おとしもの
□8.立春の花
3ページ/7ページ
○コンサート
身内に受験生がいると、家の中がぴりぴりして・・なんてよく聞くけど、うちはお従兄ちゃんがあんな性格だからか、全然そんなことにはならなかった。
普段よりは、部屋にこもっていることも多かったけど、図書館へ行ったり、時々バスケをしに行ったり・・割とがつがつ勉強してるってカンジにも見えなくて、あまり意識することはなかったような気がする。
ちゃんと希望の大学にも合格したので、あとは来週の卒業式を待つだけとなった。
「小羽はいつから京都へ行くんでしたっけ?」
「明日だよ。
今から頼んであった衣装を取りに行くの。
「あぁ、小羽のお父さんが送ってくれた衣装ですか?」
「サイズが少し大きかったから、叔母さんに頼んでお直しに出してもらったの。
でも、お父さんたら濃いピンクのドレス送ってきちゃって・・なんか目立ちそうで着るの気が引けるんだよね・・」
そうなのだ、父は海外で仕事をしているため、滅多に帰ってこない。だから、私の好みなんてもちろん知らないし、きっと目立ったほうがいいとでも思っているに決まってる。
でも、送ってくれたのはすごく嬉しかったからドレスは着るのだけれど、きっと演奏のほうでがっかりされるのだろうなーなんて。
「大丈夫ですよ。
僕は卒業式があるから聞きに行けないけれど、母さんは行くみたいだから頑張ってきてください。」
「うん、今日も練習しないと。
部活もお休みさせてもらってるしね。」
「じゃあ、僕も出かけてきます。
火神くんと約束しているので。」
「うん、いってらっしゃい。」
練習はしっかりした。
ピアノの先生も、これならなんとか、と送り出してくれた。
明日はいよいよ京都です
京都ははじめてなので
すごく楽しみ♪
明日は天気もよさそう
だね。
会場はどこだい?
京都のセンチュリーホール
大ホールだよ。
結構広いらしい。
京都では初日練習と
リハーサルして、
二日目に本番です(^O^)
忙しそうだね、少しは
観光もできるのかい?
3日目と4日目は
何もないけど
ピアノの先生が
折角だから観光
しておいでって。
京都はいいところだよ
せいくん、京都
行ったことあるの?
おすすめのお店とか
あれば教えてほしいな☆彡
住んでいたからね
よく知っているよ
そうなの!?
じゃあ
京都で道に迷ったら
電話するね♬
いいよ、でも
迷子になるなよ。
道複雑だからね。
また子供扱いしたー
ヽ(`Д´)ノプンプン
洛山高校の卒業式は今日、終わった。
3年間の学校生活は、充実していて自分なりには満足している。
バスケも、学校も、私生活も特に問題はない。
大学にも推薦で合格しているし、本当は今日卒業式が終わったら、このまま東京の自宅へ戻る予定だったが、
小羽が京都へやってくる。
彼女のピアノは、聞いてみたい。
そして
ようやく、東京へ戻れる。
すぐ近くに居られる。
小羽は、
俺の事を一切詮索しない。
興味が全くないという訳ではなさそうだが、
聞いてはいけないと思っているのか、個人を特定できそうな話題は一切出てこない。
ウインターカップで灰崎に襲われた、あの事件のあと、電話をした。
『せいくん』として。
『あれから大丈夫だったかい?』
『・・すみません、折角電話してくれたのに・・
あんな電話で・・驚いたよね。。』
『小羽は、大丈夫なのかい・・?
怖かっただろう。怪我はないかい?』
『うん・・大丈夫・・だよ』
公園で、大きな体の灰崎に腕を押さえつけられた状態の彼女を見たとき、
胸の奥から、焼けつくような熱さを感じた。
怖い思いをさせてしまった。
あともう少し遅かったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれないけれど、その前に見つけることが出来たとはいえ、
彼女はひどく怯えるほど、怖い思いをしたのだ。
あのとき、彼女は泣き叫ぶことはなかった。
怖くて怖くて声が出なかったのだろうと思っていたが、あとで黒子に聞いたところ、幼い時に愛憎ストーカーに誘拐されてその時にかなり怖い思いをしたらしい。
本人は覚えてないのだそうだが、その時も一切泣いたり叫んだりしなかったのだそうだ。
そういう過去の記憶が似たような体験で戻ることもあると聞いたことがある。
もしかしたら、彼女も気づかないうちにそういった状態になっていたのかもしれない。
『・・泣いてるのかい?
そばに居たら、君の怖さを和らげてあげられるのに。』
『ご・・ごめん、大丈夫だよ?
せいくんの声聞いてたら、なんかほっとしちゃって。』
『無理をしなくていい。辛いのだろう?
小羽が怖くなくなるまで、ずっとこうしていてあげるよ。』
そのまま、ありがとうと言って、
すんすんと鼻をすすりながらしばらく泣くと、
小羽は少し安心したのか、
話を始めた。
『あのね、部活の先輩2人と学校は違うけどすごくバスケットのうまい先輩が、助けてくれたんだよ。』
『そうか。その先輩達のおかげだね。
他校の先輩というのは、知り合いかい?』
少々、自分の事を聞くのは躊躇したが、彼女が赤司征十郎のことをどう思っているのか気になった。
『うん、わたしがとても尊敬して憧れている人。バスケはものすごく上手いし、あの洛山高校でキャプテンをしているんだよ。
それに、誰にでもすごく優しいの。』
『そうか、小羽はそういう人が好きなのかい?』
『う・・そうじゃないよ。
でも、せいくんのことも尊敬してるよ?』
『ありがとう。それは光栄だよ。』
そんな話をして、電話を切った。
赤司征十郎への小羽の印象は、案外いいのだということを知って、少し安心した。
もしも、苦手だと言われたらー・・
どうしようかと思ったよ。