おとしもの

□10.赤いあの人と
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そうですとも。





キスだってまだ。


そんなこと意識だってしたことなかった。








だって、せいくんが東京に住むようになってからメールも電話も前と変わらず、変わったことといえば週に1・2度会えること。
待ち合わせして、それからお茶して、
たわいもないハナシをして、



時々、抱きしめてくれた。









それだけで、わたしにとっては十分満足していたし、それ以上をしたいなんて考えたこともない。




恋人なら、しなくちゃいけないの?


そんなことないと思うし、お互いが今の状況に満足しているんだから、他人にとやかく言われる筋合いはないはず。









でも、嫌でも考えさせられてしまった。







なんで、せいくんは、


やさしく抱きしめてくれるのに、


それ以上は


なかったんだろうか、と。







いや、それよりも許嫁って・・



結婚が決まってるって事だよね?












とても、この後せいくんと顔をあわせる勇気なんてなくて、都合が悪くなったとメールを入れて帰ることにした。



あー・・へこんだつもりなんてないのに。







駅へ向かって、来た道をUターンして歩くと、駅に小太郎さんがいた。








「あれ?小羽ちゃんじゃんね?」


「あ・・と・・。
小太郎さん、部活どうしたんですか?」



「ん?あぁ、足痛めちゃってさ。
いま病院行ってきたとこだよ。」




たいしたことはなさそうだと、少し安心したけれど、ジャージの裾を上げて足首のサポータの部分を見せてくれた。

そっか、此処にいるのは寮に帰る途中なのか。






「早く良くなるといいですね。」



「あぁ。

それより、どうしたの。こんな暗くなって一人で。赤司は?」



「あ、ちょっと用事が出来ちゃって、先に帰ることにしたんです。」




「そうなの?
気をつけなよ。ここらへん学生ばっかであぶねーからな。」







いつものように、ニカっと笑ってくれたので、じゃあ・といって別れようとしたとき、ふと小太郎さんに聞いてみようか、とそんな考えが過った。







「あのっ・・聞きたいことがあって・・

少しだけ、いいですか?」






こんな時に、申し訳ないと思いつつもすぐ近くのファミレスで話をすることになった。







「なになに?どうしたの?
赤司と喧嘩とか?
あいつ時々怖いくらい冷たいときあるからなー。」





「い、いえ、そうではなくて・・。

あの、男の人って、そのー・・
好きな女の子と付き合ったら、(いつ頃キスとかしたくなるんですか?)」






すごくすごく小さい声で言った。


言った自分が言うのもなんだけど、もう顔真っ赤だと思う。

恥ずかしいっ



でも聞きたい・・







「あー、時期ってこと?
そうだなー・・ほかの奴はわかんねーけど、俺なら本気の相手は3週間くらいは待つかな。

本気じゃなければ、んー・・デート初日でキスまでいくかも。」





「え”・・・・しょ、初日・・」




「実際、デート初日が最短だしね。」



「早くないですか!?」



「そうかな。
まあ、普通だと思うけど・・」





すこし考えこんだ小太郎さんは、あっといって手を叩いた。




「でも永吉なんかは、別だと思うぜ?
あいつそもそも彼女いたことあんのかな〜」





「・・せ、いくんは?
せいくんは・・・

高校の時とか、彼女っていましたか?」




失礼だと思ってはいるんだけど、小太郎さんの眼を見てそれを聞くことはできなかった。
聞きたい、だけど聞きたくない・・・


でも、聞かないと、きっと

いろいろ疑ってしまいそうで・・







「あー・・赤司かー・・

あいつなら・・・」




そういって、言葉を止めてしまった小太郎さんを不思議に思って、ようやく真正面に見ると、なんだかなんとも言えない表情をして、空を見つめている。

ふと私の頭のうえを見てる、と思いふと振り返ると、


そこに






せいくんがいた。








「・・あ、赤司・・っ」




「やあ、小太郎。
小羽と何を話しているんだい?」





「あ・・いや、あのさっ・・」


「せいくん、私が聞きたいことがあったから、お願いしたの。」



「へえ。
俺との約束をすっぽかして?」




怒ってる。

初めてみた。



「ご、ごめんなさい。」


「ごめん・・赤司。」




「別に。じゃああとは俺が引き受けるよ。」


「あ・・あぁ、
じゃあ、赤司、小羽ちゃん、またっ」





小太郎さんに悪いことしたかな。
かなり固まってた、せいくんの怒ったとこ、やっぱり小太郎さんも怖かったんだ。





「・・で、小羽。

大学の門の前で待っててくれてるってメールくれたのに、どうしたんだい?」




いつものやさしいせいくんに戻っている。
でも、少しだけ、ほんの少しだけ口調が厳しい。





「・・・・小太郎さんなら、何か知ってるかなって、思ってきいてたの。」



「何かって?」



「大学の前で、女のひとに会ったの。
波多野さんて人・・・。」




「・・! 芽衣子か。
何を話したんだい。」




「許嫁って、・・本当なの?
あの人がそういってた。」






なんか、泣きそうだった。
言うつもりなんてなかったのに、
こんなカタチで問いただしてしまうなんて・・




「・・正式な許嫁というわけではないよ。
婚約もしていないし、親同士が勝手に盛り上がっているだけだ。」


「恋人・・なの?」




「まさか。
勝手に周りが言ってるだけだよ。小羽が気にすることはない。」






せいくんがそう言ってくれているのに、
なぜかすっきりしなかった。
それはきっと、あの人がすごくせいくんのこと知っている風に言っていたから。
もしかして、私よりもせいくんの事をたくさん知っているのかも知れない。以前は付き合っていたとか、いや大学でもすごく親しい仲だったりしたら・・・



せいくんは、話が終わらないうちにファミレスのお会計をして、私の手を引いて歩き始めた。
一駅歩こう、と言って、珍しく手をつないで歩く。










「何を心配しているんだ。
恋人と呼べるのは、君だけだろう?」




大きな公園の中を歩く。
遊歩道がしっかりしているから、夜でも歩きやすい。
繋がった手が、暑くて、汗ばんでるかもしれないとちょっと躊躇したけど、離してくれる気配はない。




「う、うん・・。でもね、
すごく不安になって。
あの、わたし子供っぽいし・・っていうか、高校生だし・・」



「そんなことないよ。
小羽はすごく魅力的だよ。
一体何を吹き込まれたんだい?」





「せいくんが・・・私の事大切にしてくれてるのは、ちゃんと解ってる。
でも、ちゃんとせいくんの口から波多野さんの話、聞きたかったよ・・。」






「そうか。

小羽。とくに大切な情報じゃないと思ったんだ。芽衣子のことは気にするな。」






「そうじゃなくってっ・・
そうじゃないのっ。
私とせいくんって、

・・・・付き合っているんだよね?」





ちゃんと言って欲しい。
あの人とはどんな付き合い方をしていて、なんでお互い呼び捨ての名前呼びで・・それに、許嫁みたいなものなんてことになったのか・・。
せいくんの口から聞きたい。



気にするなって言われても、





知ってしまったら、気になるよ!






そう心の中で叫んだ瞬間・・














頭の中が、せいくん一色に染まった。









温かくて柔らかい、それから、

肌のぬくもりと、匂い。




せいくんの唇が、




私のと重なっていた。










もう、死んでもいいや。




そう思えるくらい、優しくて甘くて、切ないキスだった。
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