おとしもの
□7.冬のおくりもの
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□試合後の事件
大会が終わって、優勝した洛山高校の主将として、大会本部にトロフィーや賞状一式を受け取りに行ったのは、もう夜になっていた。
去年もそうだったから、大体の予定は解っていたが、今年は特に試合も押していたし遅くなった。
コーチにトロフィーなどを預けると、今日は宿泊所ではなく実家に帰っていいと言われていたため、荷物をもって会場を出ようと準備をしたとき、
あぁ、あの子はもう帰っただろうか。
さっき洛山の前に本部のほうへ呼ばれていたから、まだ近くにいるかもしれない。
そんな想いが過り、
もちろん会おうなどとは思っていないが、すぐ近くで電話越しに話ができるなと思い、携帯を取り出した。
もう暗くなった外の景色を眺めながら、アリーナのロビーに腰掛け小羽の声を待った。
♬🎶〜♩♩♬〜〜
『た、・・たすけてっ』
「・・・・小羽?」
一瞬で、何かがあったということは理解ができた。
その声は、鬼気迫るような緊迫した様子をうかがうには十分だった。
「どうしたんだい・・!?」
『った・・助けてっ、先輩たちがっ・・』
緑間と高尾君か・・!?
二人に何かあったのだろうか。
その瞬間何があったのか瞬時にわかることになる。
しばらく聞いていなかったあいつの声。
『おいおい、誰に電話してんだよォ。小羽チャン?』
小さくだが、はっきり聞こえた。
灰崎・・!
なぜあいつが小羽や緑間たちといる?
以前、青峰があいつを殴ったと聞いた。
それ以来、大人しくしているようだとは聞いていたのだが、
そうか、黄瀬と付き合っていた小羽に目をつけたのか。
既に通話は切られてしまったようだが、3人が一緒にいるということは、きっとこの会場の近くだろう。
他の事は考えなかった。
小羽が危ない
あいつなら何をするかわからない。
小羽にだけは絶対に、手を出すことは許さない。
一番近い裏口から外へ出ると、あたりを見回した。
小さな声だったが、うめき声のような
そんな声が耳に入りすぐにそちらへ向かうと、案の定緑間と高尾くんが階段を駆け下りていくのが見えた。
「緑間!」
腹のあたりを押さえながら、こちらを振り向いた。殴られたのか・・。
「赤司・・」
「灰崎か。」
「小羽が連れていかれた、早くしないとまずいのだよ!!」
「・・どっちだ。」
「公園のほうだと思うけど、小羽抱えてだから、まだその辺にいると・・」
唇に血をにじませた高尾が、階段を駆けながらそういった。
「許せないのだよ・・もしも小羽に何かしたら・・!」
公園はすでにひと気はほとんどなく、シンと静まり返っていて、二人を発見するのはたやすかった。
「あっちで音がするぜ!」
「本当だな、急ごう!」
三人で向かった先は、少し先にある公園にある建物の脇のあたり。
なにか物の当ったような、音が響いた。
「「灰崎!!」」
公園の倉庫のような建物の脇、横はたくさんの木々が生えており、人どおりはない犯罪にはうってつけの場所だろう。
探していた彼女は、
恐怖に怯えた顔で固く小さく縮こまり、抵抗したのだろう、ジャージや手足についた土と、泣きはらした目が、それを物語っていた。
「灰崎・・こんなことをして、どうなるかわかっているのか?」
「あ?なんで赤司が・・」
3人の男に囲まれた灰崎は、というよりは赤司の冷たい目ににらまれたからだろう。言葉を失い、舌打ちをすると、
そばにあったモップの柄を振り回した。
それを避けると、緑間が一気に詰め寄りその手からモップをもぎ取った。
赤司が、恐ろしく冷たい目で灰崎に近寄ったかと思うと、そのまま見たことないほどの冷酷な声で
「・・七原にこんなことをして、俺たちが許すと思うのかい?
お前は、もう用済みだといっただろう」
そういうと、
一体何をしたのだろうか。
灰崎は足元に崩れ落ち、まるで催眠術をかけたかのように脱力した。
まるでアンクルブレイクのように、あざやかで何が起こったのかは誰にもわからなかった。
自然に人を従える者。
シンチャンが以前そう言ったことがある。
きっと、生まれ持っての気品というか気質で、よくある学級委員とか生徒会長とかそういう上に立つと生まれながらに決まっているような、そういう人間なのだろう。
「・・・目障りだ、行け。
三度目はないと思え、灰崎!」
「・・ッチ!・・クソォ!!」
赤司が最後にそういうと、地面をたたくように駆け出して、灰崎は行った。
シンチャンがそれを睨み付けるように見送ると、そばにいた小羽に、壊れ物を触るかのように、触れた。
「大丈夫か・・?」
「・・怪我はないかい?」
シンチャンと赤司が問いかけると、
こくこくと頷いて、目に溜まっていた涙を落とした。
それから、すぐに
シンチャンは小羽をそっと抱きしめた。
「心配したのだよ・・!本当に・・」
それは、
兄のような存在として
いつも一緒にいる仲間として
片思いをする者として・・・
すべての想いが詰まっているような抱擁だった。
メールの相手であり、同じく彼女の事を想っているだろう赤司は、
その様子を黙ってみつめていた。
「あ・・あかし、さん・・。
たかおせんぱい・・」
「小羽ごめんな、あいつ止めれなくて。」
シンチャンの肩越しにそういうと、シンチャンが抱きしめていた小羽を離し、ハンカチを取り出して、小羽の頬についた泥を落とした。
手首を強く握られたのだろう、手の跡がくっきりと付いている。
「七原、立てるかい?」
「・・はい・・・」
二人が腕を貸して、立ち上がった小羽は髪の毛にも葉や枯れ草がついていた。
水道のあるところに行って、ジャージや手足についた土をきれいに落とすと、
さっき俺が取りに行ったバックからタオルを取り出して、拭いた。
「ありがとうございます・・。」
とりあえず、場所を変えようということになり、赤司を含めた4人で移動をした。