おとしもの

□6.秋風
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★秀徳高校の昼休み2






今日は小羽のピアノの再試験が終わって、お祝いパーティーをすることになっていた。
選抜チームの合宿に参加したせいで、小羽はいよいよピアノの実技のテストで再試験となってしまい、猛練習のうえ先生たちも驚くほどの演奏で合格したのだった。




「せんぱーい!

お待たせでーす。」




珍しく小羽が大きな声で嬉しそうに駆けてきた。

黄瀬と別れてからというもの、いつもの笑顔は愛想笑いになり、無理して過ごしている様子は俺たちからしてもよく分かった。
そのつらさを振り切るかのように、小羽は部活とピアノに打ち込んでいるようだった。




「おー!きたな、小羽姫。」



「なんですか?それ。

ところで、聞いてください!
来年、京都であるピアノの音楽祭に出場することになったんです。」




「へぇ!すごいじゃん。」


「京都・・・」



黙っていたシンチャンが、思い出したみたいに口にした。




「そうなんです、京都で演奏できるなんて夢みたいです!!」




「ささ、京都祝いも兼ねて、始めようぜ!」



そう言って、鞄から朝買っておいたサンドイッチとおにぎりを広げると、シンチャンが学校に来る途中に買っておいてくれた、コンビニスウィーツとサラダと豆乳を出した。

さすがシンチャン、ちゃんと冷やしてある。




「うわ〜!すごいですね。

あっ杏仁味の豆乳だ。これ大好き♡」




はっきり言って、小羽のこの笑顔に弱いんだよね〜
たぶんシンチャンも一緒。



「じゃあ、小羽の再試験合格と、京都演奏会出場を祝って・・・、」






「「「かんぱーい」」」








ほんとうに久しぶりにみた笑顔だった。



京都かー・・・、

小羽のことをずっと見てきたあいつがいるところだ。
それこそ黄瀬よりも、俺たちよりもずっとまえから知っていて、陰ながらずっと支え続けている奴。




正直、あまり好きなヤツではない。





同じポジション。
3年間、一度も試合で勝てたことはない。

それなのに、あいつは1年の時からキャプテンなんかやってのけて、更にはバスケのセンスは見ていても惚れ惚れするくらいカッコイイ。
それに、誰にでも紳士的でいい奴ときた。


だから好きじゃない。



なのに、間違いなく目の前のこの少女を
あいつはかっさらっていくだろうと思うと、
やはりムカつく。





「和成先輩、どうしたんですか?
食べちゃいますよ?」


「はいはい、お姫様、お皿をどうぞ。」



用意した100均のパーティー用のカラフルな紙皿にさえも、かわいい〜、なんていい反応してくれて、ほんと可愛い。



「真太郎先輩も。」


「いただきまーす!」




「いただきまっす!」



「いただきますなのだよ。」



俺が噴き出すのと、まったく同時に小羽が噴き出した。


「「なんでなのだよなんだよ「なんですか〜」」



「あははは!真太郎先輩、サンドイッチがこぼれているなのだよーです♪」


「あっは!小羽サイコー!!なのだよ」






「お前たち・・・怒」



それでも二人の笑いは収まらず、ずっとシンチャン語が続いて、
その時間が楽しくて楽しくて堪らなかった。










  🌹  🌹  🌹








「小羽。」


「はい?」


「あいつと・・、黄瀬とは別れたのか。」




一瞬、笑っていた小羽の顔が、ピクリと固まった。






「おい、シンチャンこんな時に・・・!」





「あ、・・・はい。

この間、ちゃんと話、して。
でも、私が傷つけたのに、黄瀬さんすごく優しくて、
・・・・だからなんか余計につらくて・・


やっぱり、真太郎先輩が言ったように、
私がばかだったから・・こんな事になって。」






「あいつは大丈夫なのだよ。

ちゃんとわかっているだろう。」





泣かなかったものの、下を向いて、やっぱり申し訳ないように肩を落とした。



「黄瀬君とは、1年くらい付き合ってたんだっけ?」



「はい」



「初めてのカレシで黄瀬とは、お前もかわいそうなのだよ。」



「え・・なんでですか?」






不意にシンチャンがそんなことを言い出したから、そのちょっと重い話題だったけど、興味がわいた。



「あいつは面倒なヤツだからなのだよ。普段から人事を尽くさない。
お前に対してもそうだ。もっと人事を尽くしていれば、お前は黄瀬に本気になっていたかもしれないだろう?」





シンチャンなりの、慰めのようだ。



いいヤツ。

自分も小羽の事、人事尽くせばいいじゃんって思ったけど、
俺も一緒だなって思った。




「黄瀬さんのせいじゃないです、私が優柔不断で。でも、大丈夫です。
少し元気になってきましたよ?」






そのカラ元気がまた、イタイんだって。


無理すんなよ。
いつか、京都のあいつが迎えに来なかったら、俺かシンチャンが迎えに行ってやっから。







楽しくて、まだちょっと切ない


お昼休みだった。
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