかった。
なんとなく、黄瀬と別れたと知って小羽を慰めるのは、ズルいと思ったからだ。
黄瀬は友人だ。
いくら小羽の事を先に知っていたのは俺だとはいえ、二人が辛い思いをしているのを知っていて横から抜け抜けと優しい声をかけるようなことはしたくなかった。