おとしもの

□9.咲く花の色
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◆秀徳卒業式と、三度目のストバス





先日、ほかの学校より遅れて、最後に卒業式を迎えた秀徳高校では、音楽科の在校生が総力をあげて盛大な卒業式となった。

もともと堅い学校な割に、やることは意外と派手なところがある。




バスケ部のメンバーとは、そう仲が良かったとは言えないが、高尾とは腐れ縁なのか、意図的なのか大学も同じになった。

いろんな意味で、頼りになる奴でもある。



小羽はといえば、自分の卒業式かのように泣いて、
式が終わった後の、バスケ部のセレモニーでは、俺以外の3年部員全員の第二ボタンを無理やりもらわされていた。







「小羽、いつまでないてんだよ。」


「だって〜・・淋しい・・です」




未だぽろぽろと涙をこぼしている彼女を、困ったように見つめる高尾。
こいつも、小羽のこと好きだったのだから、『失恋』したのだろうな。




「大学だって近いし、遊びに来てやるっての。
な、シンチャン。」


「俺は来ないのだよ。
お前にはもう赤司もいるだろう」




「あー、シンチャン、不貞腐れてやんの。
それってヤキモチじゃん?」





瞬間、ものすごく怖いオーラでにらみつけてやったが、ちっとも答えてなさそうだった。

そうだ、たぶんヤキモチなのだろう。
試合に負けたときのあの悔しい気持ちに、少しだけ似ているところがある。
でもそれと違って、頑張ってどうにかなるものでもなく、それに、小羽にはいつも笑っていて欲しい。



今の赤司なら、きっと小羽の事を大切にしてやれる。もともと申し分ない相手だ。
何一つ、文句の付けようがなくて、どんな奴が小羽に近づこうとしても守ってやれる。


だから、きっと


大丈夫だ。






「俺のボタンもやるのだよ。小羽」




「あ・・ありがとうございます。
もうどれが誰のか、わからなくなっちゃいました。でも、これ3年生の先輩たちの人数分、凄く嬉しいです!」



「だろ?小羽大事にしろよ〜。
そのうち価値でるかもしれねーからな。」


「はい!」

















〜〜🏀〜〜🏀〜〜🏀〜〜







今年は大学受験があったために、黒子の誕生日ストバスは3月に行うことになった。



メンバーは、いつものキセキメンバー。


今回は全員卒業後ということで、遠方から集まる必要もなく時間通り全員が集合した。









「やあ、みんな。
卒業おめでとう。」



「・・てか、おめえもだろ、赤司」



「まあ。
青峰はいつからアメリカへ行くんだい?」



「来月になってからだそうですよ。」



「だいちゃんってば、全然準備とかしてないんだよ?英語とかも勉強しないし、赤司君なんとか言ってよ!」





桃井さつきが、腕を組んでいつも通りに文句を言った。
青峰は、そんな世話焼きで面倒見のよい桃井と4月に初めて離れることになる。
只の幼馴染、といえばそれまでだが、今のような状況でいられるのは、能力の高い二人がいままで支えあってきた結果でもある。




「うっせーよ、さつき。
で?紫原はどこ行くんだ?」


「あー?俺は、大学行くよー。
みんなとは違うところだけど、東京だから家から通うー」



「へえ〜、てっきりむっくんはお菓子作ったりする学校とか行きそうって思ってた。」



「あーそれもいいけどー、とりあえず推薦ではいれるところから選んだんだー」





朝から、お菓子をぽりぽりと食べている。
朝ご飯は食べてきたのか、こいつは。

小羽が赤司の彼女になったことを、知っているのか知らないのか・・
一番反応が心配な奴なのだよ。






「じゃあ、そろそろはじめよっか!」




桃井の声かけで、全員がアップを始めた。
俺は、大学ではバスケはやらない。

やらないと言っても、本格的に、という意味だ。サークルやらなんやらで、時間があればやろうとは思うが、恐らく勉強のほうが大変そうだ。
高尾も同じつもりのようだ。




「んじゃぁ、初めは、僕と黄瀬くんと紫原くんのチームですね。」



「黒子っち、よろしくッス!
大学では同じチームでやれるし、楽しみッスよ!!」



「はい!僕もです。」



「春からは、俺が黒子っちの『光』になるッス!!」











毎年やるストバスは、いろいろと刺激もある。
とくに去年までは、皆別々のチームにいた為に、あえて一緒のチームで動くとわかることもたくさんある。


赤司が、やっぱりすごい奴だということとか、
青峰が、純粋にバスケのセンスがピカイチだとか、
黄瀬が、自分の技をどんどん磨いて成長しているとか、
紫原が、さらにパワーをつけているとか、
黒子が、相変わらず見失ってしまうほど薄いとか・・・




やるたびに、試合や学校では試せない、レベルの高いプレイを試してみたり、
それなりに皆楽しんでいると思う。



今年は、大会を控えているわけではないし、それぞれ一旦区切りを迎えているため、心からバスケを楽しんだ。









「はーっ疲れたッスー!」


「紫原、お菓子はまだ早いのだよ。」


「えーー、もう3ゲーム分も我慢したしィ―」


「紫原くん、うちの小羽が京都限定のまいう棒をお土産に買ってきましたから、持ってきました。」



「えぇ!?
はねちんが!??いいの?」



「ええ、もちろんです。小羽が会いたがっていましたよ。」




箱ごと渡すと、さっそく紫原はガサゴソと味をチェックしている。




「ねえ、はねちんさぁ、

赤ちんの彼女になったんだよねぇ?」





やはり
紫原も知っていたのか。





「あー?そうなのか?

・・・て、黄瀬と別れて結構経つけど、あいつら大丈夫なのか?」






そういって青峰が指さした先には、赤司と黄瀬がコートの反対側で、二人きりで話している姿で、
元カレと今カレの間柄を気にするとは、青峰にとっては空から槍が降ってくるくらい、珍しい思考だと思った。






「大丈夫ですよ。きっと。」


「ふ〜ん・・・まあ、赤ちんなら、黄瀬ちんよりは安心かなぁ・・・」



「はい。今の赤司くんは、文句の付けどころがありません」



「・・・だな。」








そういってそこにいた全員が、コートの反対側で話している黄瀬と赤司を見つめた。
ひとり、ぼりぼりと不服そうにお菓子をかじる大男を除いては。
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