大人になりたい!

□3冊目
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テストはあっという間に終わり、あとは結果を待つだけになった。
私にとっては、テスト後のご褒美があったもんだから
それだけで頑張れたし、苦痛なことさえも忘れた。




私はすっかり、
赤羽さんに会えることを力にしていた。














「おはようございます!」


「おはよう、
テスト終わってハツラツとしてるね。」




今日も車でのお迎えで、私は張り切ってまたお弁当を作った。
行き先は教えてくれなかったのだけれど、少し遠出をするとのことで、夕方までの時間を赤羽さんに預けることになっている。


それが嬉しい。
すごく嬉しい!



「テストはまだなにも帰ってきてなくて。
報告できずで残念です。」


「はは、結果なんて心配してないよ。
恋ちゃんは勉強熱心だからね。」




褒めてくれてる・・んだよね。

私のことをどうみているか、どんな風に赤羽さんの目に映っているのか、
私はいつの頃からか
そんなことを考えるようになっていた。



「あの、いつもすみません。
お仕事忙しいのに、貴重な休みの日をいただいて。」


「恋ちゃんいっつもそれじゃん。」



笑いながらそう言ってくれるけど、
やっぱり悪いなって思うんだもん。
でもお出かけはすごく楽しみで、その時間はすごく大事で、
貴重で、絶対に行きたくて。

ああ、わがままだよね、私。





「恋ちゃんは迷惑じゃないの?
俺と出かけるの。」



「いえっ全然!
すっごく楽しみにしているんです。
楽しみにしていて、昨日も眠れなくって。」


「へえ。それは良かった。
眠かったら着くまで寝ていてもいいからね。」



「いえいえ、せっかくのお出かけなのに寝てたらもったいないですよ。」




私は今日は、紺色のスカートにお気に入りの刺繍の入った白いブラウスで、少しだけお化粧もした。
まるで、好きな男の子とデートするみたいに。


たまたまだけど、赤羽さんも白いシャツに黒いズボンで、中にはエンジ色のTシャツを着ている。




「浅野くんは、俺と会うこと反対してない?」



唐突に聞かれた、がっくんのことで・・一瞬驚いた。
なんて答えたらいいのか、迷った。


「うー・・ん、初めは会うなって言われたけど、
今はなにも言われてないです。
もしかしたら、渚さんが何か言ってくれたのかも。」


「渚が?」


「はい、多分ですけど。」



私は、赤羽さんがもう会わないっていうんじゃないかと
少し心配しながら、言葉を選んで答えた。


「ふうん。そっか。
浅野くんとは中学の時から色々あったからなあ。」


「やっぱり、仲悪かったんですか・・。」




「うーん、仲が悪い、といえばそうだけど、
ライバルって言った方が正しいかもね。」




赤羽さんから、がっくんの話が聞けるとは思っていなかった。
在学中は、アイドル並みに女の子たちに騒がれていたみたいだったし、今だって女子生徒以外にも女の先生もがっくんに夢中。
それ以外でも、時々がっくんの家には女の人が訪れているようだった。



「ライバル・・ですか。」

「うん、そう。ライバル、だね。
勉強、スポーツ、全部の、、かな。」



「赤羽さんがすごいのがわかる気がしました・・。
がっくんて、本当に天才で、時々不安になるんです。
でもそのがっくんをライバルって言える赤羽さんは、すごいです。」



車を運転しながら、落ち着いて話をする赤羽さんは、
やっぱり大人でかっこよかった。



「すごくなんかないよ。
すごいのは渚の方だよ。」


「渚さん?」


「そう、ある意味敵わないかな〜。俺は。」




私は赤羽さんにすごいと言わせる渚さんを、すごいと思った。

渚さんは、優しくて、穏やかで、親切。
でも心が強いことはわかる。芯があって。




「恋ちゃんだって、すごいと思うよ?」


「え?」


「だって、いろいろわかってんじゃん。
俺の言ってる意味も、さ。」




赤羽さんに、そう言わせるものは私にはない。
でもそう言ってくれたのは、素直に嬉しかった。


「少し、休憩しようか。
何か飲む?」


いつの間にか着いていたドライブインで、
車を止めて休憩をすることにした。
もう出発してから45分くらい走っただろうか。




「もう少しだからね。」


「私、飲み物買ってきます。
何がいいですか?」



「一緒に行くよ。
学生なんだから奢られときな。」




そう言って頭にポンと手を乗せて、赤羽さんは風のように笑った。

うわ・・・


この笑顔が、


好き、なんだ。






背の高い赤羽さんに後ろから一生懸命ついてくと、
店員さんがメニュー表を渡してくれて、二人でそれを覗き込んだ。

「俺はホットコーヒーかな。
恋ちゃんは?」


「私はコーヒー飲めないので、紅茶にします。」


「じゃあ、これにしなよ。
これ俺のおすすめだよ。」


赤羽さんがオススメしてくれたのは、チャイクリームティーラテ。
うわあ、美味しそうだ。



カウンターで受け取ると、
外のデッキのところで二人で並んで飲んで、私はバックから携帯を取り出して広がる景色の写真を撮った。



「気持ちいいですね!」


「恋ちゃん、山とか好き?」


「好きですよ。東北の祖父の家は山が近かったので、
よくお散歩とかしていました。空気が違うっていうか、空気の流れが違うんです。」




「あー、わかるかも。それ。

今日山に行くから、苦手だと困るなあと思って。
先に言っておけばよかったんだけど。」




赤羽さんはサプライズ好きなんだと思う。
行き先はこの間の図書館の時も、最後まで内緒で、
私を驚かせた。



「じゃ、行こっか。」


「はい、お願いします!」





再び車に乗ると、そこから30分くらい走っただろうか。
そこから先は綺麗な景色を見ながらの、最高のドライブだった。

到着したその場所は、
広々とした高原の牧場で、入口の近くから牛や羊の姿が見えた。



「わー!すごい、羊がいる!」


私が興奮しているのを、子どもっぽいと思ったかもしれない。
でも、小さい頃に両親と来たのが最後で、
こういうところには縁がなかった。

すごく嬉しい。ワクワクする。



「恋ちゃん、こっちこっち、まずは入ろうよ。」


「はい、」





「どこから回ろうか。」

入場の時にもらったガイドブックを広げて、赤羽さんと一緒に見ると、この牧場かなり広そう。
ソーセージ作り体験や、パン工房、レストランやショップなんかもたくさんありそう。それに豚のショー!?
楽しそうなとこばかりだ。


「じゃあ、ここから行きたいです。」


まずは入口近くの羊の牧場を指差した。




「羊ね。了解!

さ、こっちだよ。」



赤羽さんが私の手を取った。
手を引いて、先を歩いてくれる。



「あ、、ショーンだ!
羊のショーンがいる❤」


黒い顔に白いモコモコの毛の羊。
私の大好きな羊がいっぱいいる!

「あ、こっちで餌やりできるみたいだよ。」

「やってもいいですか?」

「いいね。」



私は餌を一つ買って、羊に差し出した。
赤羽さんもそこから一つ取って一緒に差し出す。

羊は3頭やってきて、次から次へと餌を食べていって、可愛くて写真も撮った。
羊のショーンをバックに、赤羽さんとの2ショットも撮った。



やばい、すごい楽しいかも!







たくさん回ってお昼時になり、私たちは敷物を敷いてお弁当を食べた。
手作りのお弁当は、少し恥ずかしかったけど、
今日もすごく喜んでくれて、お弁当箱はすっかり空になって軽くなった。

そのままゴロンと芝生に寝転んだ赤羽さんは、
気持ち良さそうに目を閉じている。



私はその横で、暖かい日差しと風を感じた。

なんて、
穏やかな日々なんだろう。





二人とも、何も話さず
しばらくそのまま静かな時間を過ごした。


気を使う事もなく、
なんとなく自然に、

言葉がない方がいい感じがした。











どのくらい時間が経ったんだろうか。

むくっと赤羽さんが起き上がると、
次行こうか、とシートを手早く畳んで私の手を引いて歩き始めた。




赤羽さんと、手を繋いで歩く。

周りから見たら恋人みたいに見えるんだろうか。
それとも兄妹みたいに見えるかな。


アンバランスだろうか、
それとも少しはお似合いに見えるかな。



好き

そうはっきりと自覚していた。



もう自分をごまかせないし、
逃げることさえもできないって気がついていた。


この気持ちから、逃げれない。
逃げたくない。





握った手から、熱が伝わる。
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