おとしもの

□9.咲く花の色
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体が温まったところで、宿泊先のホテルへの方向へ、歩こうと外へ出た。
もう夕方だ。暗くなり始めている。

まだ暗くならないでって、そう思う自分がいて、せいくんといつまでも一緒に居たいと願う。










「春から東京の大学へ通うんだ。」



せいくんが不意にそんな話を切り出した。




「えっ・・!そうなの・・?」



「ああ、もともと大学は東京と決めていたからね。」




「じゃあ、東京に帰ったら、あの・・

また会えるの?」




「・・小羽。」


「・・?」




ちょっと困ったような、言葉を選んでいるようなしぐさをして、彼は足を止めた。
ちょうど、並木のある河の横で、とても静かなところだ。観光客用に、いくつかのランタンの灯りが灯されていて、とてもきれいだ。

せいくんが、何かを考えているようだったからつい静寂を破るかのように声をかけてしまった。



「・・あの・・」


「本当は、ウインターカップの時に君に話そうと思っていたんだ。
俺が赤司征十郎だということを。

でも、あんなことがあったし、誰にも邪魔をされたくないと思ったんだ。


だから、今日がいいと思ったんだよ。」







赤司さんは目を伏せて微笑むと、河沿いの階段の方へ行こうというように、手を出した。
差し出された手を躊躇せずに受け入れると、その手は、私の手を優しく包んで誘導する。

川べりの階段を下りて、ベンチの上に荷物をおいて、そこで暗くなってしまったあたりの景色とランタンの灯りの中、幻想的に、
そして高校生のわたしには体験したこともない程ロマンティックで甘美な時間に思えた。







「小羽、俺は君が思い描いていたせいくんとは違っていたかい?」



「え・・?

そんなことないですっ。むしろ、今思えば、どうして気が付かなかったんだろうって思うくらいで・・」



「それはよかった。正直、心配していたんだ。君ががっかりしていないかと思ってね。」





赤司さんは、まっすぐな目で私を見て話をする。本当に、心からの言葉が伝わる。


なんて、綺麗な目の人なんだろう。
いつの間にか、私も目を逸らすことが出来ずにいた。






「わ、私ね、あの・・

もしもせいくんに会えたら、伝えようと思っていたことがあって・・ね、


えっ・・・と・・」






周りの静かな世界と、河の水音だけが、どうにも言葉を出しずらくて。
きっと顔だって、暗いけど赤くなってる。
握られている片方の手が、汗かいてるかもしれない。

でも、会ったら言いたいなって思っていたことだもの。

言ってしまおうって決めて、
少しだけ震えてしまった声で、伝えようとした。





「あ・・、あのね・・・っ」


「小羽」



「あっ、は・はいっ」



急に遮られて、握られていた左手を赤司さんは胸元へ持っていった。







「・・恐らく、俺のほうが先だから、俺が先に言うよ。」




少し、目を伏せたかと思うと、大人っぽく優しく笑って見せて、











「小羽の事は



ずっと好きだったよ。」












耳が気圧でいっぱいになったみたいに、周りの音なんて全く聞こえなくなっていて、もちろん声なんて出るわけがない。
その優しい顔と、男の人らしい堂々とした告白に、もう頭が真っ白だ。









「あ、わ、・・わたしも、・・あの




す、

好き・・です・・」









そう言ったら、バスケの時になんて見たこともないほど、穏やかで優しい表情で

そっと抱きしめてくれた。











ほんとうに、




大好き、






せいくん
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